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金正恩を「すごく高潔な人物」とトランプ大統領が驚愕発言。「狂人理論」なのか「本音」なのか?

山田順作家、ジャーナリスト
マクロン仏大統領も驚いたのではないか?(写真:ロイター/アフロ)

 4月24日(米国東部時間)、ついにトランプが“ロケットマン”金正恩を「とても明け透け」(very open)で「とても高潔」(very honorable)な人物と言い出した。

 “Kim Jong-un, he really has been very open and I think very honorable from everything we're seeing.”

(金正恩はマジでとても明け透けで、これまで見てきたところ、とても高潔な人物だとオレは思うよ)

 これを聞いた仏マクロン大統領は、言葉を失うほかなかったろう。なにしろ、これはホワイトハウスで行われた米仏首脳会談のときの記者団に対しての発言である。進展中?)の米朝首脳会談に関する見解を述べるだけでいいものを、金正恩に対する個人的な見方を言う必要があるのだろうか?

 この大統領は、さらに首脳会談に関して、アメリカ側は北朝鮮から、「できるだけ早期に会合を持ちたいと直接伝えられている」とも言い、金正恩はオレに会いたがっているようなニュアンスを持たせたうえ、こう言った。

 “I think we have a chance of doing something very special with respect to North Korea-- good for them, good for us, good for everybody.”

(思うに、北朝鮮に関して、敬意をもってなにか特別なことをするチャンスがある。彼らにとって、われわれにとって、そして、みんなにとってよいことだ)

 当然だが、これを伝えた多くのメディアは、「大統領はあまりに楽観的だ」と批判した。ただし、いまだ根強いのは、これはトランプの「本音」なのではなく、交渉のための「戦略」だという説だ。

 ひと言で言えば、トランプが「狂人」(madman:マッドマン)を装っているということ。つまり、なにをするのかわからないとを相手側に植え付け、その恐れから譲歩を引き出すというもので、これは「狂人理論」(madman theory)と呼ばれている。

 トランプの熱烈な支持者は、人種差別主義、反イスラムを掲げているが、じつはそれは見せかけで、「アメリカ第一主義」(America First)を実行するための戦略。本人の頭の中は“正常”だと言う。

 

 「狂人理論」は、かつてニクソン大統領が好んだ戦略で、ベトナム戦争でこれを実行したが、それ自体は成功しなかった。なぜなら、相手はニクソンの戦略を見破り、合理的な判断をせず、死を賭けて戦い抜いたからだ。

 トランプは若い頃、ニクソンから賞賛の手紙をもらい、以後、ニクソン信奉者になった。ニクソンは、ベトナム戦争を終結させ、中国を抱き込んで、ソ連とのデタントへの道筋をつけた「偉大な大統領」だが、それと同じように自分が振る舞えると信じているようだ。

 はたして、トランプ発言は「狂人理論」に基づくものなのか? それとも、ほとんど直感(なにも考えない)で発言・行動し、自分を“天才”(genius)と言う老人の「本音」なのか?

 そのどちらとしても、日本にとって危惧されるのは、「アメリカ本土優先論」に立って、北の核保有を非公式に認めたうえで、「とても高潔」(very honorable)な金正恩と握手することだ。このときは、アメリカにICBMを撃たないことと国際機関の査察を受け入れることだけで、彼の体制を保障してしまうだろう。

 そして、もしトランプが本当に「マッドマン」だったなら、日本はどうなるのだろうか?

 今回もまた、トランプは「うまくいかなかったら席を立つ」と付け加えた。“(if Kim doesn’t agree to something)fair and reasonable and good, I will, unlike past administrations, I will leave the table.”(もし金正恩がフェアで理性的でいいことに賛同しないなら、過去の政権とは違って、オレは席を立つ)

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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