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安保法案「米要望通り法制化」記事(東京新聞)の信じがたき誤解。

山田順作家、ジャーナリスト
tributary to U.S.A.(写真:Yuriko Nakao/アフロ)

9月22日付の東京新聞記事「これからどうなる安保法(1)米要望通り法制化」が波紋を呼んでいる。新聞がおそらく初めて「日本がアメリカの属国」であることを書き、その要望通り安保法案を成立させたことを批判したからだ。

東京新聞記事が言うように、安保法案の内容はアメリカの日本担当者が2012年にまとめた「アーミテージ・ナイ報告書」そのものである。つまり、国会で山本太郎議員が、「(安倍政権の政策は)そっくりそのままだ。こういうのを完全コピー、『完コピ』と言う。すべて米国の要求通りに行っている。独立国家と呼べるのか」と爆弾発言したことの後追いだ。

東京新聞が、山本発言を後追いしてまで言いたかったことは、記事の最後の部分に書かれている。

《違憲の指摘にも、国民の反対にも耳を貸さず、集団的自衛権の行使容認に踏み切った安倍政権。米国から具体的な要求を受けた時、主体的に判断できるのか。報告書と、安保法をはじめとする政権の政策の関係を見る限り、疑問と言わざるを得ない。》

しかし、この記事の指摘と批判は、そもそも成り立たない。

なぜなら、日本は《米国から具体的な要求を受けた時、主体的に判断できる》権利を持っていないからである。なぜ東京新聞は、こんなことを知らないのだろうか? なぜ東京新聞は、「日本が独立国家」だと思い込んでいるのだろうか?

日本は、そもそも独立国家ではない。独立国家には、「国内統治権」と「対外主権」の二つが絶対必要である。これが、いわゆる「主権」=「ソブランティsovereignty」というものだが、日本はこのうち対外主権を国際法上持ち合わせていないのだ。

日本は、第二次大戦で連合国に完敗して降伏したのだから、当然だが二つとも失った。この消滅のうえに成り立ったのがアメリカ制作の日本国憲法で、その後のサンフランシスコ平和条約で、日本は“国内的”には独立したことになっている。しかし、サンフランシスコ平和条約では、二つのうちの「国内統治権」しか認められていない。

サンフランシスコ平和条約は、どう読んでも、日本の「対外主権」を強く制限している。条約に示されている日本の主権の概念は、独立国家が持つ主権とは言いがたく、いわば「自治権」のようなものである。アメリカ流に言えば、連邦政府に対して州が持つ「自治権」である。

日本は国というより、アメリカの一州、あるいは自治領のように扱われている。東京新聞はもう一度、サンフランシスコ平和条約を読み直すべきだろう。

対外主権がないというのは、日本は独自で外交できないとうことである。もっとはっきり言うと、日本の外交はアメリカを通さないとできないことになっている。さらに言えば、対外主権の最も重要な戦争をする権利(戦争自体はパリ不戦条約で禁止されている)を持っていない。

つまり、今回の安保法案の審議と可決はリーガル・フィクション(法的偽装)である。憲法とサンフランシスコ平和条約のどちらが上かといえば、国際条約であるサンフランシスコ平和条約である。つまり、憲法9条は意味をなさず、憲法を「平和憲法」などと日本人が信じ込んでいることも無意味だ。

教科書には「日本はサンフランシスコ平和条約により独立しました」と書いてあるが嘘である。このことを国民に教えてこなかったから、こんな新聞記事が書かれるのだ。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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