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「話すのが苦手」な人が講義講演する際に心がけたい3つのポイント

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授
(写真:アフロ)

授業や講義、また研修などを「うまくできない」という悩みを伺うことが多いのですが、その根本的な理由を「自分はもともと話すのが苦手だから」というように、自分の性格のせいにしてしまっている人が多いように感じます。うまくできる人についても「あの人は話すのがうまいから」と分析している人が多いようです。

しかし、「話すのが苦手な講師」にありがちなのは準備不足です。「何を当たり前な」と思われるかも知れませんが、ただ準備するのではありません。周到な準備をしているか、という話です。今回は、苦手意識を持っている講師がどこまで準備をすれば良いのかを考えてみたいと思います。

◆テキストを精読する

まず、第一に教材や資料を精読しているかどうかです。その際、必ず実践して欲しいのが「音読」です。声に出して読む。それだけで次の効果が期待できます。

・発声練習になる

・読めない漢字や理解が曖昧な言葉を見付けやすい

・単元ごとにどのくらいの時間がかかるかが把握できる

そもそも話すのが苦手なら声を出す練習はすべきですし、何よりも黙読では飛ばしてしまいがちな、自分でもよく分かっていなかったり、意味を忘れてしまっている言葉に引っかかりやすくなります。使い慣れていない言葉を声に出すと、目で見ただけよりも強く違和感を覚えます。また、音読することでタイム感を掴みやすくなります。

その際、分からない言葉を調べることで、自信を持って講義に臨むことが出来ます。しっかり準備をしていても尚、答えられない質問をされることがありますが、準備をしていればこそ、分からないことを「分からない」と言える覚悟も出来ます。そういう真摯な姿勢であれば、話すのが苦手だからといって、それが理由で受講者の評価が低くなることは少ないと思います。

◆キーワードを抽出して、テキストを伏せる

次に実践して欲しいのが、その単元から幾つかのキーワードを抽出して、そのキーワードだけを参照しながら説明をしてみるという練習です。

何度か音読をしていれば、キーワードだけで内容を思い出せるようになります。実際講義中にテキストを見ることは問題ないのですが、あくまで補助的に使うくらいの余裕がないと、会場全体に気を配れませんし、臨機応変な対応もスムーズに出来ません。話すのが苦手な講師は講義中テキストに目が行きがちですが、そういう状況が続くことで、会場の雰囲気ともズレていき、より苦手意識を強くしているように思います。

◆鏡を見ながらリハーサルをする

最後に、キーワードも手放して(メモを見ながらでも良いですが)自分の顔を見ながら話す練習をお勧めします。自分の顔を見ながらというのは落ち着かないものですが、それが良いんです。これには効果が二つあります。

・人目に付かない環境で、人に見られながら話す練習になる

・話している時の自分の表情を確認できる

まず、鏡に向かうということは自分に見られているわけです。話すことに苦手意識がある人は、話す練習をすること自体が恥ずかしいものですが、個室に鏡を持ち込めば、たった一人で見られながら話すという練習が出来ます。さらに、一番大事なのが表情です。人の印象の多くはその人の顔の作りよりも、表情や姿勢が作るものです。生徒が話を聞きやすい表情はどんななのか、想像しながら練習することが効果的です。

これらは講師研修だけでなく、社会人基礎力やビジネススキルの研修でも扱う方法です。大事なことは、その方法を採用することで、どういう効果が期待できるのか、理解してから実践することです。決して楽な方法ではないですが、地道に王道を行こう、というスタイルこそが参加者の心を掴むのだと思います。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE・知窓学舎)

アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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