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「対面で辞退」を望む企業は16%

山口浩駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授

就職活動の内定辞退についてちょっと前に別のところで書いたのだが、その続報的な何か。

この記事で取り上げた日経記事では「内定を辞退する際には直接会って言え」という謎ルールを推奨していたわけだが、実際に調べてみたら、企業の側でもそんなことは望んでいなかったようだ。

内定辞退は電話か対面か すれ違う企業と就活生 本社就活調査(上)

日本経済新聞 2019/6/16

大学4年生の就職活動が終盤を迎え、内定受諾後に辞退する「内定辞退」への関心が高まっている。日本経済新聞社は主要100社と、辞退経験のある入社1~2年目の若手社員を対象にアンケートを実施した。若手の約9割、企業の約7割が連絡手段は電話と答えたが、約2割の企業は直接対面しての辞退を希望した。

記事を見る限り「直接対面」を望んだ企業は約2割ではなく16%だが(まちがってはいないだろうが印象はだいぶ違う)、日経にとってこれは「不都合な真実」だったのか、なんとか強調しないように工夫して書かれている。代わりに電話での辞退を選択した就活生が多いことを強調していて、これが「礼儀」であると印象付けようとしている。

確かに一般論として、メールより電話の方がていねいであるという考え方は社会的に広く受け入れられている。しかしこの日経記事では、企業側が電話や対面での連絡を好む理由として、こう書いている。

16%の主要企業が対面を希望し、うち94%が「理由を聞きたい」と回答。50%が「説得の機会がほしい」と答えた。他人が内定者を装って辞退する「なりすまし」を防ぎたいとの声もあった。メールでの辞退を求める企業は5%だった。

理由が聞きたいというのは不採用にされた就活生側も同じだろう。この94%の企業はいわゆる「お祈りメール」できちんと不採用の理由を説明しているのだろうか。また50%の企業が「説得の機会がほしい」と回答したとのことだが、これこそまさに、学生が電話や対面での内定辞退を望まない理由だ。不採用にした学生が「説得の機会がほしい」と言ってきたら企業は1人1人聞くのだろうか?

グラフをみると、この他「社会人の対応として当然」という回答も「なりすまし防止」と同程度にある。電話や対面を「社会人の対応として当然」と考えるなら、不採用通知も「社会人の対応として当然」、電話や対面にすべきだろう。実際には多くの企業が不採用通知はメールで送っている。「お祈りメール」ということばがあるのはそのためだろう。調査方法が怪しげだが以下の記事ではこう書かれている。

【郵送・電話・メール】面接結果の合否を伝える連絡方法~採用・不採用通知が遅い・どれくらいで届くかの疑問を解決~

キャリアパーク!就活 2017年07月25日

就職・転職の合否連絡は、不採用だとメールか書面で郵送、採用の場合はその後の選考の話をするので電話が一般的です。

そもそも不採用通知を送らない企業すら珍しくない。上掲日経記事には「サイレント辞退」に苦言を呈する企業が2割であったのに対して、企業からの「サイレントお祈り」を経験した就活生が63%、という数字も書かれている。この格差を何事でもないかのように書いていることにこそ、この問題の本質がよく表れている。

日経記事はこうしめくくっている。

売り手市場を背景に、就活生の中には「学生と企業は対等な立場」との意見もある。従来は選ぶ側の企業と選ばれる側の学生という構図が中心だったが、「内定者が企業を選ぶ」という意識も広がりつつあると就職コンサルタントの福島直樹氏は指摘する。学生の変化に企業が戸惑う側面もあるようだ。

なんとか企業側に意識変革を促そうということだろうか。いいたいことはわかるが、「学生と企業は対等な立場」なのは「売り手市場」だからではない。そもそも対等であるべきだからだ。「内定辞退は対面で」と希望した16%の企業は、そうは考えてはいないのかもしれないが。

提案だが、「対面」を希望する企業は、その社名を自ら明らかにして、募集要項にもそう書いておくといいと思う。売買契約などの際にはキャンセルの場合どうするかを定めておくのが当然だ。内定辞退もそうするといい。対面での辞退を望まない就活生はあらかじめその会社を避けるだろうから、学生も企業も、お互いにハッピーになれる。ぜひご検討を。

駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授

専門は経営学。研究テーマは「お金・法・情報の技術の新たな融合」。趣味は「おもしろがる」。

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