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当たりくじない露店:常識的には・子どもの心の世界では

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:正月の浅草観音様:筆者撮影)

■当たりくじない露店:法的には

弁護士ドットコムの興味深い記事を読みました。

人気ゲーム機の「景品くじ」、露店で大量購入も当たらず…法的にどんな問題がある?:弁護士ドットコム 4/5

この記事では、「15万円分(1回300円)のくじを買っても、「当たりくじ」がでない」と露天商にクレームをつけているユーチューバーを紹介し、もしも当たりがないのであれば、刑法上は詐欺罪になりうると解説しています。

さらに、「くじの景品は、取引価格の20倍まで」と法的に定められているので、300円のくじで3万円のゲーム機を当たりにしてしまうと、別の法的問題も生じるそうです。これは、考えてもみなかった観点でした。

すると、たとえば露天のヨーヨーすくいで、袋に入った現金5千円をすくえたら現金ゲット!といったものは、どうなのだろうと思いました。機会があれば、弁護士さんに質問してみたいものです。

■露店のいろいろ

昭和34年に東京下町で生まれた私は、お祭りや縁日によく行きました。昔も今も、露店は大好きです。

私が子どものころによく買っていた露店のお好み焼き屋のおやじは、「うちのキャベツはフランス産だよ」と自慢していました。子どもの私は、信じていました。生鮮野菜が外国産などというのは変な話ですが、子どもの私は「すごい」と思っていました。もちろん、露天商の言っていたことは、ウソです。

くじの店には、1等賞として豪華な景品があるのは、昔も今も同じでしょう。ずいぶん時間がたったのか、外箱もかなりくたびれた一等商品が、店の真ん中に鎮座しています。子どもでも少し大きくなれば、何万もするゲーム機が当たることはないとわかります。こうして子ども達は、社会勉強をしてきたような気がします。

「射的」とか、「輪投げ」とか、「型抜き」で成功したら現金がもらえるのとか、子どもの射幸心をあおる露店はいろいろあります。球が当たったと思ったら、後ろに落ちなければダメと言われ、輪投げがはいったと思ったら、一部でも引っかかっていたらダメと言われ、型抜きが成功したと思ったら、ほんの少し欠けているからダメと言われたりしました。

型抜きは難しいものほど獲得賞金も高くなるのですが、高価な型抜きはできたと思っても、だいだいおやじが文句をつけてお金はもらえなかったように記憶しています。世の中は、甘くありません。

ただ、結構良心的な露店もあり(特に今は)、射的で何も当たらなくても参加賞をくれたり、射的やらボール投げゲームなどで高得点を取れば本当に数千円の景品をくれる店も、もちろんちゃんとあります。くじよりもごまかしが効きませんからね。私の息子も、祭りの露店で、数千円のおもちゃをもらったこともあります。

はずれても、当たっても、ご愛嬌でしょう。

「おじさんとじゃんけんして、勝ったら2個あげよう」といったアンズ飴の露店などもあります。おじさんは、子どもに何を出すかを教えてしまいます。客は全員勝って、2個もらえる仕組みです。とてもやさしいおやじですね。ただこれも、厳密に言うと法的には問題があるのかもしれませんが・・・。

子どものころ、浅草には「見世物小屋」がありました。ろくろ首とかヘビ女とか。ヘビ女は、「親の因果が子に報い~」などと解説されますが、体にヘビを巻きつけても平気な女性で、これは実際にパフォーマンスを行います。ろくろ首も本物で、実際に首が伸びる女性です。なんてことがあるわけないですね。もちろん、作り物です。

浅草の露店で、大きな石を細い糸で持ち上げる技をしようとしていたおじさんもいました。いろいろと口上を述べています。子どもの私は、はやく石が持ち上がるところが見たくて、ずっと聞いていました。ところが、父が「もう行くよ」と言って私を引っ張ります。「石が上がるまで見てる」という私に父が言いました。「本当に石が持ち上がると思っているの?」。

この露天商は、巧みな話術で客をひきつけながら、何かを売っていたようです。何を売っていたのか、私は覚えていません。

浅草の露店や小さな店で、ラジカセやら置物やいろいろ売っているとところもありました。工場がつぶれたとか、訳ありの品物で、格安の値段です。客と丁々発止のやり取りをしながら、値段が決まります。口上を聞いたり、客とのやりとりを見ているのが好きでした。ある男性がある電化製品を買いました。父がそっと「今の客はサクラだよ」と私に耳打ちしました。「どうしてわかるの?」と聞くと、「あのおじさんがあの電化製品を買うような人に見えるかい?」と教えてくれました。

母と一緒に「バナナの叩き売り」の露店に行ったこともあります。「フーテンの寅さん」みたいな人が、口上を述べ、客とやり取りしながら、値段が決まり売っていきます。口上を聞きながら、「バナナが食べたい」と母に言うと、そんなことを大きな声で言わないようにと教わりました。子どもが「バナナが食べたい」などと言わずに「早く帰ろうよ」と言ったほうが、きっとバナナの値段は安くなるのでしょう。

現代では、露店と「反社会的勢力」の関係が問題視されます。反社会的勢力には、私も大反対です。でも、何か怪しげな露天の世界はやはり魅力的で、子どもたちは様々なことを学んできたのでしょう。

■大当たりはジェット戦闘機

かつてペプシコーラのテレビCMで、ポイントをためて「ハリアー戦闘機」をもらおうとやっていました。CMでは、高校生がハリアーに乗って高校へ行きます。

アメリカで、このCMを本気にした男性がいました。CMの通り700万ポイント(約70万ドル相当)をためて、ペプシ社に持って行きました。ペプシ社は、あわててCMはジョークだったと説明して謝罪したのですが、彼は納得せず裁判を起こしました。

1999年、判決が出ました。ハリアーの値段は約2,300万ドル。それが70万ドル相当のポイントでもらえるわけがないことは、常識的にわかるだろうと、男性は敗訴しました。

価格差もそうですが、個人で現役戦闘機を入手することは、普通はできないでしょう。

ペプシのCMは、常識的に見ればジョークとわかるので、露天商が高価なゲーム機を一等商品として展示するのとは異なるでしょうが。

■法律と常識と子ども達の成長

「法律的に厳密に考えると」というのも、1つの「お話」です。実際に逮捕されたり、起訴されたりすることはないけれども、厳密に法律的に言えばこうですよ、というのは楽しいお話としても日常行動を再検討する上でも、良い話だと思います。

一方で、「常識」があります。ただ、常識は人により地域により時代により変わるものです。常識はとても大切ですが、自分の常識だけを振り回してはいけません。「そんなの常識だろ!」なんて相手に言うと、反論されて、ケンカになりそうです。

子ども達は、道徳を学び、法律やルールを学び、常識と非常識、日常と非日常を学んでいきます。子どもを守り危険や悪から遠ざけたいと思います。しかし、たとえば心理学者の河合隼雄は、『子どもと悪:今ここに生きる子ども』(岩波書店)の中で、現代の子どもからあまりにも「悪」を遠ざけすぎたことが、さまざまな子どもの問題を引き起こしているのではないかと指摘しています。

子どもの生活範囲は狭いものですが、その中にある子どもの心の世界は本来とても広いものなのでしょう。大人たちが心に余裕を持ち、子ども達に豊かで多様な経験をさせたいと思います。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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