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座間9遺体発見事件(9人ネット連続殺人事件?)の犯罪心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:容疑者はSNSで殺害相手を見つけていた)(写真:アフロ)

■9人分の遺体発見

2017年11月。アパートの一室からクーラーボックス等に入った9人分の遺体(9つの頭部と200本の骨)が発見された。死体遺棄容疑で逮捕された容疑者男性の供述によると、頭部は切断し、体の部分の肉は削ぎ落とし、内臓とともに捨てたという。容疑者は、9人全員の殺害をも供述している。

被害者はみな若く、8人は女性、1名は女性を探しに来た男性である。わずか2ヶ月で9人が殺害されたとみられる。供述が事実であれば、9人の連続殺人事件である。容疑者が語る犯行動機は、金目当て、強姦目的である。頭部は、事件発覚が怖くて捨てられなかったという。

供述によれば、被害者女性はネット上で「死にたい」などと自殺の思いを語っており、容疑者は自殺の手伝いをするなど言葉巧みに部屋に招き入れ暴行、殺害したと述べている。

警察によれば、部屋から被害者の身分証明書やバックなども発見されている。

 <連続殺人の心理:座間9人遺体発見事件(碓井真史)

■連続快楽殺人:シリアルキラー

連続殺人の多くは、殺人に快感を感じる快楽殺人である。だが今回の容疑者男性の言葉通りであれば、強盗殺人、強姦殺人である。つまり、第一の目的は、強姦や金銭であり、その目的達成のため、また事件発覚を防ぐための殺害となる。

通常の殺人者も遺体を分断することはある。分断の理由は、遺体を捨てるためである。今回は、遺体を分断しているが、遺体の一部をずっと部屋に残している。せっかく手間ひまをかけて遺体を分断したのに、一部を残しておくことは不自然である。また懸命に証拠隠滅を図ったのならば、身分証明書などを取っておくのは矛盾している。

快楽殺人の快感の多くは、性的な快感である。連続殺人に性的な行為が伴うのは珍しくない。たとえば、初めて強姦し殺害し遺体を損壊した時に強烈な興奮、快感を感じ、連続殺人者の心のスイッチが入ってしまうケースもある。

■遺体と共に暮らす

容疑者は、遺体と共に一部屋で暮らしていたようである。

通常の殺人者にとっては、殺人の記憶は苦痛であり、遺体を目にし続けたいとは思わない。しかし連続快楽殺人者は、殺人の心地よい思い出にひたるために、遺体の写真や遺体の一部、被害者の持ち物などを「記念品」「戦利品」のようにとっておくことがある。

今回の容疑者は、遺体の処置が最初は3日かかったが、のちに1日でできるようになったとも供述している。まるで、技術者が自分の技術向上を語っているようである。

容疑者男性の遺体に関する感覚は、一般の人とは大きく異なっているようだ。

同じ複数殺人でも、一度に大量の人を殺害する大量殺人の方が、まだ一般の人の心に近い。自分をバカにした学校や職場の人間を皆殺しにしたいと感じるのは、理解できる部分はあるだろう。だが、見知らぬ人を次々殺害する連続殺人犯の心は私たちの感覚とは大きく離れていて、理解しがたい。

■連続殺人は海外旅行のようなもの?

連続殺人者にとっての殺人は、私たちの海外旅行のようなものだ。計画して楽しみ、旅行に行って楽しみ、帰宅してからは記念の品や写真をみて楽しむ。私たちは、海外観光旅行をじっくりたっぷりと楽しむ。

海外旅行が好きな人は、何度も海外に行きたいと思うだろう。お金を貯め、健康を保ち、ずっと海外旅行を続けたいと思うだろう。連続殺人者も同じである。逮捕されることなく、ずっと殺人を続けたいと願っている。

■雄弁に語る容疑者

連続殺人者は、しばしば雄弁に語る。欧米では日本よりもずっと多くの連続殺人者が登場しているが、彼らは自分がいかに素晴らしい存在かを雄弁に語る。

日本の連続殺人は数がずっと少ない。そして、欧米ほど雄弁に語ることは少ない。今回は、とても雄弁に語っているようである。だが、欧米のケースのように、自信満々に語ってはいない。彼は自分自身でも自分の姿が見えていないのかもしれない。

金目当て、強姦目当ては、ひどい話だけれども、わかりやすい話である。だが、殺人による快感は簡単には人に話せないだろう。

■2ヶ月で9人の殺害?

