「スクショNG」は海賊版対策に有効か 気になる「表現の自由」への影響

海賊版対策は文化庁にバトンがわたった(写真:西村尚己/アフロ)

 13日に開催された「文化審議会著作権分科会」で、海賊版と知りながら漫画などの静止画をダウンロードすることを違法行為とし、罰則付きで禁止する方針が了承された。今後、文化庁は、著作権法の改正案を開会中の通常国会に提出することになる。

 これまで著作権を侵害する動画と音楽のダウンロードは刑事罰対象となっていたものの、静止画は対象外であった。それが一昨年来の、海賊版サイトによる被害の拡大を受けて、静止画についても有効な対策として、出版団体をはじめとする関係者から強く求められてきた。

「スクショNG」?

 「スクショNGになるんだって」と、コミケ出展歴十ウン年の娘から、メールが飛び込んできた。焦ったように漫画家の赤松健さんのツイートやヤフトピのリンクが続いてきた。そこには「著作権侵害、スクショもNG」と見出しが躍っている。いや、違法にアップロードしたコンテンツについてであって、漫画のスクショがすべてNGという訳ではないよ、と返すと「どれが違法でどれが合法か分かってるユーザーいるんかね…いたら漫画村なんか生まれなかったろうに。知らずにスクショして、違法しちゃったとかありそう」と、ちょっと落ち着いて返事が来た。

 確かに「小説や雑誌、写真、論文、コンピュータープログラムなどあらゆるネット上のコンテンツ」が対象になり、「個人ブログでも、権利者の許諾なくアニメや写真が載っていれば、スクショNG」と解説されれば、自分もやっていると思って慌てるだろう。

 ネットでは「何が悪いかわからない」という声が多く、法改正が具体化する前から不安が広まっている。13日の著作権分科会を聴講したのだが、何名もの法学者から懸念の声が上がっていた。不安が強くなるのも無理はない。

海賊版対策として検討が始まる

 静止画ダウンロードの違法化は、もともと、一昨年来の海賊版による被害が拡大する中で、対策の1つとして考え出された手法である。目的に沿って適切に制度化されれば、特に心配に及ぶこともないのだが、拙速な法制化への運営に対して不信感が募って慎重論が続出した。過熱化したのは、海賊版サイトへのアクセスブロッキングの法制化に端を発しているからでもある。あのときも、委員の間で、一度決まったらどう運用されるかわからないという強い不信があった。

 昨年、知的財産戦略本部「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)」(以下、タスクフォース)の検討では、ブロッキングに対して強い反対意見が出ることとなり報告書がまとまっていない。一方、著作権を侵害する静止画ダウンロードの違法化については、出版社や権利者団体などから早急な法整備を求める要望があり、タスクフォースの座長報告の中でも、「直ちに取り掛かることが必要な内容について、共通の認識が得られた」とある。

 このときまではサイトブロッキングに注目が集まった分、静止画ダウンロード違法化に目立った反論も出ていなかった。

ダウンロードの違法化のほうが国民への影響大

 しかし、国民への影響を考えれば、サイトへのアクセスブロッキングよりもダウンロードの違法化のほうが大きいだろう。著作権侵害の音楽と映像のダウンロードを2010年に違法化、続いて2012年に刑事罰化した際には、日本弁護士連合会やインターネットユーザーを中心に強い反対運動が起こっている。

 もともと2000年代におけるファイル共有ソフトを用いた音楽や映像の著作権侵害がひどく、この間、「著作権分科会私的録音録画小委員会」の議題となっていたことから、静止画が議論の俎上に載ってこなかった。だからといって、対象範囲を安易に広げて良いということではない。

 文化庁は、海賊版サイト対策としてブロッキング法制化を断念したことで、直ちに静止画ダウンロードの違法化に取り組むことになる。「著作権分科会法制・基本問題小委員会」では、昨年10月から集中的に検討を開始し、2019年2月5日に報告書を公開、2月13日に開催された著作権分科会に諮っている。短期間に報告書までこぎ着けたのは、委員会の意見が一致していたからではけっしてない。著作権法の改正案を、通常国会に提出するためにかなり強引な事務局の運営があったといってよい。

パブリックコメントでは賛否両論が激しく対立

 現に昨年12月からのパブリックコメントでは賛否両論が激しく対立し、問題点が表面化した。続いて1月25日に開かれた小委員会では、「海賊版サイトとは直接関係のない範囲にまで刑事罰の範囲を拡大する必要があるのか、萎縮効果など将来国民や文化的活動についてどのような影響があるのかについて、正確な資料に基づく立法事実に裏付けられた検討が不十分」で、「国民に広がっている不安や疑問を払拭できる内容には至っておりません」とした意見書が、前田健委員ら5名連名で机上配布される事態となった。

 結局、事務局が準備した報告書(案)に対しても反対意見が続出し、取りまとめることができなかった。結論を急ぐ文化庁事務局は、修正を含み主査預かりとして、この日の小委員会をなんとか閉会に持ち込んでいる。29日に事務局より修正版が各委員に送信され30日18時に意見の締め切りとされる中で、26名の委員中8名の連名による「報告書(案)修正の方向についての共同意見」が提出された。

 そもそも文化庁がこんなに早く結論を出すことなど聞いたことがない。同じ著作権分科会で議題となっていた「私的録音録画補償金制度」は、15年間検討され未だ結論が出ないままである。またも継続審議となったことに、委員からも呆れた声が上がったほどである。

