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人気の「朝ドラ」、NHK流の秘策があった!

山田美保子放送作家・コラムニスト・マーケティングアドバイザー
朝ドラ『半分、青い。』の主演を務める永野芽郁(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 視聴率を獲得するため、連続ドラマは、いかに初回を見てもらうかが鍵となる。そのため近年は、キャストが登壇する会見と初回の試写を合体させるのがトレンド。映画館や劇場などを貸し切って、マスコミと一般ファンとが同じ空間で同時に見るという、映画の“完成披露試写会方式”がとられているのだ。

 では、平日+土曜日の2クールという長丁場の「NHK連続テレビ小説」(以下、朝ドラ)の場合はどうかというと、初回はもちろんだが、第1週の6日間、いかに視聴者を離れさせない魅力あふれるキャストをちりばめるかがポイントになってくるのだ。

 その意味で、4月2日にスタートした「2018年度上半期作品」の『半分、青い。』は、近年まれに見る工夫の凝らし方だったと思う。

ポイントになる女優陣がズラリ

 まず、ヒロイン・永野芽郁(役名・鈴愛)の家族が豪華極まりない。両親役が滝藤賢一と松雪泰子で、祖父母役が中村雅俊と風吹ジュン。同じ日に誕生した幼なじみ、佐藤健(役名・律)の両親役は谷原章介と原田知世だ。

 さらに第1週、視聴者に「画期的」と言わせたのは、ヒロインが母の胎内にいるシーン。そこで活躍したのは、鈴愛と律が生まれた岡田医院の女医役・余貴美子だった。

 視聴率をV字回復させた2010年から朝ドラファンになった若年視聴者の多くは、恐らく声を上げたと思う。まず、風吹ジュンは、波瑠主演の『あさが来た』で玉木宏の母親役を好演していた。実は『ひまわり』や『ほんまもん』にも出ていたのだが、03年『年下の男』(TBS系)のように、娘(稲森いずみ)が思いを寄せていた男性(高橋克典)から見初められるという“生々しい現役感”を持った熟女もやれる風吹による老け役は実に新鮮だった。

 そして原田知世は、『おひさま』でヒロイン・井上真央の母親役だったし、余貴美子は夏菜主演の『純と愛』第2部でホテル・里やの女将役を演じた。

 つまり、2010年以降の朝ドラで、ヒロインの人生に影響を与えた女優陣がいきなり顔をそろえたというワケ。

 朝ドラ第1週目はおおむね子役ウィークであるため、『あさが来た』の鈴木梨央のように顔なじみが出ていれば別だが、たいていはヒロイン登場までの“我慢の一週間”ともいえる。

 『半分、青い。』では、演技はもちろん、それぞれの家庭にピッタリなキャラクターの子役たちが配されていたものの、視聴者を釘付けにしたのは、件の3女優に加え、鈴愛の母親役・松雪泰子だったのではないか。この先の朝ドラで松雪がどんな活躍をするか、いまから楽しみだ。

別枠ドラマに起用するパターン

 こうして、近年の朝ドラは、豪華なうえ、朝ドラのお客に”なじみの顔“をそろえることが“勝ちパターン”になっているのだ。そうそう、鈴愛と律が通う小学校の担任役は、『甘辛しゃん』でヒロインを演じた佐藤夕美子だったこともネットを騒がせた。約20年ぶりの朝ドラ出演だったそうで、古いファンも喜ばせるNHKなのである。

 

 NHKのドラマといえば、朝ドラと大河ドラマが代表格ではあるが、「よるドラ」、「土曜時代ドラマ」、「ドラマ10」、BS「プレミアムドラマ」と多くのドラマ枠があり、最近は朝ドラで好演した俳優をこうした別枠ドラマに主演させたり、重要な役に配したりするパターンも生み出している。

 

 もっとも、分かりやすいのは『花子とアン』でヒロイン・吉高由里子の夫役を演じ、名前と顔を全国区にした鈴木亮平が今年、大河ドラマ『西郷どん』で主演をしている例だ。

 『西郷どん』といえば、『あまちゃん』で好演した橋本愛が第7話と第8話に出演して話題を呼んだが、橋本は『あまちゃん』の前年、ドラマ10『はつ恋』で木村佳乃の少女時代を好演。その美少女ぶりでも話題を呼んだ。

MCやナレーターとして育てる

 『あまちゃん』では、GMTのリーダー役だった松岡茉優が、後にドラマ10『水族館ガール』に主演。さらには『めざせ!2020年のオリンピアン』の司会を、「ネプチューン」の原田泰造と担当していたこともある。

 『あまちゃん』、司会といえば、アメ女のセンター・マメりん役だった足立梨花は現在、『土曜スタジオパーク』の司会をしている。

 そして、朝ドラ『純と愛』でヒロイン・夏菜の夫役を演じ、全国区となったのをきっかけに、Eテレの『ハートネットTV』『ブレイクスルー』の司会を経て、パラリンピックの現地リポーターを2大会連続で務めているのは風間俊介。『純と愛』で風間の妹役を演じた岡本玲は、「関ジャニ∞」のメンバーがナビゲートしていた『応援ドキュメント 明日はどっちだ』のナレーターを担当していた。

 

 つまり、ドラマ枠のみならず、情報番組や番宣番組のMCやナレーターなどに起用し、さらに“自局の顔”として育て、定着させるのが、昨今のNHKの確信犯的パターンでもあるのだ。

NHK流…実にお見事!

 話を『半分、青い。』に戻すと、筆者がもっとも活躍を期待しているのが鈴愛の同級生で大金持ちの「西園寺家」の息子役・龍之介を演じる矢本悠馬だ。矢本は子役や「大人計画」を経て、現在、ドラマや映画の青春群像劇には欠かせない若手俳優だが、朝ドラ『てるてる家族』で杉浦太陽の少年時代を演じたことがある。全国区になったきっかけも朝ドラ『花子とアン』。ヒロイン・吉高由里子の同級生役で、この時も、裕福な地主役のカンニング竹山の息子役だった。

 もう1人、“鈴愛の生涯の親友役”として「東京編」に出演することが決まっている清野菜名と矢本悠馬は、主演も脇もやれる若手俳優として、現在、映画やドラマから引っ張りだこ。器用さやキャラクターを含め、他枠のNHKドラマや情報番組のMC、リポーター、ナレーターなどにも最適と、私は見ている。

 

 NHK流、“御用達俳優”の売り方、実にお見事である。

放送作家・コラムニスト・マーケティングアドバイザー

1957年、東京生まれ。初等部から16年間、青山学院に学ぶ。青山学院大学文学部日本文学科卒業後、TBSラジオ954キャスタードライバー、リポーターを経て、放送作家・コラムニストになる。日本テレビ系「踊る!さんま御殿!!」、フジテレビ系「ノンストップ!」などの構成のほか、「女性セブン」「サンデー毎日」「デイリースポーツ」「日経MJ」「sippo」「25ans」などでコラムを連載。「アップ!」(名古屋テレビ)などに、コメンテーターとしてレギュラー出演している。

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