2018年No.1『ボヘミアン・ラプソディ』興収100億までの軌跡~Show must go on~

『ボヘミアン・ラプソディ』認知率/TV番組内露出の推移

先日、映画製作者連盟より2018年の日本映画産業統計が発表された。資料によると、2018年の総興行収入は2225億1100万円、昨年公開された作品の興行収入No.1は、『ボヘミアン・ラプソディ』(104.6億円)であるという。

ロックバンド「クイーン」のボーカル、フレディ・マーキュリーを描いた本作は、2018年に社会現象化した作品の一つであり、現在もヒット公開中である。本作の軌跡をマーケティング定点データからたどると、いかに近年の作品の中で、異例の興行展開であったかが分かる。その背景を紐解いていきたい。

公開前は知っている人は決して多くはなかった

『ボヘミアン・ラプソディ』の公開12週前の調査では、映画館で年に1本以上映画を観る人の中でも、本作を「知っている」と答えた人の割合である認知率は12%と、ほとんど知られていない状況であった。その後、公開に向けて劇場予告編や各種メディアでの宣伝展開を強化し、認知率は公開時に33%まで上がる。しかし、この段階では“普通”のレベルであった。

2018年に100スクリーン以上の規模で公開された洋画の公開週認知率の平均値は31%である(なお、最高値は65%、最低値は10%)。この段階での作品浸透はクイーンファンや映画好きがメイン層であった。『ボヘミアン・ラプソディ』の公開週末土日2日間の興行収入は3.5億円。一般的に最終興行収入は公開週末土日興行収入の概ね5倍といわれている。3.5億円はもちろん素晴らしいスタートではあるが、予想される最終興行収入は20億円弱ぐらいのペースのスタートだった。

公開後:異例の興行展開、なんども前週比で増加

ところが、ここから前例のない展開が始まる。公開から5週目までの土日興行収入が前週よりも増加した。週末の興行収入が前週比で増えるということは極めてまれなことである。近年では『アナと雪の女王』や『この世界の片隅に』などが挙げられるが、『ボヘミアン・ラプソディ』のように4週連続で増えた事例はない。

ここでは、本作のヒットがメディアに取り上げられ、SNSを含めた口コミで広がり、それがまたヒットにつながり、さらにまた広がる、という話題性の爆発が連鎖し、好循環が起こっていた。映画のヒットと合わせて、サウンドトラックもヒットしていることや、さらには、クイーンが再度ブームになっていることなど、映画のヒットが映画への強い関心につながるような話題が提供された。公開4週目には宣伝露出が最初のピークを迎え、認知率は47%にまで上昇。鑑賞意欲層もクイーン世代から若い層へ広がっていく。

興行収入100億円を超え、2018年公開映画No.1へ

その後もじわじわと認知率が上昇。続くヒットを背景に、その理由に迫る報道などといった深掘りが始まる。さらにはクイーンと日本との関係の深さや関係者インタビューなど、関連トピックへも話題が広がっていった。こうしたことがますます本作の知名度・話題性を押し上げていったと考えられる。重ねて、ゴールデングローブ賞受賞のニュースが飛び込んだ週には、認知率は前週比6ポイント上昇し、10週目にして65%に到達した。

さらに先週は、アカデミー賞5部門ノミネートとともに、興行収入100億円突破のニュースがメディアで取り上げられた。これにより、認知率は更に2.5ポイント伸長し、67%に達する。前述の通り、公開時認知率は33%だったことを鑑みると、いかに公開後に作品が浸透していったかが分かる。

まだまだ拡大ポテンシャルあり

では、今後どう展開していくだろうか。

例えば、前述した最終興行収入は公開週末土日の興行収入の5倍になるという試算方法をここで仮に当てはめてみる。先週末の土日2日間(1月26日、27日)の興行収入は2.35億円なので、これを5倍した値を先週末の累積興行収入である104.6億円に足すと、116.3億円となる。

しかし、ここまで見てきたように“通常の場合”が当てはまらないのが本作。これまでの展開の力強さを考えると、少なくとも上記の値は軽々超えると考えた方が妥当である。

また、今後も力強く展開するだろうと想定するうえで、もう一つ、マーケティング指標として注目したいのが、「鑑賞意欲者の中のファーストチョイス率」である。その映画を「観たい」と答えた人の中で、「その映画こそが一番観たい」と回答する割合であり、鑑賞意欲度の“熱さ”ともいうべき指標である。この値は、『ボヘミアン・ラプソディ』公開時に68%を記録し、76%まで上昇する。その後、一時的に数値を下げたが、先週末時点でまだ公開時とほぼ同じ67%なのである。ライト層、話題度に反応する浮動層にも広がっていることを考えると、当面ヒットし続けるとみてよいだろう。

2月25日(日本時間)には、5部門にノミネートされたアカデミー賞の発表も控えている。2018年No.1映画に引き続き目が離せない。