福知山線脱線事故から考えるコロナ対策:スタッフを支援してヒューマンエラーを防げ

JR福知山線脱線事故 (2005年4月25日)(写真:Duits/アフロ)

■JR福知山線脱線事故

死者107名、負傷者562名。あの悲惨な列車事故から15年がたった。

大きな事故である。調査は徹底した行われた。事故調査委員会によって作成された報告書は、御巣鷹山に墜落した日本航空123便ジャンボジェット墜落事故以来の分厚さだった。

当時マスコミからの取材依頼を受けた私は、分厚い報告書を新聞の鉄道担当記者と共に読み解いていった。

■福知山線脱線事故の原因

事故の原因探究は、まず徹底したハード面から始まる。ブレーキの故障などの可能性を検証していくのだ。素人にはわからない技術的な内容を、鉄道担当記者さんの解説を聞きながら、読んでいった。

事故調がどんなに調べても、機械の故障は見つからない。線路上に石などが置かれていた証拠も見つからない。徹底的に調べて調べてそれでも物理的な原因が見つからない時に、初めて人間の原因を考えることになる。

ミスや違反などの、人間の行動の問題、「ヒューマンエラー」を考えるのだ。

福知山線脱線事故の原因は、運転士のブレーキの遅れと結論づけられた。

JR福知山線脱線事故から学ぶヒューマンエラー

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■福知山線脱線事故のヒューマンエラー

運転士に何が起きたのか。簡単に説明すれば、次の通りである。

駅でのオーバーラン→列車の遅延→直線でのスピードアップ(ただし制限内)→運転士から車掌への「(ミスの報告を)負けてくれへんか」発言→車掌から運転指令所への虚偽の過少報告→車掌と運転指令所との会話に運転士が気を取られてのブレーキの遅れ→カーブでの脱線、である。

当時のJR西日本では、「日勤教育」と呼ばれる厳しい制裁制度があった。運転士は以前にも日勤教育経験しており、これを再び受けることを恐れたか、あるいは今度は運転士をやめさせられることを恐れたのではないかと考えられている。

彼は、罰を恐れて、ミスを隠そうとしたのである。

車掌とはほとんど面識はなかったが、事故の過少報告を頼んでいる。その依頼を受けてくれるかどうかの話の最中に、ある乗客が車窓室の窓を叩き、「遅れたのに、何の知らせもないのか」と怒る。

車掌は慌ててお詫びの車内放送をする。そして、運転指令所への方向は後でも良かったのだが、不要に自分が責められることを避けようとして、急いで運転指令所に連絡をとる。

おそらく、運転士は車掌と運転指令所の話を聞いていたと思われる。音声のスイッチは入っていた。

車掌が「1分半の遅れ」と報告したのに対して、司令所がよく聞き取れなかったために、聞き返している。通常なら、1分30秒と報告するところなのだ。ただ、司令所は報告を疑ったのではなく、単に聞こえなかっただけだ。

しかし、そのやりとりを聞いていた運転士は気が気ではなかったろう。この会話の中で、ブレーキのタイミングは遅れる。カーブの直前でブレーキはかけているが、すでに遅かった。

■事故の本当の原因と対策

この大事故の原因が、こんなに小さな心の動きにあったことが、とても悲しい。

事故の原因は、運転士のヒューマンエラーと結論づけられたのだが、ヒューマンエラーの考え方は当人を責めるものではない。

むしろ、ヒューマンエラーを「原因」ではなく「結果」と考える。

当時の、会社の体制、車内の雰囲気、機械の構造など、様々なことが絡み、その結果としてヒューマンエラーが発生したと考えるのだ。

だから、個人を責めのではなく、むしろヒューマンエラーが発生した原因を取り除くことが大切とされている。現在、車掌と運転指令所とのやりとりを運転士が聞けないようにはなっている。

だが、そのような設定が常にプラスに働くわけでもないだろう。

叱責や人間の注意力だけでは事故は防げず、機械の力だけでも事故は防げず、当事者たちだけでは事故は防げず、事故を防ぐ安全文化を育てていかなければならない。

■福知山線脱線事故から15年、そして新型コロナ感染拡大の防止のために

毎年行われてきた慰霊祭が、今年は新型コロナウイルスのために中止だ。

尼崎JR脱線事故、発生から15年 遺族ら、現場で自宅で祈り「1人で見送るのはさみしい」

多くの事故の背景には、疲れ、焦り、罪を隠すための隠蔽などがある。トレーニング不足や、周囲の無理解も一因となる。

さて、今回の新型コロナウイルス騒動ではどうだろうか。

私たちは、現場で働く人々を理解し、支援し、感染拡大に協力しているだろうか。

逆に、病院からマスクを奪い、病院スタッフに偏見差別の目を向けていないだろうか。

PCR検査には、熟練の技が必要だという。検査担当者を、疲れさせ、焦らせてはいないだろうか。

ヒューマンエラーは避けなくてはならない。だが、ヒューマンエラーを当人だけの責任にしてはいけない。私たちみんなの協力体制が、感染拡大を防ぐ力になっていくのだ。

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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