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困った高齢者と共に生きる人へ:どうか自分を責めないで

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

■介護問題

寝たきりの高齢者、重い認知症患者。果てしなく続く介護。それはもう、言うまでもなく、とてつもなく大変です。介護看病疲れによる殺人が、毎年50件前後発生しているとも言われています。さらにその数倍の自殺者も出ています。

一方、介護度がそれほど高くはなくても、とても苦労し、そして自分を責めている人たちがいます。殺人のような大きな社会問題やニュースにはならなくても、心を深く痛めている人たちが大勢います。

■困った高齢者

テレビには、しばしばとても元気な高齢者が登場します。100歳近いのに、スポーツをしたり、農作業をしたり。ボランティアやシルバー人材センターで活躍したり。大変結構なことです。でも、体が元気だからこそ周囲を困らせている高齢者もいます。

元気に歩けるからこそ、徘徊して遠くに行ってしまう高齢者がいます。踏み切りに入り込んで、電車を止めてしまう高齢者がいます(家族が賠償請求されたケースもありましたね)。高齢者の犯罪も増えています(高齢者の増加率以上に高齢さ者犯罪は増加しています)。

周囲が心配しているのに、自動車の運転をし続けている高齢者もいます。食事制限を守れない高齢者や、自宅をゴミ屋敷にしてしまう高齢者、近隣とトラブルを起こし続ける高齢者もいます。

身寄りのない高齢者は、周囲がとても困っています。そして、心配し、面倒をみようとしている家族がいれば、その家族がとても困っています。

■自分を責める家族

病院に入院するような病気ではない。特別養護老人ホームにはいるような要介護状態ではない。でも、自分の健康を害したり、周囲に迷惑をかけたり。そのたびに、その高齢者の最も近くにいる家族親族が、心を痛め、仕事を休み、頭を下げ、心身と経済的ダメージを受けます。

何人もの家族親族がいても、たいてい中心になる人は1人です。一緒に考えてくれてサポートしてくれる人がいても、中心になる人、緊急時の最初の連絡先になっている人、この人が最も多くのものを背負います。

この人を誰かが責めるなど、もっての外です。仮に他の親族がお金は出していたとしても、もっとも大変なのは一番身近な人であり、その人の意見や気持ちが尊重されるべきです。

周囲がわからずやではなくても、それでもやっぱり一番身近な人が、一番の重荷を負う事になってしまいます。

そして、しばしば自分を責めます。

こんなに一生懸命やっているのに、トラブルが起きるたびに、自分の責任を感じます。愛しているからこそ、自分の無力さを嘆きます。ときに、その老人の死を願います。そして、そんなことを考える自分自身を激しく責め立てます。

■どうかご自分を責めないで

自分を責めている人は、善人です。愛の人です。有能な人です。でも、人は誰でも完璧ではありません。完璧には面倒がみられなくても、当然です。

介護を担当している人は、体の疲れや経済的負担に加えて、様々な心の痛みを経験します。被害感、無力感、怒り、負担感、罪悪感、不安、孤立感、喪失感、悲しみ。

そんな心で、思いや言葉や行動が荒れてしまえば、なおさら自分を責めることになります。

けれども、そのような思いの人々は、じつはもう十分に高齢者の面倒をみているのです。できる限りのことはやっています。高い有料老人ホームを利用できないとしも、24時間の介護ができないとしても、高齢者の望みの全てをかなえられないとしても、それは仕方のないことです。

もっと十分なお世話ができたら、もっと健康で長生きできたかもしれない、もっと楽しい老後になっていたかもしれない。そうかもしれませんが、それでもそれはもう仕方がないことです。あなたは、十分に努力してきました。

子育ても、高齢者の面倒をみることも、どちらも同じですが、その時々に一生懸命がんばるしかありません。それで良いのです。

■周囲のサポート

愛があり有能な人だと、笑顔で元気に高齢者の世話ができることもあります。でも、一人で背負うには重過ぎます。みんなで一緒に背負いましょう。周囲の人は、元気で明るいからといって油断してはいけません。他人に言えないだけではなくて、親族にもいえない悩みを、笑顔の下に隠していることも、よくあることなのです。

みんなの協力を得るためには、その中心となるコーディネート役が必要です。でもその役回りも、いつも一人の人が何としなくてはならないわけではありません。柔軟に、役割を交代していきましょう。

■最期を迎えるときに

困った高齢者は、明日死ぬかもしれません。来月寝たきりになるかもしれません。あるいは、体は元気で100まで生きるかもしれません。でも、どうであれ、良い最期が迎えられたらと思います。

一番愛を持ってがんばってきた人が、自分を責めることなく穏やかな心でいられるような、良い最期になればと思います。介護を担当する人の心には、苦しい思いだけがわくわけではありません。達成感、温かい人間関係への思い、自己の成長の思い。そんなポジティブな思いも、わいてくるのです。

自分を責めているあなたは、良い人です。高齢者とぶつかることがあっても、でもご老人も心の奥底ではきっとあなたに感謝しているはずです。「ありがとう」と心の中で言っているはずです。

自分を責めるほどに、がんばってきたあなたです。その高齢者のために心を激しく痛めるほどに愛してきたあなたなら、きっとそのご老人も、思っていることでしょう。「人生の終わりにあなたと共にいられて良かった」と。あなたの努力は報われています。

・・・そうなれるように、私たちみんなで少しずつがんばっていきましょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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