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後半勝負の「団結力」がもたらした劇的勝利【準々決勝】C大阪(J1)vs広島(J1)

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
ヨドコウ桜スタジアムで行われたC大阪と広島の天皇杯準々決勝は劇的な展開となった。

■ヨドコウ初取材と天皇杯での声出し応援

 9月7日、天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)準々決勝の4試合が各地で行われた。カードは以下のとおり。

アビスパ福岡(J1)vsヴァンフォーレ甲府(J2)@ベスト電器スタジアム

ヴィッセル神戸(J1)vs鹿島アントラーズ(J1)@ノエビアスタジアム神戸

京都サンガF.C. (J1)vs東京ヴェルディ(J2)@味の素スタジアム

セレッソ大阪(J1)vsサンフレッチェ広島(J1)@ヨドコウ桜スタジアム

 勝てばどちらも「初のベスト4」となる福岡vs甲府も気になるが、今回はヨドコウでのC大阪vs広島をチョイス。ちょうど西日本で別の取材があったこと、昨年オープンしたヨドコウをまだ訪れていなかったこと、そして今季の広島の「ある傾向」について確認しておきたかったのが理由である(これについては後述)。

 取材現場に到着して、驚いたことが2つあった。まず、ヨドコウのメインスタンドとバックスタンドが、改修によって入れ替わっていたこと。メディアの受付が見当たらないと思ったら、係員に「こっちはバックスタンドです」と教えられ、慌ててスタジアムを半周することとなった。ホーム側のゴール裏にはクラブのオフィシャルショップが入り、バックヤードもすっかりきれいになっていた。

 もうひとつ驚いたのが、この日は声出し応援適応試合だったこと。条件付きの声出し応援が始まったのは、Jリーグでは6月11日だが、天皇杯ではラウンド16(7月13日〜20日)まで声出し禁止だった。今回は、ノエスタでの神戸vs鹿島以外の3試合が、応援適応試合。ようやくカップ戦でも、サポーターのコールやチャントが聞こえるようになったのは感慨深い。今大会のみならず2020年大会から、私はこの時を待っていたのである。

85分、柏好文の劇的なゴールで同点に追いつく広島。しかし彼らの反撃は、これで終わりではなかった。
85分、柏好文の劇的なゴールで同点に追いつく広島。しかし彼らの反撃は、これで終わりではなかった。

■後半終了間際で広島が見せた劇的な2ゴール

 18時30分キックオフの試合は、ゴール裏の声援に後押しされたC大阪がゲームの主導権を握った。C大阪も広島も、共にYBCルヴァンカップでベスト4に進出しているが、今季のリーグ戦では広島が2勝。ホームで0-3と完敗しているC大阪としては、選手はもちろんサポーターも、この試合に懸ける思いは強かったはずだ。

 その思いがゴールにつながったのが40分。左サイドから為田大貴がゴール前に素早くクロスをを送り、アダム・タガートが頭で反応してネットを揺さぶる。広島は、塩谷司、荒木隼人、佐々木翔の3バックを中心に強固なブロックで対抗していたが、ビルドアップとロングボールを織り交ぜながらシュートを放ち続ける相手に、ついに先制点を許してしまう。前半はC大阪の1点リードで終了。

 ハーフタイム、広島のゴール裏からコールリーダーの声が聞こえてくる。「1点リードされているけれど、これまでも後半にゴールを決めて勝利している。最後まで諦めずに応援しよう!」という主旨だった。今季のリーグ戦で広島は14勝しているが、そのすべてで後半にゴールを記録している。この試合を選ぶ理由となった、今季の広島の「ある傾向」とは、まさにこのことであった。

 後半の広島は、チャンスを作るシーンが増えるものの、ゴール前で存在感を示すキム・ジンヒョンの壁はなかなか崩せない。しかし、C大坂のベンチが逃げ切りを意識しはじめた85分、ついに広島が底力を発揮する。ドウグラス・ヴィエイラがゴール前でクリアボールを拾い、ヒールでバックパス。受けた塩谷が縦にボールを送り、最後は柏好文が反転しながら右足でゴールに突き刺す。

 土壇場で同点として広島は、延長戦のことなど頭になかったのか、アディショナルタイムに入っても攻勢を緩めない。そして90分+1分、貪欲なプレスバックで相手ボールを奪った森島司が、右サイドをドリブルで前進してクロスを供給。これを川村拓夢が頭で合わせ、ついに広島が逆転に成功する。そのままサポーターに駆け寄る川村、そしてチームメイトたち。そのまま広島が、2015年以来となるベスト4進出を果たした。

試合後、円陣を組みながら選手をねぎらう広島のスキッべ監督。後半の勝負強さは何に起因するのか?
試合後、円陣を組みながら選手をねぎらう広島のスキッべ監督。後半の勝負強さは何に起因するのか?

■広島の指揮官が口にした「団結力」について

「今日は最初の1秒から最後のホイッスルが鳴るまで、両チームとも素晴らしいカップ戦を見せてくれた。(決勝ゴールは)最後の最後で拓夢がヘディングで決めてくれたが、それまでの努力が込められたゴールだった。(アシストした)森島も、力強いプレーから相手ボールを奪ってくれた。今日は彼らだけでなく、チーム全体を褒めたい」

 試合後、広島のミヒャエル・スキッべ監督は、このように選手たちを手放しで称えていた。前半のC大阪の猛攻に対し、身体を張ってブロックしていた佐々木は、怪我のためハーフタイムで交代。それ以外は、非常に満足できる試合内容だったと言えよう。それにしても、今季の広島の後半における勝負強さは、いったい何に起因するのだろうか。指揮官が口にしたのは「団結力」。ただ、それだけだった。

 サッカーという競技では、ピッチ上で表現される現象について、言語化と図式化を試みる傾向が強い。しかし、80分を過ぎても衰えぬ運動量とゴールへの推進力、そして実際に決めきる今季の広島について、明確に言語化するのは難しい。現時点では、それこそ「団結力」としか説明のしようがないのが実情である。

 この日はJ1リーグが1試合あり、横浜F・マリノスが湘南ベルマーレに勝利して首位に浮上。暫定首位だった広島は、2ポイント差の2位となったが、ルヴァンカップを含めて3冠のチャンスがある。今後も厳しい日程に苦労するだろうが、さらなるミラクルを期待したいところだ。

 天皇杯の準々決勝は広島のほかに、甲府、鹿島、京都が勝利。10月5日の準決勝のカードは、甲府vs鹿島、京都vs広島と決まった(会場は未定)。初のベスト4となったJ2甲府や、2011年以来の決勝を目指す京都など、カップ戦らしい顔ぶれとが並ぶ。今季の天皇杯も、残り3試合。引き続き、サポーターの声援の中で開催されることを期待したい。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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