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トランプついに「(コロナは)改善前に悪化」と記者会見。なぜメディアは事実をそのまま伝えないのか?

山田順作家、ジャーナリスト
支持率低下でコロナに対する認識変更をせざるをえなくなったのか?(写真:ロイター/アフロ)

 メディアは、どこまでもありのままの事実を報道すべきだ。目の前で起こっていることを、そのまま伝えなければならい。

 ところが、アメリカでも日本でも報道は正確さを欠いている。それを痛感させられたのが、21日(米国時間)に行われたトランプ大統領の「コロナ記者会見」(coronavirus briefing)だ。彼は、この会見を3カ月にわたって中止し、その間、言いたいことを、ツイッター、テレビ、集会などで言いまくってきた。コロナ・パンデミックに関しては事実と違うこと、自分勝手な認識ばかりを披露してきた。

 

 しかし、今回は違った。

 トランプは「状況はよくなる前におそらく悪くなる(get worse before it gets better)。言いたくないがこれが現実だ」と、自ら振りまいてきた楽観論を否定したのである。さらに、マスク着用についても「好き嫌いにかかわらず効果がある」として、ポケットからマスクを取り出してみせた。いまだに、マスクをするかしないで論争になるのだからアメリカはどうかしているが、トランプがマスクを認めたことで、今後、コロナ対策が大きく変わる可能性がある。

 ただし、この会見に、常連のアンソニー・ファウチ氏(NIAID所長)やデボラ・バークス氏(新型コロナウイルス対策調整官)は姿を見せなかった。それを思うと、アメリカは日本と同じく、この先も、無策無能のコロナ対策を続けるかもしれない。

 さて、ここから、メディア報道の不正確さに入るが、以下の報道を読んで、このどこが事実と違うかわかるだろうか?

【NHKNEWS WEB】トランプ大統領は、21日、ホワイトハウスで、およそ3か月ぶりに新型コロナウイルスに関する記者会見を開きました。この中で、「残念なことだが、おそらく状況はさらに悪化し、改善にはまだ時間がかかるだろう」と述べ、アメリカ国内での感染状況について厳しい見方を示しました。

【日本経済新聞】トランプ米大統領は21日、新型コロナウイルスに関する記者会見を3カ月ぶりに開いた。今後の見通しについて「状況は良くなる前におそらく悪くなる。言いたくないがこれが現実だ」と語り、これまでの楽観的な見方を修正した。

【ロイター】トランプ米大統領は21日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、社会的距離を維持できない場合には、マスクを着用すべきだと述べ、これまでの方針を転換した。ホワイトハウスでの記者会見で語った。

 一読すると、間違いなどない。ちゃんと事実を伝えているではないかと思う。しかし、実際には、トランプは、これらの記事にあるコメントを、「述べた」り「語った」りはしていない。用意されたペーパーに目を落とし、それを読んだだけだ。

 

 このことをちゃんと指摘したのは、数あるメディアのなかで「CNN」のアンカー、クリス・クオモ氏だけだ。彼は「(トランプは)用意された原稿を読んだだけ」と視聴者に向かって語った。自分の言葉で伝えるのと、原稿を読んで伝えるのとではまったく違う。アンチ・トランプを報道姿勢にしている「CNN」だから当然かもしれないが、クオモ氏の伝え方は事実報道そのものだ。

 ただ、彼はそう語った後、トランプが「それでもそういう原稿を読もうとしたことは評価できる」と続けた。

 ちなみに、「ワシントンポスト」も「CNBC」も、見出しに「said」(言った)を使っていた。日本のメディアだけが、不正確なのではない。トランプは、7月4日の独立記念日の記者会見では、「(99%の症例は)完全に無害」(totally harmless)と言っている。これは、自分の言葉だ。

 原稿を読むといえば、安倍晋三首相も“得意”だ。得意というか、原稿やプロンプターがなければ、記者会見ができないと言っていい。

 緊急事態宣言が解除された後、5月25日の記者会見を思い出してほしい。

「わが国では緊急事態を宣言しても罰則を伴う強制的な外出規制などを実施することはできない。それでもそうした日本ならではのやり方で、わずか1か月半で今回の流行をほぼ収束させることができた」とし、さらにこう続けた。「まさに日本モデルの力を示したと思う。すべての国民のご協力、ここまで根気よく辛抱して下さったみなさまに心より感謝申し上げる」

 いまとなれば、「日本モデル」など、一国民としても恥ずかしくてとても言えないが、それすら、首相は原稿を読んでいるのだ。

 首相は原稿を用意して記者会見、都知事はボードをつくらせ、それを掲げて横文字連発(最近はボキャ貧のよようだ)の記者会見。これでは、感染拡大が止まるわけがない。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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