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打率3割5分以上で「首位打者」を逃した選手たち。違う年に獲得した選手もいるが…

宇根夏樹ベースボール・ライター
田尾安志 NOV 16, 2001(写真:アフロスポーツ)

 昨シーズンの首位打者、鈴木誠也(広島東洋カープ)と森友哉(埼玉西武ライオンズ)の打率は.335と.329だった。2016年以降のシーズンに規定打席をクリアした延べ230人中、打率3割5分以上は2018年の柳田悠岐(.352/福岡ソフトバンクホークス)しかいない。

 けれども、3割5分以上の打率でも、首位打者になれるとは限らない。

 ウォーレン・クロマティは、1986年に打率.363を記録した。これは、2リーグ制となった1950年以降、歴代16位に位置する。当時は10位だ。ただ、この年のセ・リーグには、打率.389のランディ・バースがいた。こちらは、それまでの歴代1位、1970年の張本勲(.383)を上回った。クロマティはバースに2分6厘の差をつけられ、バースは前年に続いて三冠王となった。ちなみに、1985年のバースは打率.350。2位はチームメイトの岡田彰布(.342)で、クロマティ(.309)は8位だった。

 1986年のクロマティを含め、3割5分以上の打率で首位打者を逃した選手は、13人を数える。2010年の平野恵一(.350)は、厳密には3割5分未満(.3495…)ながら、ここに含めた。この年は、平野とチームメイトのマット・マートンもほとんど同じ打率を記録したが、.3491…なので含めていない。

筆者作成
筆者作成

 彼らのうち、首位打者と最も僅差だったのは、1976年の張本(.355)だ。谷沢健一の.35483…に対し、張本は.35477…。どちらの打率も、小数点第4位(毛)を四捨五入すると.355、小数点第5位(糸)を四捨五入しても.3548となる。3割5分以上か未満かを問わず、これ以上に近い1位と2位はいない。

 10月16日の試合を終えた時点の打率は、張本が.355、谷沢は.352だった。張本のいる読売ジャイアンツは全試合を終え、谷沢のいる中日ドラゴンズはあと4試合を残していた。谷沢はそこからの3試合で10打数5安打(3打数1安打、3打数1安打、4打数3安打)を記録し、張本を抜いて最終戦は欠場した。

 1981年の篠塚利夫(.357)と1982年の田尾安志(.350)も、首位打者との差は1厘しかなかった。1982年は、長崎啓二と田尾、それぞれの在籍する球団が最後の3試合で対戦。直前の2人の打率は.352と.344だった。長崎は10月16日の1打数0安打を最後に打席に立たず、打率.351でシーズン終了。田尾は10月16日に3打数2安打、翌日は5打数4安打と打ちまくり、打率を.350まで上げた。ところが、10月18日の最終戦は5打席とも歩かされた。田尾のいる中日は、この試合に8対0で勝ってリーグ優勝を決めたが、長崎のいる横浜大洋ホエールズが勝っていれば、先に全試合を終えていた読売が優勝していただけに、首位打者と優勝の行方という、二重の意味で後味の悪さを残した。

 田尾のシーズン打率は、1982年が最も高い。1980年から1984年まで、5年続けてセ・リーグの打率トップ10に名を連ね、1983年は3位に入ったが、首位打者は一度も獲得できなかった。打率3割5分以上で首位打者を逃した他の選手では、岩本義行渡辺博之谷佳知平野恵一が、首位打者のタイトルを手にしていない。

 姉妹編は、こちら。

45本以上のホームランを打ちながら「本塁打王」になれなかった選手。最多は50本塁打の…

【追記:5/17】メジャーリーグ編は、こちら。

過去30年のMLBに「打率.350以上で首位打者になれなかった打者」は14人。そのうち2度はイチロー

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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