新型コロナワクチンの効果90%以上!で、世界は変わるのか?

(写真:アフロ)

アメリカPfizer社とドイツBioNTech社が開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンの第3相臨床試験の中間解析結果が報告されました。90%を超える有効性があり、有害事象も認められなかったということで、世界中が歓喜に湧いています。株価も大幅上昇し、日常会話レベルでもワクチンに関する期待感が高まっているように思います。

今回は、救急医の視点から、このワクチンの受け止め方と、今後の世界はどのように変わるのかということを考えてみたいと思います。

第3相臨床試験について

この試験は、18歳から85歳の4万3538例の被験者を対象とし、開発中のワクチン接種群とプラセボ群(ワクチンじゃないものを打つ)に分け、ランダム化比較試験を行なったものです。観察者である医師には、どちらを打ったのかわからないという盲検化が図られています。今年7月から世界各国の154施設で実施され、11月8日までに3万8955例が2回接種を完了しました。

中間解析では、接種完了から7日後までに94例がCOVID-19を発症しており、ワクチン接種群とプラセボ群を比較したところ、90%を超える発症予防効果が認められたということでした。

90%を超える予防効果とは

ワクチンの予防効果ってなんなのかという点がピンとこないかもしれませんが、これはワクチン接種群で発症した人の数と、プラセボ群で発症した人の数を比較して、ワクチンの接種によって疾患になるリスクをどの程度減らせたかを表しています(下図参照)。ワクチンを打てば、どの程度の人が疾患にかからなかったかという数字です。ワクチン接種群で4人が疾患を発症し、プラセボ接種群で90人が疾患を発症すると、有効性は95.5%ということになります。ワクチン接種群とプラセボ群がそれぞれ何人ずついたかはわかりませんが、とりあえずワクチンの有効性というのはそうやって計算します。

ワクチンの効果について(著者作成)
ワクチンの効果について(著者作成)

ワクチンの効果は実感しにくい

上の図ではなんとなく発症者が減っていますが、1000人中ワクチン群とプラセボ群が半々で、94人感染した図(罹患率10%程度)を作成しています。罹患率が低くなると、効果を実感しにくくなるかもしれません。例えば、インフルエンザワクチンの有効性は60%程度と言われます。例年1000-1400万人が罹患しておりますが、前シーズンは少なく、およそ700万人が罹患しました。人口1億2000万人中、6000万人がワクチンを接種し、700万人が罹患し、効果が60%とすると、以下の表のようになります。

インフルエンザワクチンの効果(著者作成)
インフルエンザワクチンの効果(著者作成)

ワクチンを打ったのに罹患する人が毎年いたり、ワクチンを打っていなくても感染しなかったという人が多数いたりするのは、見ての通りです。とはいえ、ワクチンを打つと、特に高齢者では重症化や死亡するリスクを軽減できますし、そもそもかからずに済む人が一定数は発生するはずですから、ワクチンを打つように僕らはオススメしています。かからなければ重症化するリスクはゼロです。

新型コロナウイルスのワクチンで世界はどう変わるか

本題の新型コロナウイルスのワクチンについてですが、救急医としては、少し冷静に眺めています。現時点で、新型コロナウイルスに対するワクチンが、重症化をどれほど軽減するかはわかりません。長期的な予防効果についてもわかりません。遅発性の副反応や、レアな副反応についてもわかりません。また、実のところ保存は-70℃ということで、どこでも接種できるかという点について疑問は残ります。そして、上の二つの図で分かる通り、ワクチンの効果が100%でない限りは、発症をゼロにはできません。この点について、社会は向き合っていかねばなりません。

インフルエンザはワクチンも治療法もあるからコロナより怖くないとよく言われるのですが、それでも毎年、一定数の重症インフルエンザの患者さんはいらっしゃいますし、死亡してしまう方もいます。幼い命がインフルエンザ脳症で奪われる瞬間や、インフルエンザに合併する肺炎で短期間のうちに呼吸不全に陥る例を目の当たりにしています。重症患者さんが多数発生して、集中治療室のベッドがいっぱいいっぱいになり、外傷などインフルエンザ以外の患者さんのための病床がどうにもならないといった瞬間も経験します。COVID-19の流行により、こうしたことがこれまで以上に広がるのではないかと、国内に入ってきた頃から一救急医療従事者として心配しておりました(今でも)。

COVID-19は、およその対応法、治療法が確立しつつあります。しかし、その感染力の高さから、できる限り個室管理とし、重症管理を行うときには、なるべく多数のスタッフが関わることのないようにという配慮も行います。疾患として、インフルエンザよりこの点は厄介です。人が余分にとられてしまいますので、病床はあっても診療する人がいないという事態も生じてしまいかねません。

世間ではワクチンの効果について歓迎する声が高まっていますが、おそらくワクチンの完成により、即時バラ色の時代がやってくるわけではないです。重症化をどれだけ防げるかということがわからなければ、死亡者がどれほど発生するか、救急医療をどれだけ逼迫させるかは検討がつきません。重症化率や死亡率が高いままであれば、ワクチンが完成しても、罹患時には驚異のままとなります。ただ、流行スピードは落ちるでしょうから、ある程度発症することを許容しつつ、かつての新型インフルエンザのように社会に溶け込んでいくのかもしれません。不安の薄れと共になんとなくそのような形に落ち着くかもしれませんが、ワクチン完成に伴い、これまでより一層どの程度の感染者数だと社会は回るのか、許容できるのかということを考えていかねばなりません。救急医療の崩壊は、生命の安全が担保された社会とは言い難いです。現実的には、「救急医療を担保しつつ、COVID-19対応もできる」というのが、社会が許容できる感染者数となるのではないかと個人的には考えています。

mRNAワクチン以外にも、種々のワクチンを開発中です。ワクチンにより、さらに社会全体の活動度があげられるかもしれません。しかし、もうしばらくは現在の感染予防策を続けながら様子を見ていく必要があるかと思います。

出口を見せてくれた開発者や関係のみなさまには、感謝申し上げるばかりです。