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応援は手拍子のみ? 会場内での飲食はNG? 新型コロナ収束後のJリーグ観戦はどうなるのか

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
3月27日にウェブ上で行われた、Jリーグのメディアブリーフィングの様子。

■新たに設定された再開プランから見えるJリーグの意図

 3月25日、Jリーグは2度目となる公式戦再開の延期を発表した。新型コロナウイルス感染拡大を受けて、Jリーグが最初に延期を発表したのが2月25日。この時は「3月18日の再開を目指す」としていたが、3月12日には「4月3日」に再設定され、今回は「J3が4月25日、J2 が5月2日、J1が5月9日」と段階的に再開(J3は開幕)することが新たに発表された。

 以前の記事でも指摘したが、今回の非常事態に対してJリーグは、どのスポーツ興行団体よりも素早い対応を取ってきた。公式戦の延期を最初に決めたのもJリーグだったし、3月2日にはNPB(日本野球機構)と共同で、感染症学の専門家3名を加えた「新型コロナウイルス対策連絡会議」を立ち上げている。今回の延期発表も、同会議での専門家の意見を参考にしながら、全Jクラブ代表者とのウェブ会議での議論を踏まえてのものだ。

 こうした危機管理能力を発揮する一方で、Jリーグは綿密なシミュレーションに基づいた再開のための準備を進めている。すべての会場に検温用のサーモメーター、そしてマスクや消毒薬が行き渡るように手配。キャパシティが少ないJ3から開催し、平均観客数が多いJ1の再開をゴールデンウイーク明けに設定するなど、段階的な再開プランには主催者側の細やかな配慮が見て取れる。

 新たな再開日程が設定されたことを受けて、Jリーグでは3月27日に臨時合同実行委員会を開催し、その内容がウェブ上でのメディアブリーフィングで公開された。具体的には「試合日程」「競技の公平性」「観戦環境対策」「財務対応」の4つのテーマだが、本稿ではファン・サポーターに最も関連性のある、3番目の「観戦環境対策」についてお伝えすることにしたい。もっとも、現段階ではあくまで「たたき台」であり、決定事項ではないことはあらかじめ強調しておく。

■Jリーグによる『再開直後の試合運営プロトコル(案)』

観戦環境対策のプロジェクトリーダー、藤村昇司氏(右)。「新型コロナウイルス対策連絡会議」にも陪席。
観戦環境対策のプロジェクトリーダー、藤村昇司氏(右)。「新型コロナウイルス対策連絡会議」にも陪席。

「観戦環境対策」についてメディアブリーフィングを行ったのは、プロジェクトリーダーの藤村昇司氏。藤村氏は、これまで4回行われた対策連絡会議にも陪席。今回のブリーフィングでは、作成中の『再開直後の試合運営プロトコル(案)』に基づきながら、Jリーグが考える「観戦環境対策」について語っている。その内容から、再開後のJリーグがどのような観戦環境となるのか、うっすらとイメージできるはずだ。

 本題に入る前に、前提となるJリーグの考え方を確認しておこう。まず《状況が好転次第、一日も早くJリーグを再開したい。ホームタウンの笑顔と元気を、全国に届けたい》(プロトコル案より。以下、同)。その上で《できれば満員のお客様と共に再開したい。しかしその時期を待っていると、シーズン日程消化ができなくなる》として、完全収束を待たずに再開に踏み切ること。さらに《無観客は「最後の手段」と位置づける》ことが明記されている。

 Jリーグでは「観戦環境対策」のリスクについて、レベル3(厳重警戒)→レベル2(警戒)→レベル1(注意)と設定。レベル3の段階から《できる限りの感染リスク対策をして、お客様をお迎えしながら、Jリーグを再開する》としている。そのためには《リーグから、ぜったいに守ってほしい基準を示す》。具体的には、感染リスクの主要因となっている「3密=密閉、密集、密接」の状態を作らないための禁止事項を設けることだ。

 3月25日の会見でJリーグの村井満チェアマンは「試合は野外で行われるので密閉については問題ない」とした上で、密集対策については「(再開から)2カ月をめどに遠距離移動による観戦の自粛を呼びかけること」、密接対策については「前後左右の客席を空けること」を方針として挙げている。余談ながら、最近はメディアを通してすっかり定着した感のある「3密」だが、Jリーグでは対策連絡会議が立ち上がった3月初旬から提唱している。

■規制や自粛ばかりが目につくプロトコルだが

再開後のJリーグでは、ゴール裏の密集やチャントやコールの一時的な禁止が予想される。
再開後のJリーグでは、ゴール裏の密集やチャントやコールの一時的な禁止が予想される。

 ここから、ようやく本題である。「3密」ならぬ「2密」によるリスクを避けるために、Jリーグでは具体的にどのような禁止事項を考えているのだろうか。まず、来場自粛をお願いする対象については《体調の悪い方(37.5度以上の発熱、咳、からだのだるさ)》《過去2週間以内に、発熱は感冒症状で受診や服薬等をした方》《過去2週間以内に、感染拡大している地域や国への訪問歴がある方》などが挙げられている。いずれも妥当な判断と言えよう。

 密集対策としては、遠距離移動によるアウェー観戦の自粛を促すために《ビジター席を設けない》。そして密接対策としては《スタジアム内回遊規制》を設けることや、売店についても《人込み(ママ)をつくる要因となる》として検討課題となっている。また、アルコール販売については《サンミツ(ママ)への配慮が薄れるリスク》を懸念。会場内での飲食についても《マスクを外すことにつながり、感染リスクに見える》としている。

 ゴール裏のサポーターにも、期間限定での規制が求められることになりそうだ。《「ゴール裏」にも密集しないよう要請》した上で《チャントやコールを先導・扇動するような行為(持ち込み等含む)を禁止する》可能性も示唆している。この件について藤村氏は、ブリーフィングの中で「応援は声を出すのではなく手拍子中心が望ましい」とコメント。一方で「自然発生的な歓声については容認」する方向であることを明かしている。

 繰り返しになるが、本稿で紹介したプロトコルの内容は、あくまでも「たたき台」であり、決定事項ではない。それでも今回あえて記事にしたのは、Jリーグが考える感染防止対策を、今のうちからファンやサポーターも共有したほうがよいと考えたからだ。とりわけゴール裏に関する規制については、受け入れ難いと感じるサポーターもいるだろう。「アウェー観戦の自粛」についても、基準を定義するのは容易ではなく、ファンの不満が噴出する可能性は否定できない。

 それでもわれわれは、状況が想像以上にシリアスであることを認識すべきだ。危機管理に鋭敏なJリーグは、そのことを織り込み済みでプロトコルを作成している。確かに規制や自粛ばかりが目につくが、その根底にあるのは「Jリーグのコミュニティから感染拡大を起こさない」とする強い信念である。いろいろ不満もあるだろうが、ここはファンやサポーターも覚悟を決めて、フットボールがある日常を少しずつ取り戻していくしかないだろう。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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