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空でも進む「日中逆転」! 羽田空港の国際線拡充も焼け石に水か?

山田順作家、ジャーナリスト

■国際線拡充の楽観的報道に「?」

羽田の国際空港化が加速している。この3月30日から、国際線ターミナルが大幅に拡張され、それに伴い、これまでソウル、北京、上海などアジアの中距離路線のみだった昼間の便に、ロンドンやパリなどへの長距離便も加わる。

それで、メディアは「これまで韓国の仁川空港に奪われていた乗り継ぎ客を奪い返せる」「東京五輪に向けてさらに拡充を」などと報道している。

しかし、残念ながら、この程度では焼け石に水で、いくら東京オリンピックがあろうと、日本の空港は、もうアジアのハブにはなり得ないのではと思う。

というのは、まず、羽田と仁川空港や北京国際空港などを比べると、まだ圧倒的な差があること。次に米航空3社の日本離れが進んでいること。さらに、日本人の海外旅行者数が年々減っていることだ。

■羽田空港とアジアの空港との圧倒的な差

では、仁川と羽田を比較してみよう。2012年の国際線の利用者数は、羽田が795万人で仁川が3835万人。なんと約4倍もの差がある。次に就航都市の数だが、羽田が18都市、仁川が175都市で、こちらは約10倍も差が開いている。また、空港着陸料金は羽田が72万円で、仁川が26万円。こんなに韓国に差をつけられたことに驚くと同時に、この差が簡単に詰まるとはとうてい思えないのである。

北京国際空港、上海浦東国際空港、香港国際空港、バンコク・スワンナプーム国際空港、シンガポール・チャンギ国際空港にしても、成田や羽田と比べたら、仁川と同じく圧倒的な差がある。しかも、成田はいまだに24時間空港になっていない。

東京五輪に向けて羽田にもう1本、滑走路をつくる案も出ているが、遅すぎると言っていいだろう。それに、五輪といってもたった2週間だけのこと。もっと全体を見た投資でないと、五輪後の客数減で、日本の空は壊滅してしまうかもしれない。

■ユナイテッドもデルタも成田発を減便

空港というのはいくら設備を充実させても、飛行機が飛んでこないことにはどうしようもない。実際、もう成田ではこれが起こっている。とくに米航空3社は、成田からのアジア便から次々に撤退している。

たとえばここ1~2年、ユナイテッド航空は、日本経由のアジア路線を減らしている。2012年10月から成田−台北便がなくなった。そして、2013年10月からは成田−香港便もなくなった。また、この3月でバンコク便も運休になった。

この結果、日本からのユナイテッドのアジア便は、ソウルとシンガポールだけになってしまった。このままいくと、おそらく日本発のユナイテッドの路線はアメリカ向けだけになるだろう。

デルタ航空は、もう日本を素通りして中国を強化することに方針を変更している。成田を経由しないで米本土からアジアへの直行便に力を入れている。デルタは明らかに日本軽視・中国重視で、中国東方航空、中国南方航空との関係を強めてきた。

■ついに空でも「日中逆転」が起こった

デルタはアジア向けのハブとしてシアトルを使っているため、日本を素通りさせたアジア直行便を飛ばしやすい。現在、シアトルとデトロイトから北京と上海へ直行便を飛ばしているが、今後は、シアトルからソウル、香港へも直行便を飛ばすという。

さらに、日本人観光客向けのハワイ、グアム、サイパン路線は減らしていくという。

アメリカン航空も、日本向けの太平洋路線の減便を続けてきた。その一つとしてこの4月4日からは、成田−シカゴ線を週7便から5便に減便した。

なぜこうなったかと言えば、あまりに単純だ。日本人の海外旅行客が減り続けてきたからだ。とくに、20代の若年層に限っては、2000年前後から減少傾向が続き、ピーク時の半分ぐらいまで落ち込んでいる。その反面、中国の海外旅行客は年々増え続けている。これでは、空で「日中逆転」が起こるのも当然だ。

■日本はやはり「ナッシング」なのか?

