オンライン授業の是非を問う(1)学校現場の葛藤と最前線

(写真:アフロ)

新型コロナウィルスによる臨時休校要請の影響で、教育業界は変化を余儀なくされている。そもそも2020年度スタートに向けて準備を進めていた教育改革は、「結局、あまり変えられないのではないか」と危惧する声が多かったが、今回の休校対応で強制的に進まざるを得ない状況になっているように見える。このシリーズでは、その中でも話題の中心の1つ「オンライン授業」を巡る業界の動向についてまとめ、考えてみたい。まずは“withコロナ”の渦中、いち早く具体的な対策を講じている2つの学校を紹介する。

春休み、3日で100動画を作成した私立学校

私が学習プログラムデザイナー・アドバイザーとして関わる聖学院中学校・高等学校(東京都北区)では、3月中からオンラインの試行が始まり、ガイドラインを決定後、なんと3日で100本の動画を作成した。機材や撮影方法を統一したため、教師ごとの個性もいい意味で際立った。実際この動画を視聴した生徒からは、「聖学院ならではの先生の人間的な魅力とアクティブラーニングが組み合わされており何本も動画を見てしまいました」「想像を超える先生方の授業に圧倒され学習意欲が普段よりも少し高まった気がしました」というレポートも寄せられた。

しかし、私学とはいえ、オンライン化のための障壁は決して少なくない。プロジェクトのリーダーシップを取った児浦良裕氏は、「デバイスを持たせているわけでもなく、直接連絡を取り合う手段がなかったため、早急にGoogleのアカウントを発行し、全員が登録して“GoogleClassroom”に入れるようにすることが最初の障壁でした」と語る。そんな状態から、役割分担・技術フロー・録画技術のナレッジ共有など、急ピッチで準備し、全100本の動画を3日間で完成させたという。「聖学院のチーム力、教職員の底力が発揮できた瞬間を感じ、とても感動的でした。フェーズ1は成功したと言って良いと思います。4月20日からのフェーズ2は、一部“GoogleMeet”を使った対話授業も始まります。さらなるレベルアップに向けて、生徒・教職員一丸となって取り組んでいきたいと思います」。

中学入試でレゴでの作品作りを導入するなど、先進的な試みをしてきた私学ならではのスピード感だ。もちろん授業のクオリティーをはじめ様々な課題もあるが、今回のプロジェクトで最も大事なことは、「教師もチャレンジしている」ということに尽きる。一部の生徒達も主体的に「withコロナの時代におけるオンライン課外活動シェアサイト」を立ち上げようと動いているという。教師が臨機応変に素早くチャレンジする姿は何よりの刺激になるだろう。答えのない問題に立ち向かう生徒を育てたいのであれば、まず大人達が答えのない問いに立ち向かうのが筋であろう。

オンライン授業の問題点

一方で、武蔵野大学附属中学校・高等学校(西東京市)の日野田直彦校長は、SNSに【ZOOMなどの生授業、やめませんか?】という提言をして波紋を呼んでいる。日野田氏は、偏差値50・地域4番手だった大阪府立箕面高校を、わずか4年で海外トップ大学へ多数の進学者を出す進学校に「改革」した名物校長だ。現在、ネット上では「ZOOMによる生授業をどうするか?」「私はこんな風にやっている!」「こんなやり方をすればいい!」という発信が飛び交っている。これを受けて、あくまで個人の意見だと前置きした上で「反発を受ける覚悟で、私は大反対です。すぐにでもやめるべき」と一石を投じる。日野田氏がオンライン授業をやめるべきだと主張する理由は以下の通りだ。

(1)インターネット全体の負担が大きすぎる

1990年代末のMMORPG流行時と同じような状況になっている。現にZOOMはビジー状態やハッキングの対象となり、Classiはシステムダウンが続ている。

(2)オンライン授業に慣れてない素人がいきなりするのは無理がある

心理的安全性や信頼関係ができていない中で、リアルタイム授業はリスクが大きい。

(3)リスクマネージメントが全くできていない

「隣のクラスの先生はやっているのに、うちのクラスの先生はやってくれない」を解消できているか?「学校」という組織の中で「個人プレー」をすることがリスキーであることに気づいているか?

