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マンネリ化する「行政改革」―“行革”自体を“行革”しよう

上山信一慶應大学名誉教授、経営コンサルタント、大学院至善館特命教授
出典:Estonia Tool Box

 多くの自治体が行政改革を重要課題に掲げる。しかし、内容を見ると20年前、いや30年前と同じメニューで進歩がない。前文では決まって人口減と高齢化を強調し、財政が未曾有の厳しさだというが30年前からずっと同じだ。改革の中身も補助金見直し、技能作業員の採用縮小、民間委託の推進など昔からのメニューが多い。ICT活用による窓口対応のコスト削減やベンダーロックイン問題への言及も少ない。そもそも改革には達成目標と期限が必要だ。ところが自治体の多くは“行革”の名のもとで毎年、同じ目標を掲げ、だらだら行革を続けている。行革推進部が常設されている場合も多い。しかし、そのこと自体が“行革”の失敗を意味するのではないか。

〇行革を覆う財政赤字の呪縛 

 “行革”がマンネリに陥りやすい最大の理由は「財政赤字の削減」を目標とするからだ。たしかに節約に終わりはなく、赤字削減に異を唱える人はいない。かつては目に余る放漫財政があった。無駄な公共事業、公務員の厚遇、余剰人員が目立った。だから1990年代には「とりあえず節約、削減」の方針に合理性があり、実際にやってみたら効果が出た。だが30年たっても同じ構造が続いているはずがない。

 わが国の財政は国も自治体も赤字が続く構造になっている。増税が難しくてやるべき業務に見合った財源が手当されないから赤字は容易には消えない。加えて背景には財政錯覚、安易に起債できる制度の欠陥、護送船団方式の悪弊、いわゆる老人民主主義の問題などがある。財政緊縮は必須だが、個々の自治体でできることは所詮は現行制度内でのやりくり、対策でしかなく、真の改革目標にはなりえないのではないか。

〇人手不足の時代にミスマッチ

 要するに“行革”で財政赤字を克服するというスローガンがもはや訴求力を失ってしまった。一方で、今の行政現場では、人手不足や能力不足による仕事の遅れや不備(含む不作為)が目立つ。とりわけケースワーカーや保健師などの専門職員、技術者、企画スタッフが足りない。そんな中で“行革”は、十年一日のごとく全部門にさらなる外注化や職員数の削減、そして経費の削減を求め続ける。職員の新規採用は抑えられ、有期雇用やOBの嘱託派遣でかろうじて辻褄合わせをしているが、持続可能ではない。

 今はどこでも人手不足の時代である。メーカーや外食、スーパーでもレジのパートを正社員化し、人材の囲い込みを図る。企業は、品質を上げながら生産性も上げために機械化で業務プロセスを変え、時には人員増強もして持続可能な組織作りをする。ところが多くの自治体では昔ながらの“前年比○○%”の削減の“行革”を続けている。おかしくないか。

〇“行革”から事業別の「経営改革」へ

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慶應大学名誉教授、経営コンサルタント、大学院至善館特命教授

専門は戦略と改革。国交省(旧運輸省)、マッキンゼー(パートナー)を経て米ジョージタウン大学研究教授、慶應大学総合政策学部教授を歴任。アドバンテッジ・パートナーズ顧問のほかスターフライヤー、平和堂等の大手企業の社外取締役・監査役・顧問を兼務。東京都・大阪府市・愛知県の3都府県顧問を歴任。著書に『改革力』『大阪維新』等。京大法、米プリンストン大学院修士卒。これまでに世界119か国を旅した。オンラインサロン「街の未来、日本の未来」主宰 https://lounge.dmm.com/detail/1745/。1957年大阪市生まれ。

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