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日本は本当に「持ちこたえている」のか? NYタイムズ記事に見るアメリカのPCR検査の実態。

山田順作家、ジャーナリスト
ロックフェラーセンターは人っ子一人いなくなった(3月21日、著者の友人撮影)

 ニューヨークタイムズ(NYT)紙は、これまで何度かPCR検査の実態を記事にし、検査数を増やせと訴えてきた。その結果、ニューヨーク州は全米の州のなかで確認された感染者数(confirmed cases)がいちばん多い州になり、いまや連日1000人以上の新型コロナウイルスの感染者が確認されるようになった。

 それに比べ、日本はどうだろうか? 確認された感染者数は1日平均30〜50人ほどだ。

 ニューヨーク州の人口は約2000万人。日本の人口の約6分の1である。そこで、連日1000人以上の確認された感染者が出ていることを思うと、日本のあまりの少なさに疑問を持たれる人も多いのではなかろうか?

 確認された感染者数の少なさをもって、政府も専門家委員会も「(日本は)持ちこたえている」としている。

 が、はたしてこれは本当なのか? そもそも検査数を絞りに絞って、症状がひどくならないと検査していないのだから、なんの根拠もないのではなかろうか?

 

 ということで、ではアメリカではどのようにPCR検査が行われているのか? NYT紙の記事から見てみたい。特筆すべきは、なんと記者がやっとのことで検査を受け、陽性(positive)になった体験手記が掲載されたことだ。

 この体験手記(「My Coronavirus Test: 5 Days, a Dozen Calls, Hours of Confusion」)は、3月18日(水)に掲載された。書いたのはティム・エレーラ記者(33)。 

 エレーラ記者が悪寒と咳に見舞われたのは11日(水)の朝。体温を測ると、2回目で100.2度(38.9度)。すぐにホームドクターに連絡を取ると、「urgent care office」(予約なしで診てくれる病院)でテスト(検査)を受けるようにと言われる。ただし、電話に出た女性は、「(場所は)グーグルに聞けば」と言い、「City MDがテストをやっている」と付け加えた。

 City MDというのは、アメリカ東部に展開している病院チェーンで、予約なしで入れるので人気のクリニック。ニューヨークには何カ所もあり、「Walk-In Clinic」(歩いて行けるクリニック)と呼ばれて人気だ。

 さっそく、近所のCity MDに電話すると、「テストはやっていない」との返事。そこで、今度は、ニューヨーク市の公共医療システム「NYC Health and Hospitals」に電話するも1時間待ってもつながらず、この間、ルームメイトがCDC(アメリカ疾病管理センター)に電話してくれた。その間に、体温は101.7度(39.7度)に上昇。やっと「NYC Health and Hospitals 」につながったが、「14日間、自己隔離を」(Isolate for 14 days)と言われる。これで「だめだ」と諦めたが、コールバックがあり「明朝、検査を受けるように」と言われる。

 こうしてエレーラ記者は、12日(木)朝、ルームメイトと40分歩いて指定の病院に行った。公共交通やタクシーは禁止されているので、歩くしかなかった。 

 病院の特別の入り口の前で待機していると、看護師からマスクを渡され感染者専用の待合室に通された。1時間して、ようやく通常の診察室へ。医者は別室から電話で症状とこれまで誰と接触したかと聞いてきて、次にガウンと手袋に呼吸器具を付けた完全装備姿で現れた。

 エレーラ記者とルームメイトは、綿棒を1本ずつ両方の鼻の奥に入れられてCovid-19のテストを受け、同時にインフルエンザの検査もさせられた。テスト後、看護師が来て、「自己隔離を続け、症状が悪化したら911に連絡するように」と言い残して出ていった。

 以後、エレーラ記者は自宅で隔離生活。病院からオンライン経由で結果を知らされたのは4日後の16日(月)の午後6時。結果は「陽性」だった。エレーラ記者は、いま、自然治癒を待つだけという。

 

 このような経緯を見ると、アメリカも日本と同じように、なかなか検査を受けられないように思える。ただ、そのハードルは日本のように「37.5度以上4日間」というほど高くはない。また、日本のように病院をたらい回し、保健所が検査を認めないということはないようだ。

 エレーラ記者が検査を受けた週、ニューヨーク州のクオモ知事は1日に500件まで検査を可能にし、クラスターが発生したニューヨーク郊外のニューロシェルでは、全米で初の「ドライブスルー検査」をスタートさせた。

 

