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動物は安楽死させて良いのか:動物園がウサギ15匹を感染防止で安楽死:動物の命とは

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真:アフロ)

■動物園がウサギ15匹を感染防止で安楽死…市民からは賛否の声

盛岡市動物公園「ZOOMO(ズーモ)」が、飼育していたカイウサギ全15匹を安楽死させたことが分かった。数匹に慢性鼻炎を引き起こすパスツレラ症の症状がみられた。感染防止のためだが、重症化していない個体も含まれていたため、市民などから賛否の声が上がっている。〜

「QOL(生活の質)が低下し、カイウサギにとって苦痛となる」などとして、治療を継続せず、全15匹を安楽死させることを決めた。23日に公式ホームページやツイッターで公表したところ、「動物の命を何だと思っているのか」といった批判や、「苦肉の策だったと思う」など理解を示す意見が相次いだ。

読売新聞オンライン3/30)

■「動物の命を何だと思っているのか」

◯ペットでも家畜でも

よほど悪徳なブリーダーやペットショップでない限り、動物を買っている人々は動物の命を大切に思っているでしょう。

ペットではなく、家畜として飼っている場合ですら、牛のように手間ひまをかけて育てていると、出荷の時の気持ちは複雑なようです。

一方、ペットであれ家畜であれ、人間のように全ての命を大切にして最大限守るための努力をするわけにはいかないこともあります。

牛は単価が高いので、治療費をかけてでも健康を回復させます。一方、牛に比べて単価が低い豚は、牛ほどには治療費をかけません。それは、仕方のないことだと思います。

動物の命に関しては、様々な意見があるでしょう。

◯ペットだからこそ

ある人は、「牛や豚の肉を食べているのに、動物の命が大切とか、可哀想とか言うな」「肉食っている奴が動物愛護とか矛盾している」と言います。でも、そんなことはありません。

私たち人間も他の動物も、他の生き物の命をいただいて生きています。だから、ありがたく、大切にいただきたいと思います。屠殺するときも、できるだけ動物に苦痛を与えないようにしています。

牛や豚の屠殺場は、動物愛護法違反ではありません。しかし愛玩動物を傷つければ、動物愛護法違反になることもあります。これは、数学のような理屈ではなく、人間の素朴な感情です。ハンバーガーを食べてもいいけれど、愛玩動物の犬や猫をけとばしてはいけません。それを可哀想と感じるのは、自然なことです。

■動物実験

これも、様々な意見があります。「残酷」な動物実験の様子を見れば、多くの人が顔をしかめるでしょう。でも、この動物たちの犠牲によって、多くの人間の命が救われる、私の家族の命も救われるとしたら、多くの人はその動物実験を認めるのではないでしょうか。

もちろん、この問題への意見は人によります。一切の動物実験を否定する人もいます。

実験ではありませんが、以前、豚の心臓を人間に移植する可能性についての話題が出たとき、ある人々は強く反対しました。私は、人間への冒涜のような話なのかと思ったら、そうではなく、人間のために豚を殺すのはけしからんという意見でした。

動物実験を肯定する対数派の人でも、今時なら、できるだけ動物を苦しませない方法をとります。さらに、生きた動物を使った実験をしないで済むような工夫をしています。

■治療の苦しみ生きる意味

人間の場合は、辛い治療の必要性、リハビリの意義、生きる意味を感じ取ることができます。しかし動物にはできません。だから、動物の安楽死は行われています。

それは、動物の命なんてどうでも良いからではありません。動物の命はもちろん大切です。私も動物は大好きです。ウサギはかわいいですよね。しかし「かわいそう」という感情だけで闇雲に苦痛を長引かせるのは、動物愛護の点からもむしろ問題があるでしょう。

「いや、動物にだって心はある」とも考えられるでしょう。しかし、人間と同じ考えや感情を持つと考えてしまうと、かえって動物の健康や幸せを害することもあるのではないだろうか。

金魚が水槽にいるのはかわいそうと言う人もいますが、金魚は観賞用に作られた魚です。川や湖では生きていけないでしょう。

■現代人にとっての動物の命

東日本大震災に関しては、膨大な報道写真が撮られました。写真集も、何冊も出ていますよね。その中で、とても印象的な写真がありました。

ガレキの中、一人の女性が、毛布にくるまって、呆然と立ち尽くしてる写真です。深い悲しみが伝わって来ます。

ところが後から知ったのですが、その女性は実はいなくなってしまったペットの犬を探していたのです。どうでしょうか、「なあんだ、ただの犬か」でしょうか。それとも、この女性に深く共感できるでしょうか。それとも、ペットを亡くしたた悲しみはわかるけれど、人間の犠牲と一緒にはできない、でしょうか。

私は、それぞれの人の悲しみは、それぞれの悲しみなので、他の人が安易に評価してはいけないと思います。

各家庭のペットたちに関しては、以前にもまして家族の一員としての感覚が強くなっているでしょう。以前なら考えられないような大金をかけての治療や、保険をかけている家庭もあるほどです。ペットが死んだ後のペットロス症候群も、深刻な症状になることもあります。

本当に家族の一人が亡くなったように、家族全員が悲しみ沈み、ご飯も食べられなくなるようなことも、珍しくありません。

■本当に動物を深く愛する人々は、動物の命をどう考えているのか

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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