安倍前首相の秘書は正式な裁判をやるべき

公の場で繰り返し虚偽を述べていた安倍前首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 安倍晋三・前首相が政府主催の「桜を見る会」の前夜に、安倍氏の後援会が主催した「前夜祭」で、安倍氏側が5年間で約900万円の補填をしていたことが東京地検特捜部の捜査で明らかになっています。政治家に義務づけられている政治資金収支報告書に記載しなかった額は3000万円にものぼります(毎日新聞報道)。

 本件について、本日の報道で、東京地検特捜部は、安倍晋三氏本人を不起訴とし、安倍氏の秘書は「略式起訴」したとされています(共同通信報道)。

安倍氏は国会で虚偽答弁を繰り返してきた

 この件については、安倍氏が国会で「(参加者が)ホテルに直接払い込んだ」「(安倍)事務所側で補填をしていない」「ホテル側から明細書は受け取っていない」などと繰り返して虚偽答弁をし、衆議院事務局によると、その回数が118回にのぼるとされています(毎日新聞記事)。

下記の朝日新聞社が編集した動画で安倍氏の国会における虚偽答弁の一端を見ることができますが、社会常識からしてありえない虚偽答弁を平然としながら、質問者に問題があるように批判する発言すらしており、大変な問題のある人物であると言わざるを得ません。

安倍前首相は共犯者ではないのか明らかにすべき

 そもそも、安倍氏の秘書が(1)安倍氏のお金で勝手に数百万円の補填をし、(2)国会で問題になっても安倍氏に虚偽の報告を続け、(3)個々の参加者がホテルと契約という法律の知識がないと考えつけないレベルの虚偽の言い訳を編み出し、(4)安倍氏もその虚偽の報告を疑わずに秘書に騙されて国会で虚偽答弁を繰り返し、(5)それでも安倍氏がその秘書を今日現在でも秘書として雇用しているというのは、その一つ一つが考えがたい事態です。仮にそのような人物だと安倍氏の秘書は「大悪人」になってしまいます(郷原信郎弁護士論考)。結局、安倍氏と秘書が口裏合わせをして、秘書が責任をかぶることにしたと考える方が実態との関係で辻褄が合います。

 それでも、東京地検特捜部が12月21日に安倍氏本人の取り調べをし、本日、不起訴処分となったのです。しかし、東京地検特捜部は安倍氏の事務所や議員会館、私邸などを一カ所も家宅捜索していません。国会で平然と虚偽を述べる人物であることが判明した安倍氏の供述を鵜呑みにして「関与していない」とするのは到底納得できるものではなく、このような不起訴処分は、東京地検が安倍氏を逃がすために、適切な証拠集めをせず、あえて安倍氏の供述を鵜呑みにした可能性を指摘せざるを得ません。

秘書まで略式手続はあり得ない

 安倍氏本人が関与していないのだと仮定しても、本件は、現役の総理大臣の側が、自身の後援会の会員に多額の利益供与したうえ、そのことを隠蔽していたものです。我が国の最も強い権力者の側の犯罪であり、国会議員事務所による実質的な有権者の買収でもあり、極めて重大な犯罪です。また、上記のように、この件の追及に対して安倍氏本人が国会で虚偽答弁を繰り返し、貴重な国会の審議時間が浪費されたという点からも、真相の究明は極めて重要だと言えるでしょう。安倍氏本人が関与していないというのなら、上記の(1)~(5)の諸点を含む不自然な点について、果たして、安倍氏の秘書がどのような言い訳を弄するのか、公開の法廷で明らかにすべきでしょう。

 ところが、東京地検は、本日、安倍氏の秘書を「略式手続」で東京簡易裁判所に起訴したとのことです。刑事訴訟法461条は「簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、百万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。」と定めています。大雑把に言えば、東京地検が、100万円以下の罰金刑を求刑する場合には、東京簡易裁判所に「略式命令」で済ませるように請求でき、それに応じた東京簡易裁判所が罰金の「略式命令」を出して確定すると、安倍氏の秘書は罰金だけ支払えばお終いになり、正式な裁判は開かれないことになります(同法470条)。要するに交通事故のときの罰金刑と同じ手続です。安倍氏の秘書が、公開の場で、自らの犯罪行為や、安倍前首相を欺いた事情について証言をする場がなくなってしまいます。

 これでは、東京地検特捜部が、安倍氏側となれ合って、安倍氏の関与を隠蔽しようとしたと批判されても、申し開きのしようがないのではないでしょうか。実際、このような東京地検特捜部のやり方は、いわゆる「上級国民」問題(権力や財力のある者だけ刑事責任の追及が緩くなっているのではないかという国民の感覚)を加速させ、国民の司法に対する信頼を損なうものです。

まだ正式な裁判の道はある

 ただ、東京地検による「略式手続」の請求に対しては、同法463条で「前条の請求があつた場合において、その事件が略式命令をすることができないものであり、又はこれをすることが相当でないものであると思料するときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。」とされており、東京簡易裁判所が正式な裁判に移行させることが可能です。

 実際、2016年の電通の過労死事件にかかる同社の労働基準法違反事件については、東京地検の略式請求に対して、東京簡易裁判所がこれを認めず、同社の社長が出頭して公開の法廷で裁かれました。その他の裁判所が略式請求を認めなかった事例については、江川紹子氏の論考「略式起訴では済まぬ「桜を見る会」疑惑、公開法廷で経緯を明らかにせよ」が詳しいです。

 東京簡易裁判所は、安倍氏秘書についての略式請求を、断じて認めるべきではありません。裁判所の威信にかけて、正式な裁判を行うように求めます。