 NYT紙は、20日(金)にも、PCR検査の実態を取材した記事を掲載した。この記事「The Experience of Getting Tested for Coronavirus」によると、検査は全米各地でさまざまなかたちで行われているが、まだまだ数が少ないという。アメリカはホームドクター制なので、症状が出たらまずホームドクターに連絡する。あるいは、近所の「urgent care office」に行く。または、公共のウエブサイトで検査してくれるところを探す。これが、最初のステップだ。

 ワシントン州エヴェレットに住むキュリオス氏は妻と2人でウエブサイトを通して検査を予約し、翌日には検査を受けられた。指定のクリニックに行くと、マスクをくれ、3つの質問を受けた。直近4日間で100.4度以上の熱が出たか? 風邪と同じような咳、鼻水、喉の痛み、呼吸の苦しさが4日間続いたか? 感染発症者とクローズドコンタクト(濃厚接触)を取ったか、あるいは過去30日間でアメリカやカナダの外で感染発症者と接触したか?というもの。

 その後、受付で自分の分の30ドル、妻の分の50ドル払い、順番を待って検査を受けた。

 ミネソタ州ミネアポリスでは、まだ、検査はすぐに受けられないようだ。金融アナリストのアラン・エドワードは、近所の「urgent care office」に行ったが、スタッフに「熱が高くなり呼吸器の症状(respiratory symptoms)がひどくなったら戻ってくるように」と言われて追い返された。

 その後、本当に悪化し、咳がひどく、胸が痛むので「urgent care office」に行ったが、なんと閉まっていた。それで、仕方なく「emergency room」に駆け込んだ。「emergency room」は略称「ER」。「urgent care office」より緊急性が高い病院だ。ただし、診察料はバカ高い。

 現在、アメリカは徹底して検査数を増やしている。アメリカの新型コロナウイルス対策のタスクフォースの一員で米国立保健院傘下の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長は、連日、トランプ大統領とともに記者会見に臨み、テレビに出ては国民に強いメッセージを発している。

 15日のNBCテレビの「Meet The Press」では、「私たちはできる最大のことをしたい。私たちは大いにやり過ぎになるべきだと思う。やり過ぎで批判されるほうがいい」と述べた。また、20日のCNNの特別番組のインタビューでは、「検査をさらに増やしていく」と述べた。

 すでに議会では、コロナウイルス感染拡大に対処するための総合対策法案が成立しており、このなかには検査無償化が盛り込まれている。

 ニューヨーク州のクオモ知事は21日、ニューヨーク州の検査数が人口比で中国や韓国より多く、検査総数もカリフォルニア州やワシントン州の倍近くなったと発表。「感染者を見つければ隔離でき、拡散阻止につながる。だから感染者を探している」と指摘した。

 日本では、できるだけたくさん感染者を見つけて隔離すれば感染拡大が防止できるという考え方は、ほとんど聞かれない。検査拡大は医療崩壊につながるとして、ほぼ否定されている。また、早期治療も否定され、重症者を重点的に救うという方針が貫かれている。

 そのため、厚生労働省のHP(3月21日現在、最新)には、検査数が次のように公表されている。

「2月18日~3月19日までの国内(国立感染症研究所、地方衛生研究所等)における新型コロナウイルスに係るPCR検査の実施件数は、37,726件※。3月20日分は、現在集計中。※3月19日までに自治体等から回答があった数の合計であり、順次アップデートされるため、数値が変動する。」

 1カ月間で3万7726件ということは、1日平均1250件である。韓国は1日でこの10倍を行っている。アメリカも最近は韓国並みの件数に近づいてきた。その結果、2月21日現在の、主要国の確認された感染者数、死亡者数、致死率は次のようになっている。

アメリカ:感染者2万2177人、死亡者278人、致死率1.2%

イタリア:感染者5万3578人、死亡者4820人、致死率8.9%

フランス:感染者1万4459人、死亡者562人、致死率3.8%

イラン:感染者2万610人、死亡者1556人、致死率7.5%

中国:感染者8万1008人、死亡者3255人、致死率4.0%

韓国:感染者8799人、死亡者102人、致死率1.1%

日本:感染者1030人、死亡者36人、致死率3.4%

 これをもって「(日本は)持ちこたえている」と、本当に言えるのか? 専門家委員会は「オーバーシュート」などという言葉を持ち出して、後の責任逃れとしか思えない感染爆発を警告した。これは、明らかに「持ちこたえている」という見解と矛盾している。専門家委員会の結論なき報告をへて、安倍首相は学校再開に舵を切り、自粛ムードが緩和されつつある。

 日本には他国にない充実した医療システムと、検査のポテンシャルがある。なぜ、それを使って、本当のところはどうなっているのかを徹底して調査しないのだろうか?これでは、国民の不安感は高まるばかりだ。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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