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心のSOSに気をつけて 緊急事態宣言「2回目」を乗り切るセルフケア

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
緊急事態宣言を再発出(写真:西村尚己/アフロ)

首都圏など全国の一部都府県に2回目の緊急事態宣言が発出され、飲食店などの営業時間短縮や企業のテレワーク推進が求められることになりました。経済への影響が懸念されていますが、それを支える一人ひとりへの精神的な影響も非常に気がかりです。緊急事態宣言が心に与える影響とその対策について考えます。

感染状況に振り回され、過剰適応と燃え尽き

スポーツ施設で契約社員としてインストラクターをしている30代の女性は、宣言前日まで営業時間は変わらないと聞いていたのですが宣言が出て急きょ時短営業になり、収入が減ることを心配しています。また1回目の緊急事態宣言解除後は全社員出社する体制に戻っていた企業に勤める40代の男性は、再びリモート勤務に切り替わることになり、その手順作りに追われているということです。

このように感染状況によって、それぞれの生活リズムや仕事の手順を変えなければならない状況が続いています。自らの行動をコントロールできないことは大きなストレスとなることが報告されています。人は単に忙しいからストレスを感じるのではなく、自分のペースで働けないことにストレスを感じるのです。こうしたストレスは適応障害につながります。

特に業務量が増えている方は要注意です。企業の現場で非正規社員が減り、正社員でその業務を負担するような状況が昨年秋頃から目立ちます。業務量が明らかに増えた社員に先の見通しを聞くと「全く分からない」と言います。つまり先の見通しがつかないまま自分でコントロールできない状況で忙しさが続いているのです。その環境に頑張って適応していることで疲労が生じているといえます。性格的に周りから頼られていつも元気だと思われている人は、弱音を吐けず頑張りすぎて過剰適応することがあります。過剰適応が続くと、いきなり燃え尽きたようになり業務ができなくなるケースもあります。

仕事だけではなく毎日の生活で自分のペースが守れず、環境に頑張って適応しているような方は注意してください。例えば在宅で仕事しながら家事や育児も求められる環境になった場合、介護などが増えて自分の時間がなくなった場合などです。次の状態に当てはまらないかチェックしてください。多いほど負担が増えていると認識して積極的に対策をとったり、ご家族や信頼できる周りの方に相談したりなさってください。

□生活のペースが自分の思うようにいかない

□自分の時間がない

□無理して頑張っている気がする

□周りの人に心配をかけたくないので極力元気な顔をしている

□周りに頼られている存在だ

□イライラする。怒りっぽくなった

□不眠・眠りが浅い

□食欲がない

□炭水化物や甘いものを食べ過ぎる

□お酒の量が増えた

□だるくて朝起きられない

□めまいや耳鳴り、頭痛などがある

仕事減少で、自己肯定感の喪失によるうつ

今回時短営業の対象となった飲食店の経営者や従業員、ライブ活動が中止になったミュージシャンなど、収入が激減し経済的な打撃が大きい場合は、自己肯定感が喪失してうつ状態になるリスクがあります。

特に飲食や音楽関係の場合、自分たちの居場所が新型コロナ感染の急所などといわれていることで「自分が悪者のように感じる」「自分が不要と言われている気がする」という声を聞きます。また会社勤めであっても、派遣社員や契約社員で急に仕事を失ったり収入が減ったりしてうつ状態になる方もいます。早期退職を打診されて不安症状がひどくなる方もいます。

仕事は単に収入源というだけでなく社会の中の自分の居場所でもありアイデンティティーでもあるのです。それが揺らいだり喪失したりすることによる自己肯定感の低下は心の危機となります。単なる経済支援にとどまらず、社会の中の場、自分の能力を活かせる場を探すサポートが不可欠です。「自分などいないほうがいいのではないか」「自分は無価値だ」などと思う状態は心のエネルギーが低下したサインです。周囲にSOSを出して相談してください。

