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普段WEリーグを観ていない人でも土曜日の皇后杯決勝が楽しめる7つの理由(先週行われた準決勝より)

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
今年の皇后杯決勝は、三菱重工浦和レッズレディースとINAC神戸レオネッサが対戦。

 明日の土曜日、皇后杯JFA第45回全国女子サッカー選手権大会(以下、皇后杯)決勝が、大阪のヨドコウ桜スタジアムで開催される。ファイナルに勝ち進んだのは、昨シーズンのWEリーグとリーグカップの2冠を達成している、三菱重工浦和レッズレディース。そして7大会ぶり7回目の皇后杯優勝を目指す、INAC神戸レオネッサである。

 その1週間前、京都のサンガスタジアム by KYOCERAで開催された、準決勝を取材する機会があった。実は私は、女子サッカーの熱心な取材者ではない。たまたま大阪で仕事があり、その前に京都に立ち寄ってみようと思った次第。特にお目当ての選手がいたわけではなく、テーマも予備知識もないまま、試合会場に向かった。

 ところが、である。何も期待せずに臨んだ準決勝が、2試合とも非常にスリリングかつ望外の面白さ(女子サッカーの関係者の皆様、物見遊山めいた取材で大変失礼いたしました)。なぜ、私のような女子サッカービギナーでも、皇后杯を楽しむことができたのか? 思い当たる理由を7つ、ご紹介することにしたい。

①想像していたほどチーム力に差がない

延長前半早々、広島の中嶋淑乃が勝ち越しゴール。浦和も112分に清家貴子の同点弾が決まる。
延長前半早々、広島の中嶋淑乃が勝ち越しゴール。浦和も112分に清家貴子の同点弾が決まる。

 準決勝は、神戸がちふれASエルフェン埼玉と、浦和がサンフレッチェ広島レジーナと、それぞれ対戦。WEリーグの現時点での順位でいえば、1位(神戸)vs10位(埼玉)、2位(浦和)vs8位(広島)という顔合わせである。

 WEリーグでは、浦和と神戸、そして日テレ・東京ヴェルディベレーザが「ビッグ3」と呼ばれており、他のクラブを実力的に凌駕しているイメージがあった。ところが蓋を開けてみると、埼玉も広島もビッグ3に臆することなく互角の戦いを見せていた。

 結果として、2試合とも延長戦に突入。神戸は3−2で埼玉の追撃を振り切り、浦和は土壇場で3−3に追いついてPK戦で広島に競り勝った。一発勝負のカップ戦ならでは、と言われればその通り。それでも、想像していた以上にチーム力に差がないことを確認できたのが、この日の一番の収穫だった。

②まったく見劣りしないスピードとインテンシティ

準々決勝でベレーザを破っている埼玉(白)。WEリーグ首位の神戸にも果敢に挑んだ。
準々決勝でベレーザを破っている埼玉(白)。WEリーグ首位の神戸にも果敢に挑んだ。

 女子サッカーのファンからすると「何を今さら」と思われるかもしれない。去年のワールドカップにおける、なでしこJAPANの戦いを見ていれば、もはや「女子だから」「男子だから」というエクスキューズが、まったく無意味であることは私も承知している。

 とはいえ国内のカップ戦でも、これほどスピーディで強度の高いプレーを間近で見られたことは、女子サッカーを見慣れていない私にとって新鮮な驚きであった。日本の女子サッカーは日々進化を続けており、その度合いはWEリーグの誕生を経て、ますます加速していることが確認できた。

③けっこう知っている選手がいる

浦和所属の日本代表、猶本光。42分には見事なループシュートを放って2点目を決めた。
浦和所属の日本代表、猶本光。42分には見事なループシュートを放って2点目を決めた。

 あまり馴染みのない競技でも、知っている選手が出場していれば、それだけで興味は湧く。神戸の山下杏也加、守屋都弥、三宅史織、田中美南。浦和の猶本光、高橋はな、清家貴子、石川璃音。皇后杯準決勝では、昨年のワールドカップ・メンバー23人のうち、実に8人のプレーを見ることができた。

 男子のカップ戦ファイナルと比較するとわかりやすい。昨年12月に開催された天皇杯決勝(川崎フロンターレvs柏レイソル)の出場選手の中で、今回のアジアカップに招集されている日本代表は、柏の細谷真大のみであった。

