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東京23FCのクラファンが意味するもの J未満の地域クラブが問われる存在意義

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
東京23区内からJリーグを目指す東京23FC。本拠地の江戸川区陸上競技場にて。

■なぜアマチュアクラブがクラファンを開始したのか?

 Jリーグの公式戦再開が待たれる中、個人的に気になるのが「J未満」のカテゴリーである。4部にあたるJFLは、7月18日と19日に開幕。9つある地域リーグのうち、関東リーグ1部は、7月11日と12日での開幕を目指している。新型コロナウイルスの感染拡大により、いずれのリーグも開幕日が大幅にずれ込んだことで、本来のホーム&アウェーから1回戦総当りとなることが決まった。

 そんな中、関東1部所属の東京23FCがクラウドファンディング(以下、クラファン)による支援を訴えている。「コロナで年内消滅が現実的に。それでも江戸川と共に乗り越えたい。東京23FCの挑戦」がそれで、6月30日までに500万円を集めるのが目標。5月23日からスタートし、6月10日現在で目標額の32%に当たる163万4080円を集めている。

「世の中がコロナの影響で厳しい中、クラファンをスタートしましたので、1週間で(目標金額の)20%超えてくれれば良いと思ってました。ほぼ、それくらいの勢いだったので、正直ほっとしています。金額だけでなく、皆さんからの応援メッセージもSNSなどに送られていて、とても勇気づけられていますね。ただ、突然の発表だったので多くの方にご心配もかけてしまい、大変申し訳なく思ってもおります」

 神妙な表情で語るのは、17年前に同クラブを立ち上げ、現在はGMを務める原野大輝さんである。東京23FCは2003年、まずは東京都リーグ4部からスタート。10年後の2013年に関東1部に昇格し、「東京23区内からJリーグ入りを目指す」という目標を明確にしていく。現在は江戸川区陸上競技場(通称、江戸陸)をホームとして、江戸川区に根ざした活動を続けてきた。

 もっとも「Jリーグを目指す」と言っても、現在の東京23FCは純然たるアマチュアクラブ。スタッフとして雇用されている選手もいるが、その他の選手は働きながらプレーしている(ゆえにトレーニングは平日の早朝に行われる)。地域リーグ所属のアマチュアクラブは、なぜクラファンにチャレンジしたのか。その背景と意義について、当事者への取材を通して考察してみたい。

東京23FCの原野大輝GM(右)と土屋征夫監督。土屋監督は東京Vや甲府などでプレー。
東京23FCの原野大輝GM(右)と土屋征夫監督。土屋監督は東京Vや甲府などでプレー。

■コロナ禍の影響でスポンサー収入と入場料収入が激減

「天皇杯予選のベスト4が決まったタイミングで(関東リーグの)開幕延期が発表されました。前期のリーグ戦が中止になったのが痛かったですね。ウチは有料試合で、江戸陸に2000人を集めたこともありました。その分の収入がなくなり、さらに予定していたスポンサー収入の見込みも立たないとなると、経営的に厳しくなるのは明らかでした。もちろん厳しい状況であるのは、われわれだけではありません。その意味で、心苦しい決断ではありました」

 原野GMによれば、クラブ収入は6割がスポンサー収入、2割がイベントを含めた入場料収入、残り2割がアカデミー収入だという。地域リーグは入場料無料が一般的。だが東京23FCは「選手だけでなく、運営もプロを目指すために」2年前から有料としている(前売り800円、当日1500円)。加えてスポンサー露出も半減するし、そもそもコロナ禍で企業もまた苦しい。クラブはJFAの支援制度、そして持続化給付金の申請も行っているが、まずは当座の強化や運営で必要な500万円をクラファンで集めるという決断を下した。

 では、現場はどう思っているのだろうか。話を聞かせてくれたのは、土屋征夫監督である。現役時代は東京ヴェルディやヴァンフォーレ甲府などでプレー。昨年、東京23FCで26シーズンにわたる選手生活を終え、今季からチームを率いている。土屋体制1年目は、まず東京カップで優勝し、悲願のJFL昇格に向けて視界良好かと思われた。そんな矢先、3月26日からチームの活動停止を余儀なくされる。

「選手には『自分と家族が感染しないよう、しっかり行動を自制するように』と伝えました。みんな、サッカーがやりたくてしょうがなかったと思うけど、外出せずに室内でのトレーニングを続けていましたね。僕自身、緊急事態宣言の間は試合映像を見ながら、いろいろと戦術を練っていました。でも1カ月くらいで、しんどくなっていきましたね。どんなに考えたところで、それを活かせるタイミングが見えなかったので」

地域リーグでは珍しく東京23FCのホームゲームは有料開催。多い時は2000人もの集客がある。
地域リーグでは珍しく東京23FCのホームゲームは有料開催。多い時は2000人もの集客がある。

■問われているのは地域におけるクラブの存在意義

 思えば土屋監督自身、現役時代は経営状況が厳しいJクラブでもプレーしてきた。そうした経験を踏まえて、思うところはあるのではないか。指揮官の答えは「僕らができることは、サッカーを通じて人を感動させることだけです」と、実にシンプルなものであった。

「自分はサッカーだけやってきた人間ですが、サッカーが人を感動させる瞬間というものを、これまで何度も目にしてきました。僕らが考えるべきは、試合が再開された時に選手が人を感動させるプレーができるよう、最善の準備をすること。サッカーで表現できることって、本当にそれだけなんですよね」

 東京23FCのチャレンジは、単にクラブ存続の問題だけではなく、もう少し広い視点で捉える必要がある。果たしてこのクラブは、本当に地域の人々に必要とされているか──。このクラファンの結果は、クラブの存在意義の査定そのものと言っても過言ではない。原野GMは語る。

「クラブの活動が止まっていた間、何度かネガティブな発想になることがありましたね。『自分たちの存在意義って、なんだろう』とか『このクラブがなくなっても、何も変わらないんじゃないか』とか。でも、今は違います。このクラブが存続することで、江戸川区民の皆さん、そして応援してくれる方々に夢を与えられる存在にならないといけない。そういう自覚を取り戻すための、クラファンだと思っています」

 今もさまざまなカテゴリーで、さまざまなスポーツクラブが、クラファンを活用した存続のための活動を展開している。どのクラブも乗り切ってほしい。そう願う一方で、コロナ禍におけるクラファンが、クラブの存在意義を可視化させている現実も、痛いくらいに思い知らされる。東京23FCのクラファンが締め切られるまで、あと3週間。クラブ設立以来17年の成果が、今、問われている。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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