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カップ戦での「東京ダービー」で起こったこと 天皇杯3回戦:FC東京(J1)vs東京ヴェルディ(J2)

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
12年ぶりに実現した「東京ダービー」は、天皇杯らしからぬ緊張感の中で開催された。

 天皇杯 JFA 第103回全日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)の3回戦16試合が7月12日に各地で開催された。この3回戦では16試合中12.5試合が、カテゴリーが下のクラブのホームグラウンドで開催されている。

 ん、「12.5試合」って? それは味の素スタジアムが、J1のFC東京とJ2の東京ヴェルディ、両クラブのホームグラウンドであるからだ。先月に行われた2回戦、FC東京は福島ユナイテッドFCに3−1、東京ヴェルディはザスパクサツ群馬に2−1で勝利。ここに天皇杯での「東京ダービー」が実現することとなった。

 最後に東京ダービーが行われたのは、FC東京がJ2だった2011年で、この時は2試合ともドローに終わっている。2016年には「Jリーグ・スカパー! ニューイヤーカップ」での対戦があるが、こちらはキャンプ地である沖縄での開催。純粋な意味での東京ダービーは、実に12年ぶりということになる。

 この3回戦で私は、味スタでの取材を選んだのだが、当初はそれほど殺伐とした雰囲気になるとは考えていなかった。もちろん、東京ダービーの熱さや激しさは承知している。だが、それよりも牧歌的な「天皇杯3回戦」のイメージのほうが、私の中では支配的だった。

 ところが出発前、何気なく眺めたTwitterのタイムラインを見て、思わず目を剥いた。味スタの近くにある、ヴェルディのスポンサー企業の看板に、生卵がぶつけられた写真がアップされていたのである。「これはちょっと……」と思いながら、取材者も気を引き締める必要性を感じた。

120分に及ぶ死闘は1−1で終了。PK戦でも両軍8人までが成功し、9人目の明暗でFC東京が勝利した。
120分に及ぶ死闘は1−1で終了。PK戦でも両軍8人までが成功し、9人目の明暗でFC東京が勝利した。

■12年ぶりの東京ダービーはPK戦に突入する大接戦

 この日の味スタの入場者数は、3回戦16試合では最多となる1万7497人。平日夜の開催でありながら、1万人を超えたのもこのカードのみである。試合前、ヴェルディの城福浩監督の名前がアナウンスされると、古巣のFC東京のゴール裏から猛烈なブーイングが発せられた。

 土曜日に浦和レッズとのアウェイ戦を戦った、FC東京の選手の入れ替えは3人のみ。対するヴェルディは、日曜日に国立競技場でFC町田ゼルビアと対戦している。国立開催の首位決戦(しかも「東京クラシック」)に注力しなければならず、天皇杯ではGKのマテウス以外の10人を入れ替えることとなった。

 19時3分キックオフの試合は、地力と経験値で上回るFC東京のペースで進む。そして20分には先制。左サイドからパスをつなぎ、最後は塚川孝輝がペナルティエリア前で右足を振り抜く。弾道はマテウスのグローブを弾いて、そのままネットを揺さぶった。

 しかし、このままでは終わらないのが東京ダービー。試合を振り出しに戻したのは、68分にピッチに送り込まれた2種登録の白井亮丞である。前回のダービーでは、まだ小学1年生だった18歳。投入から2分後の70分、北島祐二からのCKを頭で合わせ、ヴェルディが同点に追いついた。

 その後は両者とも一歩も譲らず。延長戦でも互角の戦いが続き、勝敗の行方はPK戦に委ねられることとなる。先行はFC東京だったが、ここでも両者は8人目まで全員が成功。しかし9人目の東慶悟と千田海人が明暗を分け、FC東京がダービーを制して4回戦進出を果たした。

試合前、FC東京のゴール裏から花火が何発も打ち上がる。天皇杯だから「お咎めなし」と思ったのだろうか?
試合前、FC東京のゴール裏から花火が何発も打ち上がる。天皇杯だから「お咎めなし」と思ったのだろうか?

■カテゴリーが異なるカップ戦で起こった残念な出来事

「カップ戦であり、熱のこもったダービーとなれば、いろんなことが起こり得る。すべてに対して準備しなければならないが、選手たちが勇敢かつ献身的に戦ってくれた。クラブに関わるすべての人々のおかげであり、サポーターにとって特別な夜になった。東京は青と赤だ」

 勝利したFC東京のピーター・クラモフスキー監督は、今季の4月4日にJ2のモンテディオ山形の監督を解任されて、6月20日から現職。就任から1カ月も経たないのに「東京は青と赤だ」と言い切れるところに、公式戦4試合負けなしの手応えが見て取れる。一方、敗れたヴェルディの城福監督。

「選手は、今持っているものをすべて出して、よく頑張ってくれた。勝てなかったのは私の責任。この(敗戦の)借りは、同じステージで返さないといけない。今日の悔しさを今季(残りの)すべての試合にぶつけて、必ず同じステージに立ってリベンジしたい」

 12年ぶりとなる東京ダービーは、城福監督にとっては15年ぶり。当時、率いていたFC東京はJ1だった。今回はJ2クラブの指揮官ゆえに、選手層をはじめ、相手との力の差を痛感したことだろう。それでも2種登録の白井を含め、出番の少なかった選手を中心に120分間を戦い抜くことができた。このことは、J1昇格を懸けた今後の戦いにプラス材料となり得るだろう。

 いうまでもなく天皇杯は、カテゴリーの異なる対戦カードを楽しめる大会。それゆえに、12年ぶりの東京ダービーが実現し、ピッチ上ではハイテンションなゲームが展開された。しかしピッチ外では、ヴェルディのスポンサー企業の看板が汚され、キックオフ直前にはFC東京のゴール裏から花火が打ち上げられている(もちろん禁止行為)。非常に残念な話だ。

 12年ぶりのダービーということで、リーグ戦にはない高揚感を抑えきれなかったのかもしれない。あるいは主管がクラブではなく、東京都サッカー協会ということで「大目に見てくれるかも」という目論見もあったのかもしれない。しかし実際には、すでに影響は各方面に現れている。

 ゴール裏の自浄能力に期待したい。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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