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本日明らかになるJリーグ再開への道 会見の注目ポイントとこれまでの経緯

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
Jリーグの村井満チェアマン。今日の会見での発言に注目が集まる。

■村井チェアマンが発表して原副理事長が解説?

《5月29日(金)「第8回臨時実行委員会」の後、Webでのメディアブリーフィングを実施させていただきます。ご取材いただけましたら幸いです。》

 東京を含むすべての都道府県で、緊急事態宣言が解除されたのは5月25日のこと。それから4日後となる本日29日、Jリーグの臨時実行委員会が行われ、その結果がメディアに向けて発表される。Jリーグからのリリースにある「Webでのメディアブリーフィング」とは、Zoomによる記者会見のこと。2月下旬の開幕節以降、新型コロナウイルスの感染拡大で中断を余儀なくされていたJリーグだが、この会見で再開に向けた具体的な方針が明らかにされるはずだ。

 もっとも、Jリーグからのリリースには、再開の日程や開催方法に関する記載は一切ない。また村井満チェアマンも「29日をめどに再開に向けた議論をする」とは語っているものの、この日に発表するとは一言もコメントしていない。それでも今日の会見で、多くの決定事項が発表される可能性が高い、というのが同業者の間での一致した見解。その理由はいくつかあるのだが、ここでは2点ほど指摘しておきたい。

 まず、25日の緊急事態宣言解除以降、Jリーグ再開に関するスポーツ紙のリーク記事が目に見えて増えたこと(内容については後述)。いずれも重要かつ具体的な内容ばかりで、なぜ断続的に漏れ伝わってくるのか不思議で仕方がなかった。Jリーグは決して認めないだろうが、あるいは観測気球的に情報を小出ししながら、ファンの反応を探っているのかもしれない。いずれにせよ、内容の具体性を考えると、大筋はほぼ固まっていると見てよいだろう。

 もうひとつは、今日の19時30分からJリーグチャンネルで、原博実副理事長による緊急生配信が予定されていること。サッカーファンには周知のことだが、村井チェアマンと原副理事長には、広報活動に関して明確な役割分担がある。まず前者がメディア向けに公式アナウンスをして、しかるのちに後者がファン向けに噛み砕いで解説する。今回も決定事項が多岐にわたるため、原副理事長による情報発信が必要とJリーグ側が判断したのだろう。

再開直後のJリーグは無観客で開催されることが濃厚。実施されれば2014年以来となる。
再開直後のJリーグは無観客で開催されることが濃厚。実施されれば2014年以来となる。

■再開は6月27日か7月4日、無観客が有力?

 今日の会見での注目ポイントは、大きく3点。(1)Jリーグの再開日(J3については開幕日)、(2)リーグ戦の開催方式、そして(3)入場者を認めるタイミングである。このほかにも(4)ルヴァンカップのレギュレーション変更、(5)選手やスタッフへのPCR、抗原、抗体などの検査、(6)J1でのVAR(ビデオアシスタントレフェリー)実施の有無についても発表があるかもしれない。が、ここでは(1)から(3)に絞って解説する。

 まず、Jリーグの開催日について。一部報道によると、現在は6月27日と7月4日(いずれも土曜日)の2案で最終調整に入っているとされる。日本に先んじて無観客による試合開催を行った、韓国のKリーグとドイツのブンデスリーガは、それぞれ開催決定から実施まで14日と9日しか要していない。これに対してJリーグは、選手のコンディションを考慮して「再開決定から4週間以上は空ける」ことがコンセンサスとなっている。

 次にリーグ戦の開催方式について。まず無観客でスタートするのは、あらゆる条件を鑑みて間違いないだろう。その上で、移動による感染リスクを避けるために、7月末までは「東西2ブロック」に分けて日程を組むことが報じられている。ちなみに「東西2ブロック」案の前に「3ブロック」案がリークされていたのが興味深い。「観測気球」という見方も、あながち間違っていないのかもしれない。

 そして、入場者を認めるタイミングについて。政府は移動や大規模イベントの制限を、段階的に解除していく方針を発表している。プロスポーツ興行については、7月10日以降の入場者を「5000人または収容率50%」としており、「7月11日から観客を入れて公式戦を開催する可能性」を伝えるメディアもある。仮に再開が6月27日となった場合、無観客試合の開催は2週間のみ。少しでも入場料収入を確保したいクラブにとっては、リーグ再開のタイミングと共に気になるところだろう。

