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ムカデに咬まれたら冷やす?温める?どうする??

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
ムカデは刺さりそうな見た目ですが、咬みます(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

ムカデ咬傷で救急要請

ムカデに咬まれたということで救急搬送される方がいらっしゃいます。先日もいらっしゃいました。そんなことで救急車を呼ぶなよと思われる方もいらっしゃるかもしれません。でも、結構痛いし、腫れるし、一人でいると不安になるものなのでしょう。

というわけで、今回は

ムカデに咬まれた時はどうしたら良いのか?

ムカデに咬まれたとき救急車を呼ばなくてはならないのか?

の2点を考えたいと思います。

ムカデに咬まれた時はどうしたら良いのか?

ムカデは漢字で「百足」と書きます。しかし、実のところ足は奇数対になるので、足が100本になることはないのだそうです。残念です。それはともかく、ムカデをみていると、足がトゲトゲしていて刺さりそうですよね。これが刺さるのかと思ってしまうのですが、ムカデに悪さをされるのはだいたい咬まれたときです。咬むと言っても、毒腺は顎ではなく足のような組織に存在しているので、やっぱり刺されているのかもしれません。まぁ、一般的にムカデに咬まれるといいますし、我々も「ムカデ咬傷」と呼んでいます。僕は動物学者ではないので、この話はこの辺にしておきます。咬まれたものとして話を進めます。

ムカデに咬まれた時は、ムカデの持つ毒素が問題になります。ムカデ毒はタンパク分解酵素などを含んでおり、傷の周囲で強い炎症や浮腫を起こすことがあります(文献1)。人によってはかなり強い疼痛を自覚するかもしれません。残念ながらこの毒素に対する特効薬はなく、対症療法を行うことになります。つまり、鎮痛薬の投与です。薬局で購入できるようなものを服用していただければそれで良いですし、受診していただいたら処方もできます。もし、ムカデ毒の成分にアレルギー反応を起こしているようであれば、抗アレルギー薬が効くかもしれません。絶対に効果があるとは言えないので申し訳ないです。ほっといたら普通は数日で痛みも腫れもひきます。

これらの投薬以外に家でできることとして、ムカデ毒は温めた方が良いのではないかという話があり、43度程度のお湯で患部を温めることを推奨する情報も散見されます。これは、先述のムカデ毒が熱に不安定で、温めることで毒素成分が失活するからではないかと指摘されています(文献1)。ただし、温めても改善しなかったという話もあったり、冷やすのと温めるのでは痛みの変化に差がなかったとする報告もあり、温めることを手放しで推奨できる状況には至っておりません(文献2)。

冷やすべきか温めるべきか悩ましいですが、温めて血行をよくすることで、アレルギー反応を助長しないかという懸念が残ります。場合によっては全身性のアレルギー反応であるアナフィラキシーを誘発するかもしれません(以前の記事)。温めても冷やしても同じなら、冷やす方が害が少ないかもしれないです。どちらにせよ、温めすぎや冷やしすぎは皮膚の損傷につながるので気をつけてください。

もう一点、感染症のことは考えておく必要があります。創部をシャワー水などで洗って清潔にしておけばそうそう感染はせず、毎回抗菌薬投与を考える必要はないはずですが、免疫が低下している場合(糖尿病など)では感染が起こらないか注意深く観察した方が良いです。あと、破傷風についても我々は注意しています。もし、破傷風の予防接種をされていなかったり、接種から10年以上経っている場合などには、破傷風トキソイドの投与を考えます。

ムカデに咬まれたら救急車を呼ばなければならない?

ムカデ咬傷で最も重篤化するとしたら、アナフィラキシーです。呼吸困難を自覚したり、局所にとどまらない皮疹が出たり、吐き気を催すなど気分が悪くなったりしたら、救急車を呼ぶべきかと思います。そうでもなくて、痛みが我慢できないので受診したいという場合には、診療時間内であれば近隣の医療機関を受診していただき、夜間休日などの診療時間外であれば、診察可能か近隣の病院に問い合わせて受診を試みるのが良いでしょう。両足を咬まれてパンパンになっており、痛みで歩行もままならないといった場合で、交通手段が用意できなければ救急車もやむなしかと思います。地域の医療事情に応じてご検討ください。

ムカデは春から夏にかけて産卵期で活発化し、秋は子供ムカデが成長して再度活発化します。冬は冬眠に入りますが、暖かい日はまだムカデに注意が必要です。

参考文献

1. Eivind A. B. Undheim, et al. Centipede Venom: Recent Discoveries and Current State of Knowledge. Toxins (Basel). 2015 Mar; 7(3): 679-704.

2. Chung-Hsien Chaou, et al. Comparisons of ice packs, hot water immersion, and analgesia injection for the treatment of centipede envenomations in Taiwan. Clin Toxicol (Phila). 2009 Aug;47(7):659-62.

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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