Yahoo!ニュース

新型コロナとたたかう看護師の心のケアどうする 差別や偏見という敵も

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
画像はイメージです。(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

新型コロナウイルスの感染者を診療したクリニックや感染者が入院している病院に勤める看護師や医療従事者が、地元で差別と偏見で悩んでいるという。子どもを保育園で預かってもらえなくなり仕事に支障をきたしたり、近所の人から避けられたりするなど心理的な負担が大きくなっているという。最前線で働く人々へのこうした差別や偏見は新型コロナウイルスで逼迫している現状のなかでマイナス要因であることは間違いない。だが看護師や医療従事者のメンタルなサポートはおろそかにされがちなのが現状だ。こうした状況を受け、医療従事者を応援するキャンペーンを始めた自治体もある。

武漢の看護師のメンタル状態

米国医師会が発行する「JAMA Psychiatry 」最新号に、中国河北省で新型コロナウイルス患者の治療を行う医療施設で働く看護師や医師のメンタルヘルスの調査が報告されている。調査は今年1月29日から2月3日まで行われ、対象者は1257人。61%が看護師、39%が医師で、全体の76.7%が女性だった。調査内容は不安状態やうつ状態、睡眠の質などを問うものである。

報告によると、対象者の50.4%にうつ状態、44.6%に不安障害、34%に睡眠障害、71.5%にストレス状態が確認された。特に武漢の病院に勤務する女性看護師には他の地域に比べうつや不安、睡眠障害などが多く見られ、精神的な負担の大きさがうかがわれた。報告はこうした結果から医療従事者、特に看護師に対するメンタルサポートの必要性について問題提起している。

医療従事者も人間です

医療従事者、特に看護師は、患者さんに安心感を与えることを念頭に置いて仕事に従事している。このため自分の感情を抑圧し、不安やつらさを感じてもがまんしがちだ。病院は人手不足の中でぎりぎりの状態で医療を行っている場合が多く、ここで看護師が心身の不調を起こすと医療は崩壊する。特に今回のようなこれまで経験のない感染症の現場では、患者のケアに加え院内感染防止という重圧がかかる。しかも自分の感染という不安とたたかわねばならない。これは新型コロナ感染症の治療にあたる病院だけでなく市中のクリニックでも同様で、院内の消毒や問診などで看護師には物理的にも精神的にもこれまでにない負担がかかっている。

こうした状況の中、前述のような中傷や差別が起きていることは医療従事者の精神的負担を大きくし、ひいては医療自体の質の低下をきたすことも懸念される。医療従事者も人間であり感染の不安を抱えながら仕事をしている。仕事だから当たり前という感覚がはびこっているが、この状況は今後の感染拡大時に大きな障害になる可能性がある。看護師や医師が十分に働けるように、医療従事者へのメンタルサポートも必要である。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

海原純子の最近の記事