 男子と同様、女子も海外進出が続いているが、国内で活躍する日本代表クラスの選手も多い。また、2011年のワールドカップ優勝メンバーで、今もプレーを続けている選手との再会もうれしい。浦和の安藤梢(41歳となった今年もゴールを量産)、そして神戸の髙瀬愛実は、決勝の舞台に登場する可能性が高い。

④新たな推しプレーヤーとの出会い

52分に同点ゴールを決めた埼玉の吉田莉胡。下部組織出身で21歳ながら主将を務める。
52分に同点ゴールを決めた埼玉の吉田莉胡。下部組織出身で21歳ながら主将を務める。

 もちろん既知の有名選手だけでなく、新たな推しプレーヤーとの出会いもある。この日、私が注目したのが埼玉の10番にしてキャプテン、FW/MFの吉田莉胡。なんと、2002年生まれの21歳である。

 彼女のプレーで目を引いたのは、縦方向への思い切りのよい飛び出し、そしてトラップからシュートに至るフォームによどみがないことである。この日も52分、祐村ひかるからのクロスをきれいに納め、左足で同点ゴールを決めている。

 2020年にコスタリカで開催された、U-20女子ワールドカップの準優勝メンバーでもある吉田。残念ながら今大会は、前回に続いての準決勝敗退となったが、いずれWEリーグでも彼女のプレーを観てみたいと思う。

⑤サポーターは意外と男性が多い

浦和サポーターは女子の応援も熱い。人数は男性が多いが力強く太鼓を叩く女性の姿も。
浦和サポーターは女子の応援も熱い。人数は男性が多いが力強く太鼓を叩く女性の姿も。

 女子サッカーを応援しているサポーターは、どんな人たちなのだろうか。男性のほうが多かったのが、少し意外であった。コールリーダーがいて、太鼓がいて、大旗が振られているのは、Jリーグのゴール裏と同じ。集団としては小ぢんまりとした印象だが、その分、個々の熱量が高く感じられた。

 私のような男性が女子スポーツを観戦する場合、どういう態度で臨むべきか、妙に考えすぎてしまう人が一定数いるように感じる。純粋にマイクラブを応援して、サッカーを楽しむのであれば、男女の性差に囚われる必要はまったくない。この日のサポーターたちを見て、その思いを新たにした。

⑥汚い野次がほとんどない

壮絶な点の奪い合いを経てPK戦で敗れた広島。試合後、サポーターからは温かい声援が。
壮絶な点の奪い合いを経てPK戦で敗れた広島。試合後、サポーターからは温かい声援が。

 浦和vs広島の試合は、延長戦で双方が1点ずつを加えて3-3で終了。決勝の最後の切符の行方は、PK戦に委ねられることとなった。相手のキックの際には、男子の試合に負けないくらいのブーイングの応酬。結果、広島は3人目と4人目が失敗し、浦和の決勝進出が決まった。

 ブーイングはあっても、汚い野次はほとんど聞こえてこない。それが女子サッカーの良さだと思う。周囲を威嚇するような野次や罵声。敗れた選手への容赦ない批判。そしてクラブへの誹謗中傷。残念ながらJリーグでは、こうした光景を時おり見かけることがある。

 Jリーグの過去の調査によれば、初観戦した観客がリピーターにならない一番の理由は「近くにいた観客の言動が不快に感じられたから」だという。そうして考えるなら、汚い野次がほとんど聞かれない女子サッカーの応援文化は、極めて貴重で価値あるものといえよう。

⑦「ひたむき(さ)」だけではない何かがある

120分に北川ひかるの決勝ゴールで決勝進出を果たした神戸。7大会ぶりの優勝まであと一歩。
120分に北川ひかるの決勝ゴールで決勝進出を果たした神戸。7大会ぶりの優勝まであと一歩。

 2011年のワールドカップで優勝して、日本に女子サッカーブームが起こった時、決まって語られた言葉が「ひたむき(さ)」であった。もちろん、今でも「ひたむき」であることに変わりはない。けれども、それだけでないのが2024年の皇后杯であり、女子サッカーなのだと思う。

 個性豊かな選手たち、クオリティの高いプレー、いい意味で読めない試合展開、そしてコンパクトながら熱量溢れる応援──。普段WEリーグを観ていない人でも、明日の皇后杯決勝は多いに楽しめるはずだ。とりわけ関西在住のサッカーファンには、ぜひヨドコウのスタンドで確認していただきたい。

 浦和と神戸による皇后杯決勝は、明日27日の13時キックオフだ。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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