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元日での代表戦が「大成功」と言える7つの理由 「三方良し」だった国立での日本vsタイを振り返る

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
国際Aマッチで連勝を続けている日本代表。このタイ戦で歴代最多となる9連勝を達成。

 2024年の元日、国立競技場で開催された「TOYO TIRES CUP 2024」日本代表vsタイ代表。前半は無得点だった日本は、後半に攻撃陣を入れ替えると5得点を挙げて、見事に勝利を収めた。

 今月12日からカタールで開催される、アジアカップに向けた「壮行試合」という意味合いもあった、このタイ戦。前後半のコントラストの激しさに「強化試合として微妙」という見方もあるようだが、現地で取材していた私の評価は「大成功」である。

 試合終了直後、石川県で震度7の地震が発生。NHKは森保一監督のインタビュー映像を中断して、地震報道に切り替えたため、史上初となる元日での代表戦の話題は一気に吹き飛んでしまった。ここであらためて、この試合が「大成功」だったと言える理由を7つ、挙げておきたい。

①アジアカップ直前に東南アジア勢と試合できたこと

この日の入場者数は6万1916人。タイとの親善試合で、これほど観客が集まったことをまず評価したい。
この日の入場者数は6万1916人。タイとの親善試合で、これほど観客が集まったことをまず評価したい。

 アジアカップのグループステージで、日本が対戦するのは、ベトナム、イラク、インドネシア。東南アジア勢と2試合を戦うことを考えれば、このタイミングでタイと手合わせできた意義は小さくないだろう。

 最新のFIFAランキングでは、日本17位、ベトナム94位、インドネシア146位。今回対戦したタイは113位であり、ベトナムやインドネシアとスタイルが同じというわけではない。それでも、本番でのイメージが、より明確になったのは間違いない。その意味で、非常に良いマッチメイクだった。

②対戦相手が日本と縁の深いタイだったこと

タイ代表を率いる石井正忠監督(右端)。初陣での対戦相手が日本というのは、実に運命的と言えよう。
タイ代表を率いる石井正忠監督(右端)。初陣での対戦相手が日本というのは、実に運命的と言えよう。

 そのタイ代表を率いるのは、かつて鹿島アントラーズや大宮アルディージャでも指揮を執っていた石井正忠監督。奇しくも、この日本戦が初陣となった。

 選手に目を移すと、エカニット・パンヤ(浦和レッズ)やスパチョーク・サラチャート(北海道コンサドーレ札幌)といった現役Jリーガーに加え、ヴィッセル神戸や横浜F・マリノスでもプレーしたティーラトン・ブンマタンの名もあった(いずれも後半に出場)。

 Jリーグのアジア戦略が始まったのは2012年で、「タイの至宝」チャナティップ・ソングラシン(今回は怪我で招集されず)が来日したのが2017年。その後もチャーン・スック(タイ代表の愛称で「戦象」の意)の選手たちがJリーグで活躍する一方、タイで評価を高める日本人指導者も増えた。

 その延長線上に、今回の対戦があったことを思うと、実に感慨深い。

③新しい戦力を積極的にテストできたこと

フレッシュな顔ぶれが並ぶ日本のスターティングイレブン。11人中5人がJリーガーだったことにも注目したい。
フレッシュな顔ぶれが並ぶ日本のスターティングイレブン。11人中5人がJリーガーだったことにも注目したい。

 今回の日本のスターティングイレブンのうち、藤井陽也、伊藤涼太郎、奥抜侃志が初キャップ。さらに後半からは、川村拓夢と三浦颯太が代表デビューを果たしている。主力の多くを欠いていたこと、そして華試合の要素もあったことが、こうした大胆な選手起用を後押ししたのは間違いない。

 もっとも今回の起用が、必ずしも成功したとは言い難い。とりわけ45分で退いた伊藤涼や奥抜にとっては、いささかほろ苦いデビュー戦となってしまった。この経験が、今後のキャリアにポジティブに影響することを願いたい。

