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なぜしない国民の海外渡航禁止。このままでは東京五輪の中止は決定的に!

山田順作家、ジャーナリスト
たった30分ほどの会見は中身がないことを物語るのでは?(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ政権は、2月29日の記者会見で、新型コロナウイルス(COVID19)の感染拡大防止のため、イタリアや韓国の一部地域への渡航中止を勧告し、国務省は、渡航警戒レベルを4段階中最高の「渡航中止」(レベル4: Do not travel)に引き上げた。同時に、イランからの入国拒否も発表した。

 日本は、感染拡大がまだイタリア、韓国レベルではないとし、今後の感染拡大が防止されると判断され、引き上げには至らなかった。ただし、今後の状況次第では、引き上げは確実だろう。

 現在、日本は、国務省の渡航警戒レベルはレベル2で、これは「注意強化」(Exercise increased caution)を意味し、マカオ、香港が指定されている。これが、レベル3になると、「渡航考慮」(Reconsider travel)になる。

 すでに、アメリカ企業は、レベル2を受けて社員の日本出張を見合わせ、旅行会社も日本ツアーの募集を止めている。ユナイテッド航空は日本便の減便を決めた。

 よって、レベルが引き上げられれば、アメリカ人は日本にやって来なくなる。こうしたことは、アメリカだけではなく、全世界の国々で起こる。

 そこで、日本がやるべきことは、世界から渡航禁止に指定される前に、自ら自国民の海外渡航、海外旅行を制限・禁止することだ。そうしなければ、措置が甘いと判断され、世界からの信頼を失う。

 それなのに、日本政府は動かない。すでに、海外旅行は旅行社や予定客の一部で自粛されているが、政府が動かなれば、国民は動きようがない。日本人が海外に行くことは、「ウイルスをバラまいている」として非難されるだろう。

 いまや、東京五輪が開催できるかどうかの瀬戸際にきていて、政府もメディアも、関係者の発言に一喜一憂している。IOCのバッハ会長が、「日本は真剣に取り組んでいる」とし、予定通り行う意向を示したことに、政府もメディアほっと一息しているようだが、それは単なる希望的観測だ。なぜなら、五輪が開催できるかどうかの引き金を引くのは、アメリカの渡航警戒情報だからだ。日本がレベルを引き上げられれば、選手はおろか観光客まで来ない。現段階のレベルでも無理だ。

 よって、警戒レベルが引き上げられたとしても、それがいつ解除されるかがいちばん大きな課題になる。はたして、今後、それがいつになるかは、日本の取り組みにかかっている。

 中国の習近平国家主席の来日が問題視されているが、これも警戒レベルが引き上げられれば、中止せざるをえないだろう。日中の外交的思惑や国内世論とは関係ない。

 

 以上のような状況なのに、政府とメディアの認識は甘い。中国は、1月25日の時点で、国民の海外団体旅行を禁止した。これを受けて、1月27日、アメリカ国務省は渡航情報を1段階引き上げてレベル3にし、2月1日はレベル4にした。いまさら、中国の対策、情報統制を非難しても日本が得るものはなにもない。中国は自ら、これ以上「世界の感染源」になることをストップさせたのだ。

 昨日(1月29日)の安倍首相の記者会見は、具体策に乏しかった。小中高校などのいっせい休校に踏み切った判断への理解を求め、「政府の力だけでこの戦いには勝利できない」と精神論を強調した。これでは、まるで戦時中の日本政府と同じではないか。小中高校などのいっせい休校では対策として甘すぎる。国内の人の移動を制限するため、観光旅行の中止、あるいは感染地域の封鎖なども、できる限り実行すべきだ。

 残念なことに、記者会見は、あらかじめ用意された質疑応答のなかで行われ、30分ほどで「時間が来ました」で打ち切られた。江川紹子氏の「まだ質問があります」という声は無視され、首相は自宅に帰ってしまった。 

 首相は、「決断した以上、私の責任で万全の対応を取る」と述べたが、本当に万全の対応が取れるのだろうか?

 

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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