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「不動産の目利き力」はどう磨く? 投資家&不動産関係者が知っておくべき情報とは【特別企画】

資産価値はもう古い!不動産のプロが知るべき「真・物件力」

投資歴や業務キャリアが長い人でも、評価の目利きが非常に難しいとされるのが不動産物件の世界。立地条件がよく価格も安いのになぜか売れない物件もあれば、高値でもあっさりと売れていく物件も存在します。

真に良い物件を見つけるためには、「高い」「安い」「広い」「狭い」「高級」「普通」だけでは知ることができない、不動産物件の真価を見極める力が必要となるのでしょう。

今回お話を伺ったのは、業界紙の記者を経て多くの著書を執筆、年間200件を超える現場取材に裏打ちされた正確な市況分析で、「住宅評論の第一人者」と称される櫻井幸雄さん。

2019年12月より開始の連載記事『資産価値はもう古い!不動産のプロが知るべき「真・物件力」』でも、現場取材と関係者への聞き取りから不動産物件の真価を見極め、プロにとって必要なレビューやトレンド情報を配信しています。

そんな櫻井さんの考えるこれからの市況や、不動産を扱うプロフェッショナルであれば最低限知っておくべき専門知識、そして不動産物件の「真価」とは、どのようなものなのでしょうか。オリンピック以後の予測や注目のエリアなど、気になるいろいろとあわせてお伺いしました。

どんな不動産物件でも、その人気には必ず波がある

市況や景気動向とリンクするため、過去の傾向とは異なる動きとなる場合も非常に多いと語る櫻井さん
市況や景気動向とリンクするため、過去の傾向とは異なる動きとなる場合も非常に多いと語る櫻井さん

――ここ最近の不動産市況では、どのような動きが目立っているのでしょうか。

櫻井:マクロな動きでは、新築物件と中古物件の比率が顕著に変化しています。

戦後から高度経済成長期にかけ新築の比率は実に9割を超えていましたが、現在では新築と中古は半々という比率になりました。新築神話がいまだに強い日本においても、中古需要は引き続き増していくでしょう。

建築方法や気象条件の違いもあるので一概に比較はできませんが、欧米では中古物件の販売が8割以上。今は新築メインで販売をしている不動産業者も、徐々にリフォーム物件や中古物件メインに転換していくことになるはずです。

――新築のタワーマンションバブルが崩壊するといううわさも聞くのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

櫻井:過激な見だしなど見かける機会が増えましたが、多くは雑誌や本を売るためのあおり文句のようなものでしょう。

タワーマンションに限らない話ですが、どんな不動産物件であっても人気には波というものがあります。ブームが過ぎれば適正価格に戻りますし、下落した価格にはいずれ揺り戻しがきます。

――台風などの被災影響で、地域全体の不動産物件の価値が大きく下がってしまうようなことはあるのでしょうか。

櫻井:メディアで頻繁に被害が報じられたような土地は、短期的には確実に下がってしまいます。復旧が早かったとしても、土地のイメージが悪くなり、そこに住みたいというニーズ自体が大きく減ってしまうからです。そして被害に遭われた方は、早く別の土地に移りたいと考えるのが常です。

ただし、通常は3年くらいでその土地のネガティブな印象は薄らぐ傾向にあり、価格も元に戻ります。事業者や投資家であれば、適正タイミングまで売却を我慢するのが賢明でしょうね。

これから先の不動産市況はどう変わっていくのか

セオリーは通用しないと語る一方で、人気が出そうなエリアを見極めるための視点も
セオリーは通用しないと語る一方で、人気が出そうなエリアを見極めるための視点も

――以前から不動産物件の価格は上昇傾向にありましたが、2020年のオリンピック終了後には値戻りや大幅下落は発生するのでしょうか。

櫻井:そういった話は確かによく耳にします。ただ、「確実に起きる値崩れ」というものは存在しません。直近では2016年にも「大暴落が起こるのではないか」とささやかれていましたが、結局それは起こりませんでした。

不動産物件に「必ず上がる」「必ず下がる」はありません。その時期の景気や株価などに連動するものであり、過去のセオリーは通用しない世界なので、「オリンピック後には必ず下がる」という断言はできません。

――最近の不動産市況で何か特徴的な動きはありますか。

櫻井:建築作品として不動産が価値を持ちはじめている点ですね。

隈研吾さんや内井昭蔵さんなどの有名建築家が建てたマンションが特に注目を浴びています。中古物件となった現在でも人気は高いままです。デザイン性はもちろん、あの有名建築家が手掛けた物件だからと、コレクション的な感覚で複数所有する人が一定数いるからでしょう。

また、マンション・一戸建ての物件評価軸が変化しています。これまでは高く転売できるか・利回り高く貸せるかの「投資」目線が中心でしたが、最近では自らも住む目的で購入する「実需」目線での住み心地評価も大切になっています。同じエリアの物件であっても、この住み心地の差が価格差につながっているのです。

――投資目的や事業として不動産を扱うプロが、これから注視しておいたほうがいいエリアを教えてください。

櫻井:文京区沿いは人気がでる可能性が高いでしょうね。利便性が高いエリアにもかかわらず、大規模なマンション開発ラッシュはおきておらず、価格も下げ止まっています。霞ヶ関エリアへの通勤者が今後も増えることを考えれば、注視すべきエリアではないでしょうか。

また、三田線沿線も人気になる可能性を秘めています。目黒駅、三田駅、日比谷駅などがあり、他路線と比較しても、まだまだ値上がりが期待できます。

逆に人気が落ちてしまう可能性があるのは横浜界隈です。

インバウンド需要によって日本全体が活気づいている中で、元町中華街を含めた一帯は外国人旅行者の需要喚起が難しいエリア。中華街は日本人には人気ですが、「日本的な体験をしたい」からと首都圏に来た外国人旅行者にとっては、わざわざ訪れる理由がない場所です。統合型リゾートの誘致の是非も、その後の人気に影響がありそうです。

参考記事:「全国的な地価上昇」の裏で横浜に暗い見通し。異国情緒は外国人観光客に魅力なし?