この提言にはかなりの賛同が集まっており、教育関係者の中で様々な意見が交わされている。身動きがとれていない学校関係者や、保守的な考えやリスクを避けることを最善とする価値観であれば、とても力強い提言であろう。さらに日野田氏は、それらの問題点を踏まえた具体的な提案もしている。

(1)朝礼・終礼はオンラインで実施し、顔を見て孤独でない事を共有する

この時間帯だけリアルタイムオンライン対応をする。

(2)既に精査されたオンラインコンテンツを視聴する

中高ならスタディサプリ、Classi、Kahn Academy、atama+など、大学ならMOOCsやedX、Couseraなど。

(3)先生はそのオンラインコンテンツの質問を受ける

1.まずは紙で提出(Google Drive, ロイロノートなど)

2.赤入れを教員が行う

3.それでも不足している場合はオンラインで教員によるチューター制で対応する

これらの提言は、現状動きづらい学校組織においては有効なヒントになるだろう。多くの学校が「どうすれば良いか分からない」という局面で、可能な選択肢を具体的に挙げていることに日野田氏の提言は意義がある。しかしここで見逃してはいけないのは、武蔵野大学附属もまた教育界をリードする革新的な学校であるという点である。両校とも「学びを止めない」という「目的」を達成するために、それぞれの状況に合わせて様々な手段をとっているといえる。目的とプロセスを現状に合わせて素早く調整していくことこそ、あらゆる教育機関が参考にすべきポイントだ。

今こそ試行錯誤のチャンスである

日野田氏の提言について「Edvation x Summit」「マナビを止めるな!プロジェクト」を仕掛けるデジタルハリウッド大学(東京都千代田区)教授の佐藤昌宏氏は、「生授業を止めてはいけない」と「反論」する。佐藤氏はまずオンラインの教授法を「ライブ配信型」「オンデマンド配信型」「課題提出型」の3つに整理し、教科や発達段階に応じて、このベストミックスを探るべきだという。しかし、肝となるデジタル教材の不足を短期間で解決するのは難しい。「そこで、まさにいま、課題意識を持ってできる先生方が試行錯誤をしているところだ」という。「この試行錯誤がやりやすいのが生授業なんだと思います。子供たちを実験につかうなという声も聞こえてきそうですが、どうしたら子供たちに最良の教育を届けることができるかという観点では、授業内の試行錯誤と同じではないかと思います。これは、恐らく、個人プレーにみえることもあると思いますが、これを止めてはいけないように思います」。

誤解なきように付記するが、両氏は決して相容れない議論を闘わせているわけではない。教育業界全体を俯瞰して、混乱を鎮めるために便宜上議論をしているだけであって、見ている方向はそれほど違わない。実際私は両氏と面識があり、それぞれの活動にも参画させて頂いた経験がある。上記提言だけ切り取ってみたときに少し疑問に思い、日野田氏に直接この提言について話を伺ったが、やはり「本当にやりたいこととはかけ離れているが、現状の有戦力でシステムとして解決するための方法だ」とのことだった。つまり、試行錯誤の過程として戦略的に提言しているといえる。佐藤氏からも、「学校や教育ってそもそも何のためにあるんだっけ? それを現場の先生方が考える、このことこそ、子供たちに見せるべき最良の教材だ」というコメントを頂いた。この2つの意見を対立と見ないことが、教育業界に必要な視座だろう。

私は、数年前から教育業界こそアジャイル化を進めるべきだという提言をし続けているが、今はまさにそのタイミングと言える。アジャイルとは簡単にいえば、小さいチームで目的や仕様を随時調整しながらプロジェクトを動かす方法である。もっと抽象化すれば「走りながら考えるチーム」という感じだろうか。アジャイル導入における問題点やアイデアはすでに蓄積がある。自覚的に進めることで、より短期間での効果が期待できるだろう。今までの学校の構造やシステムでは、これからの時代に必要な学びは得られない。そういう社会からの要請で始まったのが戦後7回目を数える今回の教育改革だったはずだ。withコロナを真剣に走りながら考える教育者が増えることを願う。(矢萩邦彦/知窓学舎教養の未来研究所