働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」(厚生労働省)

https://kokoro.mhlw.go.jp/agency/

コロナ禍の不安を乗り切るステップ

コロナ禍では、さまざまな不安も生まれています。感染の不安、経済状態の不安、先が見えない不安…そうした不安を乗り切るための対策を考えます。

ステップ1:原因を特定し確実な対策を

なぜ不安を感じるのか、しっかり原因を確かめましょう。感染に対する不安であれば予防対策を確実にし、経済面の不安なら相談窓口や支援制度を調べます。情報の入手先は信頼できるサイトに絞ること。コロナに関しては情報のアップデートが多いので、常に最新かつ正確な情報だけを見たいものです。未確認情報に惑わされて不安を募らせることは避けましょう。

ステップ2:呼吸で「不安立ち入り禁止」時間を

対策をしたら、不安にとらわれないようにするための時間を設けます。不安が心に浮かんだら「自分は対策を完了した」と再確認して呼吸法を試みることをお勧めします。

吸う息の倍の時間で吐く、呼吸法です。前にもご紹介しましたが自律神経をコントロールし交感神経を緩める鼻呼吸が不安改善に有効です。

まず右の鼻翼を指で軽く押さえ、左の鼻腔から息を吸います。次に左の鼻翼をおさえ、右の鼻腔から息を吐きます。左の鼻腔から吸う時、3数えて吸い、右の鼻腔から吐くとき6数えて吐きます。しばらくそれを続けうまくいくようなら4数えて吸い、8数えて吐くというように吸う息の倍の長さで息を吐くような呼吸を行います。

ヨガなどでよく行われる呼吸ですが、息を細く、長く吸う長さの倍で吐くのがポイントです。6数えて吸い12数えて吐くくらいの長さで呼吸できるようになると、かなりリラックスできますが、最初は無理せず「吸う息より長く吐く」くらいの気持ちではじめてもいいと思います。また頑張って多く吸い込む必要はなく、自然に無理ない範囲でゆっくり行うことが大事です。

ステップ3:セルフケアを毎日の習慣に

緊急事態宣言下の外出自粛は、生活を整えるチャンスともいえます。1回目の宣言下では「断捨離できた」「新しい趣味を見つけた」などいい話も聞かれました。そうした経験を生かし、身の回りや体のケアをしながら心のケアをする習慣を再度確認してください。

□食欲や睡眠に異常を感じたらかかりつけ医などに相談:食欲低下・睡眠の質が低下・朝早く目が覚めるなど

□朝日に当たる

□生活リズムを整える:決まった時間に起床・食事・入浴・就寝など

□呼吸法やストレッチの時間を決める

□筋肉が減らないように軽い筋トレやスクワット

□集中できることを見つける:資格学習、語学練習など

□家族や友達とお互いに体調などチェックしあう

□1日1回は友達や家族などと会話する(オンラインでOK)

□終日在宅でも朝は身支度してみだしなみを整える

□感情表現の手段を作る:気持ちを書く・絵を描く・ものづくり・料理など

□リモートワークの場合:時間を決めて窓を開けて外を見る

□ほっとできることを見つける:花を飾る、音楽を聴くなど

そして3:1の「心の習慣」作りを実行してみてください。ネガティブな感情を1体験しても、ポジティブな感情を3の割合で体験すれば心がネガティブスパイラルに陥ることを防ぐというポジティブサイコロジー心理学の理論です。

つまり不安な気持ちになったら、その3倍の頻度で、楽しいこと、ほっとできること、感謝できることなどに心を向けると、気持ちがリセットされ、不安や気分の落ち込みを防ぐとされています。

ステップ4:信頼できる人とのつながりをキープ

信頼できる人、本音を言える人との関わりは大事ですが、一方でたわいない雑談ができる場を作ることも役に立ちます。リモート業務となり、外出の機会が減り人との関わりが希薄で孤独感が大きくなる時期、オンラインを活用してコミュニケーションを維持する方法を考えることが必要です。

週末に時間を決めてZoomでつながり、雑談会を開催しているグループもあります。遠くに住む家族と食事時間にテレビ電話で話しながら過ごしたという方は、一緒に食事している感じがしてよかったと言います。現在のところ先の見通しがつかないコロナ禍ですが、困難な時期を共に生きる人たちとのつながりは、心の支えになると思います。

【この記事はYahoo!ニュースとの共同連携企画記事です。】

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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