――話題の高輪ゲートウェイ駅のあたりはどうでしょうか。

櫻井:不動産価格の高騰は、新駅構想が立ち上がった段階から既に起きています。そのトレンドは今後も維持しますが、この先は品川、高輪ゲートウェイ(泉岳寺)、三田の一帯が人気エリアとなるのではないでしょうか。最終的には丸の内クラスのビジネス都市になる可能性も秘めています。

居住用のタワーマンションや賃貸マンションが多く建てられており、新幹線をはじめとする交通の便が良い点からも、支持は集まっていくのではないでしょうか。

常に新しい情報をキャッチアップしていくことが本当の不動産のプロフェッショナル

同じエリアのタワーマンションであっても、実需によって価格差が生じる時代になった
同じエリアのタワーマンションであっても、実需によって価格差が生じる時代になった

――櫻井さんはこれまでニュース個人で、多くの人にとって興味深い不動産に関する情報記事を執筆されてきました。今回2019年12月より配信開始の『資産価値はもう古い!不動産のプロが知るべき「真・物件力」』という連載シリーズでは、どのような情報を発信されていくのでしょうか。

櫻井:連載シリーズは有料版ということもあり、対象を不動産業務従事者や投資家に絞り込みました。本当の意味での「不動産のプロ」が知るべき情報だけを配信しています。

AIで物件価値が試算できる時代と言われていますがが、傾向やトレンドは読めても「実需」までを把握はできません。不動産物件の真価を知るためには、現場取材や関係者への聞き取りによって採掘される情報が不可欠です。

――実需とは、具体的にどのようなものを指しますか。

例えば「ブランズタワー豊洲」という新築の超高層マンションの角住戸には、横桟を入れず、縦桟だけで構成されているコーナーサッシが配置されています。

高い風圧が想定される超高層マンションでの「横桟なし」の実現によって、解放感のある風景が期待できるようになったことは、他物件との大きな差別化です。

また、同物件には防災備蓄倉庫も備えられており、これを容積算入外とするよう行政と調整している点も注目されます。

普通の人が聞いても正直何のことかわからないと思いますが(笑)、これら他の物件との差別化につながる要素が購入者の実需であり、プロであればしっかりと把握することが求められます。

参考記事:湾岸居住者も認める「ブランズタワー豊洲」 行政との交渉力で勝ち取った長所とは

――なるほど。プロであればこそ押さえておくべき「実需」の視点は、数多くありそうです。

櫻井:ほかに高層マンションで押さえておきたい要素は「警報ボタン」です。10年ほど前まではリビングに1〜2個設置される程度でしたが、高年齢者の物件購入が増えてきた影響もあって、風呂場やトイレにも設置されるようになりました。

あとは「警備員が常駐」しているかどうかも重要ですね。いざという時の安心感が違います。

また、最新のタワーマンションでは「ゴミ置き場のエアコン」にも注目した方がいいでしょう。

24時間ゴミ出しOKという物件はこれまでも多かったですが、ゴミ置場には送風機だけ、というのが当たり前でした。ところが最近では、消臭機やエアコンの設置が常識となっています。夏場の嫌な臭いを防いでくれるため、居住者の満足度向上に一役買ってくれています。

――住む人にとっての満足度が、売買時の価格に直接影響してくるわけですね。

櫻井:1つ1つは細かすぎるメリットと感じられるかもしれませんが、住む人にとっての実需はそのまま他物件との差別化要因であり、それゆえ「選ばれる理由」となります。

不動産の価格はこれまで、投資家目線でのセオリーや数字情報ばかりに影響されていたように思われます。しかしこれからは、居住者目線での住み心地の評価を含め、総合的に判断される時代になったと言えるでしょう。

それらをきちんと理解できる力、つまり真の「物件力」こそが、不動産業界の今後のスタンダードとなっていくのではないでしょうか。

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櫻井 幸雄(さくらい ゆきお)

1954年生まれ。1984年から週刊住宅情報の記者となり、99年に『誠実な家を買え』を大村書店から出版。以後、多くの著書を送り出し、新聞雑誌への寄稿、コメント出しも精力的にこなす。2000年の文化放送「梶原放送局」を皮切りに、テレビ・ラジオに多く出演。年間200物件以上の物件取材を行い、首都圏だけでなく、近畿圏、中部圏、福岡、札幌など全国の住宅事情に精通する。現場取材に裏打ちされた正確な市況分析、わかりやすい解説、そして文章のおもしろさで定評のある、住宅評論の第一人者。

資産価値はもう古い!不動産のプロが知るべき「真・物件力」

【この記事は、Yahoo!ニュース 個人の定期購読記事を執筆しているオーサーのご紹介として、編集部がオーサーにインタビューし制作したものです】

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