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コロナ禍の夏にたまるうっぷん…心のサインに気を付けて

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
写真はイメージです。(写真:アフロ)

連日報道される新型コロナウイルス感染拡大や大規模災害、芸能人の訃報、海外の事故などで気持ちが暗くなっている方が多いと思います。

産業医としてメンタル不調の方と面談するのですが、この数週間うっぷんが心にたまり非常に攻撃的になったり気持ちが荒れたりしている方が多いことが気になります。また普段まじめと評価されている社員が、リモート作業の日にストレスをアルコールで解消しようとして家で泥酔してしまい、翌日の出社途中に足がもつれ階段から落ちてけがをするといったこともあり、多くの方が大なり小なり新型コロナの影響で心にダメージを受けていることがわかります。

特に私が懸念しているのは、いま現在はうつではない、でも気持ちが落ち込んで楽しいことがないと感じている「うつ予備軍」とも言える方がじわじわ増えていることです。

仕事も遠出も…不公平感や怒り募る

都内で一人暮らしのAさん(30代)。週の2日はリモートで3日は出社という勤務が続いています。同僚の中にはリモート3日体制の人もいて、自分が貧乏くじを引いたような気がしていら立ちを感じています。また地元は九州ですが今年は帰省できず家にいる予定のため、「Go To トラベル」を利用し旅行するという都外在住の同僚の話に不公平を感じ怒りがたまっています。マスク姿の通勤で暑さも加わり、出社時つい女性の部下にあたってしまい人間関係が悪くなったと言います。心にたまる怒りをどこに向ければいいかわからない…という状態でした。

悲しみと不安抱え、友人とも会えず

派遣社員として働いてきたBさん(20代)は、最近ファンだった芸能人が亡くなり関連ニュースを見るたびに気持ちがふさぐ感じがしています。見なければいいと思ってもつい見てしまいまた気分が落ち込むという繰り返し。仕事の面では同じ職場で働き続けられるかどうかの不安もあります。

同居する両親には、芸能人の死でショックを受けているとはとても話せないし、友人とも会う機会がなくなって面白いことや楽しいことが何もないという思いを抱えています。

<うつ予備軍 7つのサイン>

1.被害者意識が急に強くなった

「自分だけが損している」「自分だけ負担が大きい」…そんなふうに感じるときは心のエネルギーが低下しているサイン

2.酒量が増えた・昼間から飲んでいることがある

うっぷんをアルコールで紛らわしているときは、心にたまった不満が加速しているサイン。この時期アイスクリームをコンビニで買い込み過食傾向の方も注意

3.普段なら大丈夫なことに耐えられなくなった

普段ならカッとしないようなことで文句を言いたくなるのは、心にうっぷんがたまっているサイン

4.物にあたる

音を立ててドアを閉める、音を立てて食器を置く、など物にあたるときは、言葉で表現できない怒りがたまっているサイン

5.化粧するのが面倒くさい

化粧したり身だしなみを整えたりすることが面倒でおっくうなときは、心のエネルギーが低下しているサイン

6.よく眠れなくなった

眠りが浅い、朝早く目が覚める、など睡眠が十分でないときは、精神的ストレスが強まっているサイン

7.いつもは受け流せるのに我慢できなくなる

仕事でも家庭でも周囲の人がすることで「このくらいはいい」と思えていたことが許せなくなっているのは心のゆとり消失のサイン

こうしたサインがある場合は、深刻な状態になる前に対策をとることが必要です。

対策1.情報との付き合い方を仕切り直す

新型コロナのみならず様々な情報が拡散しています。テレビ、SNS で閲覧する時間や内容を決めておき、「暇に任せて何となく見る」「いつもテレビをつけている」状態にしないことが大事です。情報は時として不正確なままセンセーショナルに取り上げられる傾向があります。不幸なニュースを見て「自分もこうなるのでは」「これしか選択肢はないのでは」などネガティブな同一化を起こすことがあります。特に寝る前1時間はスマホを消す習慣づけが必要です。

対策2.マスクを外しクールダウンできる場所と時間を確保する

心の活気は暑さやマスクにも影響されます。マスク着用が続くと呼吸が浅くなり酸素欠乏状態になっていることもありますから、人がいない場所を見つけ1時間に1回ほど深呼吸を繰り返す時間を作り自律神経を整えてください。また保冷材で首の動脈などを冷やしクールダウンする時間が必要です。身体の状態を快適にしないと心にもゆとりを持てません。

対策3.うっぷんがたまったら物にあたらず身体を動かす時間を作る

暑い時間を避けて夕方以降か早朝に身体を動かすことも心にうっぷんをためないポイントです。通勤を含む外出の機会が減り家での作業が続くと、じっとしているだけでうつのリスクが高まります。歩くなど身体を動かすことはうっぷんを軽減するのに役立ちます。

対策4.「最善の未来を願い最悪の事態に備える」気分で過ごす

楽観的になることが大事です。ただし「楽観バイアス」には要注意。最悪の事態に備えてコロナ対策をしっかり行い、あとは最善の未来を期待するという、楽観性と慎重さを兼ね備えた心のスタンスを大切に過ごしましょう。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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