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五月病対策:上手なかかり方、脱出法

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:悩むことにも意味が)(写真:アフロ)

五月病。悩むことにも、意味がある。

■五月病とは

「五月病」(ごがつびょう)は、もともとは大学の新入生に見られる無気力状態を指す言葉でした。1968年(昭和43年)の流行語で、70年代にかけて広く使われるようになりました(ちなみに同年の他の流行語は、サイケ、ズッコケル、ハレンチ)。

ただその後は、流行語としては下火になり以前ほど話題に上がらなくなります。ところが近年また話題になり始めました。ただし、今度は新入社員の五月病です。

■人はなぜ五月病になるのか:五月病の原因

かつて受験は、「受験戦争」と呼ばれるほど激しいものでした。その戦争を勝ち抜き大学に入学したものの中に、燃え尽きてしまう学生たちもいました。意欲を持って入学して大学生活を始めたものの、目標を失い、5月の連休明けごろにはすっかり無気力状態になっているのが、五月病でした。

しかし現在では定員割れの大学も増え、AO入試や推薦入試も多くなり、学科試験を受けることもなく秋には進学先が決まる受験生が多数派です。このため、以前のような5月病は減っているのでしょう。中には、学生は一年中5月病状態の無気力になったから5月病と言われなくなったという人もいますが。

現在では、受験に変わって就職が若者にとっての人生の難関になっています。過酷な就活を勝ち抜き、就職してくる若者達がいます。そして、就活と4月の緊張に疲れ、燃え尽き、5月病になる人が注目され始めたのでしょう。

■五月病の今

新入社員が無気力状態になるとすれば、大きな社会的問題です。以前であれば、やる気や意欲などあってもなくても決められた仕事はするべきと考えられてきましたが、今はそう考えない青年もいます。「石の上にも三年」も、ただの年寄りの説教言葉になってしまいました。

同じ新人の迷いにしても、以前なら深く悩み苦しみ行動に移しましたが、今は違う人もいます。深く悩む前に退職を決め、メールやLINEを送って終わりという人もいます。それどころか、何も言わずに欠勤し、そのまま出社しなくなる人もいます。

こんなことが起こり始めるたために、新入社員の心のトラブルとして五月病が再び注目を集めているのでしょう。

■5月病の症状、特徴

抑うつ、不安、焦り、イライラ、無気力、様々な体調不良、不眠、過眠、食欲不振、ダラダラ食い。仕事や勉強のやる気がなくなり、一日中ネットを眺めてぼんやりするなど。五月病には、多くの症状が出ます。

けれども、その心のトラブルが5月病なら、心の落ち込みは一時的です。5月病は、頑張った新人さんの一過性の無気力状態だからです。

五月病の背景には、大人になるためのイニシエーションとアイデンティティの問題もあるでしょう。多くの文化で、大人になるための難しいチャレンジであるイニシエーションがあります。受験戦争時代はそれが受験であり、現代であれば就活なのでしょう。

困難を乗り越えて人は強くなりますが、就活を通して、生まれて始めて人から否定された(試験で落とされた)経験をする若者もいます。そんな経験と、一変した新しい環境が、自分はどんな人間かという人生の土台、アイデンティティを揺るがします。

頑張れば、心も体も疲れます。頑張りと緊張の後は、気が抜けた状態になることもあるでしょう。

■上手な五月病との付き合い方

連休明けに元気が出ない人は、心と体が疲れています。疲れると、無気力になり物事を暗く深刻に考えがちです。まずは、体の疲れをとりましょう。そうすると、心の疲れも楽になってきます。

疲れを自覚し、少し自分を可愛がってあげましょう。疲労感は、休息をとりなさいという心と体のサインです。疲れが取れると、深刻な悩みも、意外と軽くなるものです。

ちょっとホッとする、ちょっと疲れたから休息する、そしてまたリフレッシュして再スタートです。

■リアリティショック

五月病は、本来真面目な人がかかります。頑張って新しい職場や学校に入り、1ヶ月一生懸命通ったけれど、思った場所とは違うというリアリティショックに襲われたのです。

この進路この職業と決めて、入学就職してみても、実際に入ってみれば想像と異なるのは当然です。迷いも生まれるでしょう。一度は迷いとまどって、もう一度自分が選んだ道を再確認できれば、心は前より強くなります。アイデンティの再確立です。このような一時的五月病なら、かかっても良いでしょう。

現実を知り、現実を嫌わないのが、大人です。

■適応障害としての五月病

五月病と言われてきた症状の中の重いものは、現代的に言えば適応障害かもしれません。適応障害は、環境からのストレスによるうつ状態や心身の不調です。

健康に越したことはありませんが、適応障害は真面目でやる気のある人がかかりやすいものです。新入学新入社して、一ヶ月頑張った結果の五月病なら、むしろ良いチャンスです。学校の優等生タイプからたくましい社会人になりましょう。

仕事は長期戦、学校時代のように後先考えない頑張りは控えて、生活リズムを整えましょう。完璧主義はやめ、素直に自分を見つめて、泣いたり笑ったりしましょう。一時的には薬も良いですが、生活改善と考え方の更新(認知行動療法的アプローチ)が大切です。

■人は頑張り、落ち込み、復活する

ストレス状況下で、多くの人は頑張ります。頑張りすぎると、疲れて落ち込みます。でもそれは当然のことです。五月病は、有能な善人がかかる一時的症状です。こじらせると厄介ですが、上手くいけば再スタートのチャンスにもなります。連休明け、みんながあなたのことを待っています。昨年度までの友達とおしゃべりし、新年度の仲間に相談しましょう。話すことで、孤独感はやわらぎ、新たな意欲も湧いてきます。

人生山あり谷あり、あなたの人生は始まったばかり。迷い悩み苦しむことも、あなたのアイデンティを強くするでしょう。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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