■厳しい日程の八戸はリーグ戦と同じメンバーで

 七夕の7月7日、天皇杯JFA第101回全日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)の3回戦16試合のうち、AFCアジア・チャンピオンズリーグ出場チームのカードを除く12試合が各地で開催された。6月9日と16日に開催された2回戦では、静岡県代表のHonda FCが横浜F・マリノスにPK戦で競り勝ったり、京都府代表のおこしやす京都AC(お京都)がサンフレッチェ広島に5−1で大勝したり、各地でカップ戦らしい波乱が起こっている。

 この3回戦では、レモンガススタジアム平塚(レモンS)で開催される、ヴァンラーレ八戸vs湘南ベルマーレをチョイス。前者はJ3で後者はJ1だが、ここは「青森県代表vsJ1クラブ」と見るべきだろう。八戸はラインメール青森との県代表決定戦を戦い、2−0で勝利して2大会ぶりに天皇杯出場を果たしている。J1・J2クラブが予選なしで出場できるのに対し、J3クラブは必ず都道府県予選に勝利すれば出場権が得られる。つまり八戸は「青森県を代表するチーム」として、今大会に出場しているのである。

 あらためて、両者の勝ち上がりを振り返っておこう。今回、ホームなのになぜかビジター扱いの湘南は2回戦からの出場。レモンSで大阪府代表のFC大阪(JFL)を迎えた試合は、120分にわたって両者スコアレスが続き、PK戦の末に4−3で辛くも勝利している。一方、ビジターなのにホーム扱いの八戸は、1回戦は秋田県代表の猿田興業に13−0で圧勝。続く2回戦では、中村俊輔がスタメン出場した横浜FCに2−1で勝利している。八戸がJ1クラブに勝利し、3回戦に進出したのは2017年大会と19年大会に続いて3度目だ。

 ここで気になるのが、八戸の試合日程。日曜日にJ3を戦って、中2日での天皇杯、さらに中2日で再びリーグ戦である。対する湘南は、前後のリーグ戦はいずれも中3日。日程的には、明らかに湘南のほうが有利だ。この日の湘南は、DFの舘幸希と岡本拓也を除いて、直近の試合からがらりとメンバーを変えてきた。ところが八戸は、3日前のリーグ戦とまったく同じスターティングイレブン。リーグ戦の疲労をものともせず、彼らはベストメンバーで挑むことを選んだ。

62分に同点ゴールを決めた坪井一真(22番)。「チームメイトがしっかりつないでくれたおかげ」とコメント。
62分に同点ゴールを決めた坪井一真(22番)。「チームメイトがしっかりつないでくれたおかげ」とコメント。

■梅崎のFKで湘南が先制するも9分後に八戸が追いつく

 試合が始まると、コンディション的には不利なはずの八戸が、想像していた以上に戦えていることに驚かされた。知り合いの八戸サポーターの情報では、注目選手は「14番(センターFWの前澤甲気)と30番(左ワイドの黒石貴哉)」。しかし実際に目立っていたのは、GKの蔦颯を中心とするディフェンス陣だった。相手の攻撃を的確に弾き返し、さらに積極的に攻撃に転じる姿勢を見せる。前半のシュートは1本に終わったものの、0−0で前半を終えた時の八戸の選手たちは、いずれも表情に自信がみなぎっていた。

 それでも先制したのは湘南。53分、キャプテンマークを付けた梅崎司がペナルティーエリア付近で得たFKを直接決めた。キッカーの右足から放たれた弾道は、八戸が敷いた6枚の壁をギリギリ超える高さで、しかも緩いスピードでゴールに吸い込まれていった。「相手のGKがファーサイドを意識していたので、距離的に近いニアサイドだったら緩いボールでもはいるんじゃないか」とは、試合後の梅崎のコメントである。

 しかし、これで折れる八戸ではなかった。62分、右サイドからドリブルで駆け上がった丸岡悟が折り返すと、前澤を経由して最後は坪井一真が左足で同点とする。得点を決めた直後、一目散にベンチまで走ってサブのメンバーと喜び合った坪井。「自分は最後にシュートしただけで、チームメイトがしっかりつないでくれたおかげです」と語っている。追いつかれた湘南はその後、ウェリントンや池田昌生といった攻撃の選手を投入するも90分で決着はつかず、試合は延長戦に突入していく

 最後のゴールが決まったのは、延長戦後半の113分。ゴール前での八戸のクリアボールをウェリントンが頭で落とし、これに山本脩斗が反応するも、入れ替わるように平岡大陽が右足で蹴り込んでネットを揺らす。79分、梅崎に替わってピッチに送り込まれた平岡は、浮嶋敏監督から「ウェリントンにボールが入ったときのセカンドを狙うように」と指示されていたという。指揮官のアドバイスどおりの勝ち越しゴールが決まり、そのまま2−1で湘南が逃げ切りに成功。八戸は、2試合連続のJ1撃破はならなかった。

八戸を率いる葛野昌宏監督(右)。天皇杯の舞台で、かつて所属した湘南と25年ぶりに対戦することに感慨もひとしお。
八戸を率いる葛野昌宏監督(右)。天皇杯の舞台で、かつて所属した湘南と25年ぶりに対戦することに感慨もひとしお。

■対戦相手の指揮官として懐かしのスタジアムに戻ってきて

「延長での決勝ゴールで勝利しましたけれど、八戸さんは球際も切り替えも含め、非常にコンパクトな守備陣で素晴らしいチームだと思いました。それを破るということができないもどかしさはありましたが、相手の健闘を讃えたいと思います」

 3大会ぶりの4回戦進出を果たしたものの、カテゴリーが下の相手に2試合続けて120分を戦うことになった湘南。浮嶋監督は相手の守備力を認めた上で、自分たちの課題について「いいシュートが決めきれない(プレーの)質の部分」を挙げた。一方、敗れた八戸の葛野昌宏監督は「相手を追い詰めることができたましたが、守備の時間が長くなってしまい、奪ってからの攻撃ができないところが苦しかった」とコメント。その上で「悔しい敗戦」と総括する。

 ところで、この日の試合会場には《ガンバレ葛野昌宏 湘南平塚支部》と書かれた古い横断幕が掲げられてあった。今年46歳になる葛野監督が、高卒ルーキーとして最初に入団したのが、当時のベルマーレ平塚。ちょうどJリーグに昇格したばかりで「湘南の暴れん坊」と呼ばれていた1994年のことである。残念ながら、所属した3シーズンは出場機会なし。それから実に25年ぶりに、対戦相手の指揮官として懐かしのスタジアムに戻ってきた。「やはり感慨はありましたか?」と質問すると、こんな答えが返ってきた。

「もちろんありました。僕自身、21歳までここでお世話になりましたから。当時、応援してくれていたサポーターの方とも(試合前に)お会いして、お互いに年をとったなあと(笑)。こうしてサッカーを続けてたからこそ、こうした舞台に導かれたんだということ。そしていろんな方に支えられて、ここまで来れたことを実感しました」

 このような再会の場面があるのもまた、天皇杯という大会の面白さであると言えよう。この日は青森県を含む、6府県の代表が大会から姿を消すこととなった。2回戦のような番狂わせも期待していたが、やはりJクラブの壁は分厚かった。唯一、Jクラブ以外で勝ち残っているのは、お京都に勝利したアマチュアシードのヴェルスパ大分(JFL)。4回戦の相手は、Honda FCを退けたジュビロ磐田に決まった。なお、3回戦の残り4試合は、7月14日と21日、そして8月4日と18日に開催される。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>