米航空3社が「ジャパン・パッシング」(日本素通り)するのも仕方がないと言える。なにしろ、オバマ大統領夫人まで娘と母親を連れて、なんと1週間も中国旅行を楽しんでいるのだ。

これは、ジャパン・パッシングと言うより、「ジャパン・ナッシング」(日本は興味を引くものがないから無視しよう)かもしれない。

このようなことを思うと、歴史認識だの、慰安婦だの、尖閣だの言っている場合ではないと思うが、なぜか日本は危機意識が薄い。歴史をねつ造して平気な中韓に対して、ただ怒っているだけでは、未来は開けないと思うがどうだろう。

最近、アメリカに行くと、どこに行っても日本人よりチャイニーズ、コリアンが目立つ。おかげで、飛行機に乗るときにも客室乗務員から「ニーハオ」と言われたりする。

しかも、今後、円安が進んで行けば、日本人の海外旅行客はさらに減る。とくにアメリカ本土などの遠方は減る。そうすると、なにが起こるだろうか?

■中国本土からハワイへの直行便が激増

私が懸念しているのは、この2年ほどで、中国とハワイの直行便が次々とできていることだ。まず、中国東方航空が、2011年8月から上海−ホノルル直行便を飛ばすようになった、当初週2便だったが、いまや週5便に増えた。また、この1月22日からは、中国国際航空(エアチャイナ)がついに北京−ホノルル直行便を週3便飛ばすようになった。続いて、この4月18日から、今度はハワイアン航空が週3便ホノルル−北京直行便を飛ばす。

かつてハワイには中国人観光客はほとんどいなかった。それが、ここ数年、激増している。ハワイ州観光局によると、中国からの旅行者の数は2012年以降、年間約40%も増加しているという。

ハワイを空路で訪れた旅行者数は2012年には計784万人で、アメリカ本土からが489万人で断トツの1位。続いて日本からが145万人、3番目がカナダからで50万人。韓国からは15万人、中国からは12万と低いが、直行便ができたので一気に増えるだろう。しかも驚くのは、中国人旅行者のハワイでの支出額が1日1人当たり約400ドルということ。

これは日本人の289ドルを大きく上回っている。

■中国人も「ジャパン・パッシング」

もともと日本からハワイへは、毎日10便以上が飛んでいた。しかし、アジアからは、台北から中華航空が成田経由で1便、ソウルからは大韓航空、アシアナ航空、ハワイアン航空の直行便が3便、ほかにはマニラとグアムがあるだけだった。だから、中国人がハワイへ行こうとすれば日本かソウルで乗り継ぐしかなかった。

しかし、いまやダイレクトに行けるのである。

となると、中国人も「ジャパン・パッシング」してしまうだろう。日本政府は、観光立国を掲げ、東京五輪までに訪日外国人数を2000万人に増やす計画だ。昨年、やっと1000万人を達成した。しかし、その多くはアジアからの観光客、とくに中国人だ。

もはや首都が「人類の生存に適さない」以上、彼らは、きれいな空気、青い空、毒入りでない食材でつくられたグルメ料理、温泉、ニセモノでないブランド品を求めて、日本にやって来る。

しかし、彼らにとって、本当に魅力的なのは南国だ。それは、海南島、プーケット、ゴールドコーストなどに殺到しているのを見るとわかる。

となると、これだけ直行便ができれば、彼らは東京よりハワイに行くだろう。訪日外国人数を2000万人計画は早くも崩れてしまう可能性がある。

■中国人がワイキキでサーフィンをやる日

昔はワイキキの街角のスタンドに、ハングルのガイドブックなどなかった。まして、簡体字のものなどあるはずがなかった。しかし、いまやハングルのガイドブックがスタンドに置かれているから、次は簡体字のものもできるだろう。これからは、ビーチにコリアンに続いてチャイニーズも続々とやって来る。

娘が小学校の頃、いまから20年ほど前、カピオラニビーチでよく一緒にボディボードをやった。そのとき、ビーチにコリアンの姿はなかった。

しかし、ワイキキでもだんだんコリアンの観光客が目立つようになった。そして、最近では、観光できたコリアンの若者がビーチでボデイボートをレンタルしてやっている。

だから、次はチャイニーズの番になるのは間違いない。

つい数年前まで、本土チャイニーズはサーフィンなど知らなかった。だから、本土チャイニーズがハワイでボディボードをやる姿は想像がつかないが、きっとやるだろう。

時代は本当に変わってしまった。

そこで最後にもうひとつ書いておくと、2020年は東京五輪の年だと日本人は思っている。しかし、この年、中国は有人月面探査を実行する。中国人が人類として2番目に、月面に降り立ち、月面に五星紅旗が立てられるのだ。

このイベントを東京五輪の時期にぶつければ、東京五輪など吹っ飛んでしまうかもしれない。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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