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映画館と動画配信、同時ならばどっち?コロナ禍での映画鑑賞行動・意識の変化は

梅津文GEM Partners株式会社 代表取締役/CEO

マーベルスタジオ最新作『ブラック・ウィドウ』が大ヒット公開中だが、本作は、劇場公開とともに、配信サービスのディズニープラスでも都度課金型で視聴が可能だ。このように劇場公開される大作が映画館と配信で同時に見られるのはこれまではあまり例がなかった。では人々はそういった場合にどちらで見たいと思うのか、映画館と配信それぞれで視聴する場合に感じている価値は何か。

(本記事は、GEM Partnersにて6月26日~28日に実施した 「コロナ禍におけるレジャーや映画館での映画鑑賞に対する意識調査」(回答者数4,126人)をもとにしています)

映画館と配信:同値段・同時だったらどちらを選ぶ? ジャンル別の傾向

映画館とオンライン配信で、同値段・同時に提供された場合に、生活者がよりどちらで観たいか。

それは以下の調査結果の通り、ジャンルによって異なる。

映画館での鑑賞意向に着目すると、洋画と邦画では洋画の方が高い。洋画では特に「アクション・バトル」「SF」「ファンタジー」「アメコミ・ヒーロー」が、邦画では「アクション・バトル」が高い。また、アニメでは、ジブリやディズニーなどのブランドアニメはいずれも映画館の鑑賞意向が高い結果となった。

なお、各ジャンルで「絶対に映画館で観たい」割合と、「絶対にオンラインで観たい」割合を比べると、邦画実写の「コメディ」を除きすべてのジャンルで「絶対に映画館で観たい」が上回った。

それぞれの鑑賞方法の魅力:映画館は「環境・設備」、動画配信は「自由に」「家で見られる」

1年以内映画館鑑賞者が感じる映画館の良さは、「大画面」が最も高く、「良い音響」「非日常な気分」「集中して観ることができる」「きれいな映像」など、環境・設備に関連する項目が上位となっている。これらの点は、「最新作が観ることができる」や「イベントとして楽しめる」「外出・お出かけのきっかけになる」などの訴求力を上回っている。

映画館の良さとして高い値を記録している点の多くは性・年代で偏りがない。 「非日常な気分になれる」は年配・女性寄り、「外出・お出かけのきっかけになる」は女性寄り、また、「よいシート」「静かな環境」などは男性寄りである。

1年以内動画配信サービス利用者が感じる動画配信サービスの良さとして「自由に(自由度)」「家で(家視聴)」観られる要素が多く上がった。「好きな時間に観ることができる」が最も高く、次点は「家でリラックスして観ることができる」となった。そのほか、上位には「観たいと思ったらすぐに観ることができる」「途中で止めることができる」のほか、「在宅時の暇つぶしになる」などもあがった。「いろんな作品から選ぶことができる」などのラインナップ、「たくさん観ても料金が変わらない」などのコスト要因も高い。

性年代での傾向は、「好きな時間に観ることができる」「好きな場所で観ることができる」など多くの自由度の要素が、女性寄りである。「別のことをしながら」など、家庭の主婦に対して自由度の訴求力が強いことがうかがえる。一方、若者・男性寄りとなったのは「英語字幕で観ることができる」「倍速で観ることができる」などの機能要素である。「映画館の良さ」と比べると、各要素の男女差は大きいが、年代による差は小さく、年代問わず同じ要素が良さとして認識されているようだ。

このように、映画館、動画配信サービスで同時・同値段だった場合、よりどちらで観たいかは作品ジャンルによって異なる。また、そもそも映画館での映画鑑賞と動画配信視聴の訴求点は大きく異なり、それぞれ鑑賞者層によっても異なる。どちらでも鑑賞者・視聴者を最大化するためにはそれぞれの作品特性、鑑賞者特性に合わせた訴求が有効といえる。

もうひとつの映画館と配信の関係性:「ファスト映画」などの流行の背景にある、映画をはじめとしたコンテンツを多く、速く鑑賞し、観る前に内容を事前確認したい意向の高い層は?

昨今、コロナ禍で無料の動画配信サービスが大きく伸びるなか、著作権侵害事例として問題となった「ファスト映画」。その背景にあると考えられる、「話題となっている多くの映画の中身を短時間に確認できる」ことへのニーズは、どの程度、どんなセグメントにおいて高いのだろうか。

「話題への追随意向」「倍速再生意向」「ネタバレ含めた鑑賞前の内容確認意向」を、性年代、地域、年間劇場鑑賞本数別にみると、男女とも若者、そして映画館での鑑賞頻度の高い映画ヘビー層において強い。ただし、ネタバレについては10代、20代とヘビー層においては拒否する割合も高い。

著作権侵害は断じてあってはならないが、若者や映画ファンを中心にこういったニーズが「ファスト映画」によって顕在化したともいえる。こういった潜在ニーズは今後のヒット作の生まれ方に影響を及ぼすと考える。

「新型コロナウイルスの影響トラッキング調査」無料配布

(GEM Standard内の筆者記事より加筆・修正のうえ転載)

■調査概要

レポート名:新型コロナウイルスの影響トラッキング調査レポート 第11回

調査方法:インターネットアンケート

調査対象:日本在住の15~69歳の男女

調査実施日:2021年6月26日(土)~28日(月)

回答者数:4,126人

数値重みづけ:総務省発表の人口統計、弊社実施調査を参考に回答者を性年代・映画鑑賞頻度別に重みづけ

GEM Partners株式会社 代表取締役/CEO

1997年東大法学部卒業後、警察庁入庁。NYUロースクールで法学修士を取得した後、マッキンゼーのコンサルタントに転身。2008年映画好きが高じて飛び込んだ映画業界でデータ分析・マーケティングサービスを提供するGEM Partnersを設立。ミッションは、映画・映像ビジネスに関わるすべてのデータを統合・分析し、出合うべき映画のすべてに、人々が出合える世界をつくること。人生を変えた映画は、『嫌われ松子の一生』。

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