④新しい戦術オプションが生まれたこと

この試合でキャプテンマークを託された伊東純也(右)と、後半から出場して攻撃陣を活性化させた堂安律。
この試合でキャプテンマークを託された伊東純也(右)と、後半から出場して攻撃陣を活性化させた堂安律。

 今回はFIFAマッチデーではないため、海外から招集できたのは、ドイツ、フランス、オランダー、ベルギー、カタールでプレーする選手のみ。スタメンのうち、2022年のワールドカップに出場していたのは、キャプテンマークを託された伊東純也、そしてファーストゴールを挙げた田中碧の2人だけだった。

 前半は停滞気味だった日本の攻撃が、劇的に改善されたのは、堂安律と中村敬斗が投入された後半開始時から。とりわけ中央で起用された堂安は、右の伊東とポジションチェンジを繰り返しながら、何度もチャンスを演出。日本の新たな戦術オプションが、思わぬ形で生まれることとなった。

⑤「強い日本代表」をライバルたちに示せたこと

前半は無得点に終わった日本だったが、主力を続々と投入した後半は5ゴールを奪ってタイを圧倒した。
前半は無得点に終わった日本だったが、主力を続々と投入した後半は5ゴールを奪ってタイを圧倒した。

 この日の勝利で、日本の連勝記録は歴代最多となる9試合に更新。ランキングで落ちるタイが相手とはいえ、このタイミングで5-0で大勝したことは、アジアカップで対戦するライバルたちに少なからぬプレッシャーを与えることとなった。

 その後に行われたアジアカップのメンバー発表で、遠藤航や冨安健洋や久保建英や三笘薫など、最強とも言える顔ぶれが並ぶこととなった。コンディションに不安を抱える選手もいるが、主力抜きでもタイを圧倒した日本は、今大会では間違いなく優勝候補の筆頭。自信をもって本番に臨んでほしい。

⑥Jリーグファンにも楽しめる試合だったこと

82分には途中出場の川村拓夢が、ヘディングでネットを揺らして4点目。これが代表初ゴールとなった。
82分には途中出場の川村拓夢が、ヘディングでネットを揺らして4点目。これが代表初ゴールとなった。

 近年の日本代表は、海外でプレーする選手が主流となって久しく、Jリーガーがスタメンに食い込めるのはGKくらいになってしまった。しかし今回は、5人のJリーガーがスタメン出場。5ゴールのうち4点目を決めたのは、サンフレッチェ広島の川村であった。

 加えて、対戦したタイにも現役Jリーガーが含まれており、指揮官もJリーグに大変ゆかりのある人物。またJ2ファンにとっては、ヴァンフォーレ甲府の三浦(来季から川崎フロンターレに移籍)が途中出場したことに、サポートクラブを超えて誇らしさを覚えたのではないか。

 客層がやや異なるとされる、代表ファンとJリーグファン。しかし今回の試合は間違いなく、どちらも十分に楽しめる試合となった。このことは、もっと評価されて良いように思う。

⑦元日にサッカーコンテンツを提供できたこと

試合後のフラッシュインタビューに応じる伊東。アジアカップに向けて、大いに期待が持てる試合となった。
試合後のフラッシュインタビューに応じる伊東。アジアカップに向けて、大いに期待が持てる試合となった。

 サッカーファンにとって「元日・国立」といえば、やはり天皇杯決勝。1968年の第48回大会から続いてきた「伝統」だが、直近の3大会はワールドカップ(予選含む)やアジアカップの日程を優先して、天皇杯決勝は元日から前倒しで開催されている。

 今後、Jリーグが秋春制に移行すれば、天皇杯の決勝も5月くらいに開催されることになるだろう。しかしながら、元日のスタジアム観戦が、日本のサッカーファンの習性となっているのも事実。また元日でのメディア露出は、サッカー界にとっても得難いものであり、むざむざと手放すべきではない。

 そうして考えるなら、史上初となる元日での代表戦は、アジアカップに臨む代表チームはもちろん、サッカーファンやJリーグファン、そして主催者であるJFAにとっても「三方良し」のコンテンツだったと言える。試合開催に尽力した皆さんには、あらためて感謝を申し上げたい。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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