新型コロナウイルス対策連絡会議での専門家グループ。中央が東北大の賀来満夫教授。
新型コロナウイルス対策連絡会議での専門家グループ。中央が東北大の賀来満夫教授。

■ターニングポイントとなった「4月3日の悲劇」

 ともあれ、この日を迎えられることは、いちサッカーファンとしてはもちろん、いち取材者としても感慨深い。2月25日に最初の延期を発表して以降、Jリーグは3月12日、3月25日、そして4月3日にも延期の発表を行っている。最初の3回の会見では、それぞれ再開予定日を明示していたが、ついに4月3日には「白紙」を発表。以後、具体的なロードマップが示されることはなかった。

 こちらの原稿にも書いたが、これまでのJリーグの新型コロナ対策は、常に迅速かつ的確であったと言える。2月25日の延期発表は、あらゆるスポーツ興行団体に先駆けての決断だったし、それから1週間も経たないうちにNPB(日本野球機構)と合同で、感染症対策の専門家を招いての新型コロナウイルス対策連絡会議を立ち上げている。さらに遡れば、今年1月22日の実行委員会では、コロナ担当窓口を各クラブに置くことが決定されているから驚きだ。

 感染予防のためのJリーグの対応は、そのスピード感と決断力に眼を見張るものがあった。その一方で、中止や延期よりも再開の判断のほうが、はるかに難しいことも明らかになった。当初は「観客を入れての再開」を第一に考えていたこともあり、結果として再三にわたる延期の発表を余儀なくされたJリーグ。そのターニングポイントは、やはり4月3日の「白紙」発表であろう(Jリーグ内部では「4月3日の悲劇」と呼ばれている)。

 その日、専門家チーム座長の賀来満夫教授が「現段階では(予定通りの開催は)非常に難しい」と発言。新しい日程を準備し、各クラブにメール発信するタイミングを待っていたスタッフは、突然の「白紙」決定に大いに落胆した。その時に指針となったのが「われわれの理念に基づいて、国民の皆さんの安全が担保されない限り、開催は適切ではない」という村井チェアマンの言葉。それから5月29日まで、再開に向けたJリーグの地道な作業が続くこととなる。

Zoom画面で質疑応答する村井チェアマン。会見に200名以上の記者が参加している。
Zoom画面で質疑応答する村井チェアマン。会見に200名以上の記者が参加している。

■Zoom会見の効果とリモートワークのスキルアップ

 かくしてJリーグとサッカーファンは、待ちに待ったこの日を迎えることとなった。本稿を締めくくるにあたり、Jリーグが実施しているWebでのメディア対応についても言及しておきたい。村井チェアマンがZoom画面に初めて登場したのは、3月17日の夜のこと。その日はJFAハウスでの会見が予定されていたが、田嶋幸三JFA会長の感染が発覚し、急遽Zoomでの仕切り直しとなった。

 以後、3月23日に港区で行われた対策連絡会議後の会見を最後に、Jリーグのメディア対応はすべてWeb上で行われている。Zoomの場合、一番のネックは現場での写真撮影ができないことだ。しかし一方で、移動のコストがかからないこと、大人数での参加が可能となることなど、リアルな会見では得られないメリットもある。

 最近のJリーグの会見では、常に200名以上の記者が参加している。もちろん注目度が高いこともあるが、Zoomによって距離の制約が取り払われたことも大きな理由だろう。これまでのJリーグの定例会見では、在京メディアとフリーランスで占められていたが、今では地方で活動する記者も積極的に参加。全国にJクラブが点在していることを考えれば、今後もWebでの会見は継続すべきなのかもしれない。

 それと関連して言えば、コロナ禍以降のJリーグのリモートワークは、この数カ月で格段にスキルアップしているように感じられる。Zoomによる会見は3月半ばからだが、リモートワークそのものは2月27日からスタートしていた。Jリーグ再開に向けたプロジェクトは、非常に多岐にわたる上に作業量も膨大。それらのすべてが、リモートワークで着実に行われてきたのである。その点についても留意しながら、本日18時からの会見に臨むことにしたい。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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