自分の財産を守るために~住環境を統合的に学ぶ視点「不動産学」に注目

2020年の東京オリンピック開催で新たな転機を迎えていると言われる不動産業界。東日本大震災以降は、土地の脆弱性や有効な土地利用の方法に注目が集まっています。すべての国民や企業が「自分事」として捉えることが求められる不動産問題ですが、具体的にどんな知識が有効なのか分かりにくく、プロに任せてしまいがちです。そこで、これからの不動産との関わりについて、日本で唯一不動産学部を有する明海大学の周藤利一教授にお話しを伺いました。

◆不動産学とは何か

不動産に関する学問は、法学、工学、商学、経済学、会計学、建築学、地理学、社会学…… と多岐にわたります。不動産を理解するためには、単一の視点では難しいため、「不動産学」という単一の学問が成立しているわけではありません。あらゆる分野の学問を「不動産」という切り口で統合していく学問です。周藤教授は「不動産学は極めて現実に近い実学」だといいます。

2014年3月の明海大学不動産学部卒業生の進路は、「不動産等 40.3%」となっています。一見、半数以上が他業種へ就職しているように見えますが、周藤教授は「他業種に就職しても、不動産と関係ない仕事をしているわけではありません。どんな企業の仕事でも、不動産と密接に関わっているのです」といいます。つまり、不動産の知識を活かせる場は、不動産業界にとどまらずあらゆる業種に及んでいるわけです。

◆自分の財産を守るために~自助としての不動産学

「住んでいる土地の歴史を調べることからはじめて欲しい」という周藤利一教授
「住んでいる土地の歴史を調べることからはじめて欲しい」という周藤利一教授

「不動産学」の視点が役に立つのは就職や、仕事面だけではありません。私たちが、持ち家であれ賃貸であれ、「不動産」を生活の拠点にする以上、その知識はプラスになります。

震災以来、にわかに注目を集める土地利用の安全性について、周藤教授は「その土地が災害に対してどのような脆弱性を持っているのかを知ることが大事。工場は建てるけれど人は住まない方が良いとか、そういうことは工学的な技術によって克服出来ます。その土地についてよく知っていれば、もっと深く杭を打ったり、ちゃんとした土地利用が出来ます。基本的な知識を持つことで災害から不動産を守ることが出来ることを、プロでなくても一般の人も知っておいて欲しい」。

また、災害時に限らず国民全体が不動産の知識を持つことで、より効果的に自分の財産を守ることが出来る、と周藤教授はいいます。

「不動産は極めて高価なのに、それについて勉強しない。一生に一回くらいしか買いませんから、勉強するコストや努力を考えれば、プロに任せた方が楽です。しかし、必ずしもプロが100%正しいわけじゃない。自分の財産は自分で守らないと。自助が基本ですよね。ですから、プロではない一般の人にも不動産に関する知識を勉強して欲しいと思っています。プロと国民の両方のレベルアップが、実学としての不動産学の使命だと考えています」。

◆継続的教育システムが必要

欧米の不動産業界の団体が教育を目的の中心においているのに対し、日本の不動産関係の団体は、元々互助的な、あるいは職能団体として権益を守る目的で設立されたものが多く、教育に関しては近年になってようやく力を入れる団体が増えてきました。このことについて、周藤教授は更なる改革が必要だといいます。

「流通の世界に絞って考えれば、“宅建”などの既存の資格は必要最小限の知識を網羅することを念頭に問題が作られていますが、みなさん満点で合格しているわけではありませんし、医師免許と同じで取ったからといって名医になるわけではありません。実際にやってみないと分からないことの方が多く、高度な知識や暗黙知などは、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング=実務に携わりながら学ぶ方法)で対応しているわけです。ですから、自分がどの分野でどれくらいのレベルに達しているのか、あるいは何が足りないのかを客観的に分かりやすく比較する方法が求められていました」。

周藤教授は、これらの状況を改善すべく来月スタートする不動産流通実務検定(通称“SCORE”)の問題作成にも関わっています。この検定は、実務に関わるプロが「現状を知る、将来に向けて自分を伸ばしていく進捗度ツール」として、また「キャリアアップのために自分の実力が足りているのかを知るツール」という2つの意義があるといいます。「不動産業界でも常に努力をしている人はいますが、それを客観的に評価するシステムがありませんでした」という周藤教授。この検定によって努力をしている個人や企業が評価されるようになり、業界全体のレベルアップが期待されます。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)

■関連サイト

公益財団法人不動産流通推進センター

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