供述通りであるなら、毎週のように殺害、遺体損壊を続けたことになる。これは、連続殺人としてもペースが早すぎる。いくら海外旅行が好きでも、普通は毎週は行かない。

楽しい殺人を短期間に行いすぎるのはもったいにし、あまりに急いで殺害をすれば、普通は逮捕される危険性も高まる。

欧米の快楽殺人者は、自分の特殊な好みを自己理解し、自分の正しさを自分自身で言い聞かせているように見える。殺人を犯し、時間をかけて自分独自に自殺への意味付けを行い、快楽殺人者としてのアイデンティティを作っていくのだろう。だから彼らは、しばしば自身たっぷりに自らを語る。

だが、殺人や遺体損壊に快楽を感じてしまった最初は、戸惑いもあるだろう。快楽殺人者としての自分自身をイメージできる前に殺害が続いてしまうと、自分でも自分を理解できないことはあるだろう。そうなると、自慢げに自分を語ることはできない。

余裕のある連続殺人者は、ゆっくりと時間をかけて殺人を実行するが、自分でも訳のわからないまま強い欲望に動かされ、ごく短い期間に殺人を繰り返すこともあるだろう。

路上で人を斬り殺す「切り裂きジャック」のような殺人なら、街は大騒ぎにある。パトロールが強化され、次の犯行はほとぼりが冷めるまでなたなかればならないだろう。

しかし、今回9人の人が次々亡くなっているものの、9人目の被害者の兄の努力によって警察が動く前は、世間では何の騒ぎも起きていなかった。

ネットで簡単にターゲットを見るけることができる。そして殺害しても世間は騒がない。この状況も、たった2ヶ月での間で9人もの被害者が出た理由の一つだろう。

■ネットでの自殺志願者と快楽殺人

心理学的に見れば、若者の「死にたい」は実は「幸せになりたい」だと考えられる。死にたい思いは事実なのだが、できれば幸せになりたいと願いつつ、孤独と絶望感に押しつぶされ、苦しくなく寂しくなく美しい死に方を探している。決して、裏切られて苦しく殺害されることや遺体を損壊されることなど望んではいない。

報道によれば、今回の被害者の中の3人は女子高生である。中高生たちは、学校で何度もネットに関する教育を受け、見知らぬ人と二人で会ってはいけないと、繰り返し教えられている。だが、若い生徒たちの危機意識は低く、毎年千人以上の被害者が出ている。今回の被害者は、決して遊び目的で会ったのではない。死にたいほどの孤独な苦しさの中で、救世主に出会うような気持ちだったのだろう。だが、結果的に彼女たちは犯行のターゲットになってしまった。

2005年には、ネットの自殺サイトで知り合った3人が殺害される事件があった。この事件の加害者は、人が苦しむ姿を見ると快感を感じる人だった。この事件の後、自殺サイトへの規制が厳しくなったものの、今回は舞台がSNSに代わったと言えるだろう。また2005の事件の際には、ネット殺人として大きく話題になったものの、快楽殺人としての注目度は大きくなかったように思える。

■連続殺人者、快楽殺人者は、なぜ生まれるのか

家庭環境や教育のせいで、非行少年が育つことはあるだろう。犯罪者になることもあるだろう。だが、教育やしつけが悪いからといって、殺人が楽しいと感じ、遺体をバラバラにすることに快感を感じる人間にはならない。彼らの心の問題はもっと深い。

欧米のケースでは、ひどい虐待、悲惨な性的虐待を受けていて、連続殺人、快楽殺人者になるケースが多く見られる。だが、日本ではそのような事例は少ないように思う。確かに、後になって報道される内容を見れば、様々な問題があるようには見えるものの、極めてひどい虐待など行われてはいないケースが多い。

他の人とは大きく異なる行動をとる人々。その人がそうなる原因は、複合的としか言いようがない。生まれつきの生物的原因、ストレスやトラウマなど心理的な原因、そして家庭環境や社会環境など社会的的原因が絡んでいる。

異常な殺人者は、それぞれに個性的だ。ある日本の快楽殺人者は、ひどい虐待など受けてはいなかったが、両親との心の繋がりは薄かった。唯一心が通じていたのは、やさしい祖母だけだった。その祖母が亡くなった後、彼は異常な動物虐待を始め、次第にその行為がエスカレートしていき、二人の子供を殺害し遺体を損壊する行為に喜びを感じるようになっていく。

もしも、この祖母がもう少し長生きしていれば、彼と被害者の人生は違ったもにになっていたかもしれない(大切な人が亡くなった後で残虐行為が生じることは、快楽殺人では一つのパターンであるが)。

今回の容疑者の供述内容が事実であるなら、日本の犯罪史に残る連続殺人事件だ。そんな彼の半生を見ると、人生の中で彼が大切にしていたものを一つひとつ失っていったように思える。もちろん、そのような困難は多くの人が体験し、ほとんどの人は乗り越えて、人生を立て直している。だが、もしも彼の人生がもう少し順調であれば、今回の事件は発生していなかったかもしれない。

快楽殺人の素養を持つ人が、全員実際の犯罪者になるわけではない。その素養を持ちながらも、一生犯罪者になることなく終わる人もいることだろう。反社会性パーソナリティ障害や、サイコパスの人も、犯罪者にならず社会的に成功している人は多くいる。

死刑覚悟の連続殺人者を、刑罰で防ぐことは難しい。犯行の原因も一つではなく、原因をなくすことも難しい。だが、社会の様々なアプローチで、犯行を防ぎ、被害者を守る努力はできるのではないだろうか。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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