海賊版静止画から著作物全般に拡大

 報告書には、「音楽・映像と差異を設けることの不合理性・問題点を指摘する意見」もあるとしている。音楽・映像と静止画・テキストを区別するだけの優位な差がないというのである。これを受けて「少なくとも民事については,録音・録画と同様の要件の下,対象範囲を著作物全般に拡大(対象行為を複製全般に拡大)していくことが有力な選択肢となる」としている。

 もともと海賊版対策であったはずが、いつのまにか「著作物全般に拡大」することになったのだ。当初、報道では「静止画ダウンロードの違法化」と表現されることが多く、一般にも音楽・映画に加えて漫画・書籍まで範囲を広げると理解されてきた。たが、静止画だけでなく文書などのすべてのテキストを対象とし、一部でも違法な転載を含む著作物についてもダウンロード禁止対象にしようというのである。

 音楽・映像と、静止画・テキストについて、デジタルコンテンツとしての技術的入手方法に違いがないとしても、生活の中で利活用する様には大きな違いがある。個人が思索のために何かしらの資料を収集・保存しておくために、静止画やテキストをダウンロードすることは極めて一般的な行為である。音楽・映像のまとまった量をダウンロードして娯楽に供するのとは本質的に異なっている。しかも、今回は、個人の情報取得行為に対して違法化ではなく一足飛びに刑事罰化を図ろうとしている。

対象範囲を厳格に絞り込む必要

 報告書には続けて、「刑事罰については対象範囲を厳格に絞り込むことが求められるものであるが」、民事についても「被害実態が明らかな海賊版対策に必要な範囲に限って違法の範囲を定めるという観点から、刑事罰と同様に限定を設ける」べきとの意見も出されたとあり、「その点に十分に留意する必要がある」とある。

 留意点として「主要要件の取扱い」についても、「違法だと当然に知っているべきだった」、「違法か適法か判断がつかなかった」等の場合に、ダウンロードが違法とされることのないよう見直すこととし、適法引用されているものだと認識してダウンロードしたが、実際には引用要件を満たしていなかった場合にも、「事実の認識」と「違法性の認識」の双方について解釈を明確にすることなどが、委員の意見によって報告書に盛り込まれた。

「留意する必要」は留意されるのか?

 しかし「留意する必要」という文言があるからといって安心できるものではない。なぜなら、報告書には両論併記があってもよいが、法制化では曖昧さを排除し一意に決めるものだからである。その際には、「十分に留意する」ことよりも「録音・録画と同様の要件の下,対象範囲を著作物全般に拡大していく」ことを「有力な選択肢」と記しておくことが「霞ヶ関文法」としての記述の仕方だという。

 刑事罰の取扱いについて、報告書には「これまでに録音・録画に関しても検挙例はなく,刑事罰は,専ら抑止効果として 機能しているのが現状である」とあるが、「ワンクリックで犯罪者」になるようなことはないから安心というわけではない。そこに警察が逮捕しないという保障などないし、検挙しないとなれば、悪いことを考える者には無力であろう。結果的に法に対する信頼も失いかねない。法学者の委員からも懸念の声があった。

懸念すべきは表現の萎縮

 分科会では、永江朗委員の「情報収集の違法性を気にすれば、原稿を書くことが萎縮する」という趣旨の発言に対して、司会を務める道垣内分科会長が「情報収集と表現行為が混乱しているようですが」と確認した。すかさず永江委員は「その2つを分ける意味はない。情報収集なくして表現はない」と言い切っていた。誠にその通り。今回の規制によって表現の自由が脅かされかねないことに注意すべきだ。

 出版団体は、海賊版ダウンロードの違法化に向けて熱心に運動をしているが、漫画作家とコミュニケーションを取っているのだろうか。パブコメに違法化推進の声を集めるだけではなく、漫画作家と共同声明を出すことも検討してほしい。

 漫画家のすべてを代表するわけではないが、赤松健さんや竹宮恵子さんのように、読者の立場に立って反対を表明する作家も出ている。一方、出版業界内から違法化に対する懸念の声は、一人として聞こえてこない。二次創作作品も楽しむ漫画ファンの間では、漫画カルチャー育成よりもビジネスを優先する出版社に対して不満の声も聞こえてくる。確かに漫画雑誌の不信が、書籍を含む出版全体の危機につながっていることは事実だ。だからといって、表現に関わるものとして、表現の萎縮につながりかねない法制化に反対しないままで、よいとは思えない。

 なぜ、文化庁はこうも成立を急ぐのか。その疑問に切り込んでいくのが出版ジャーナリズムではなかったのか。すべてを白日の下にさらし、国民の不安を払拭するのも表現メディアの役割のはずだ。

追記(2月25日)

 法制化に向けて大きな動きがあれば、新たなニュースとして取り上げるつもりだったが、出版界からも声が上がったので、ここに追記した方がよいと考えるに至った。以下、日を追って書いておく。

 2月19日に著作権分科会法制・基本問題小委員会の委員も含む著作権法・情報法の法学者や弁護士、専門家らによる緊急共同声明が発表された。

 ダウンロード違法化の対象範囲については、慎重な議論を重ねることが必要であるとし、被害の実態が明らかな海賊版対策に限定すべきとしている。また、「原作のまま」及び「著作権者の利益が不当に害される場合」に限り、刑事罰については悪質場合に限る必要がある主張している。

 賛同者その後も増え、現在は100名を超えている。私も共同声明が発表されてすぐに、呼びかけ人である高倉成男先生、金子敏哉先生に連絡して、賛同者に加えていただいた。

 2月21日、法制化に向けてロビー活動してきた出版界からも、いきすぎた規制について懸念の声が上がった。日本書籍出版協会など主だった出版団体で構成する「出版広報センター」が声明文を発表した。

 「既存の著作物の利用が、新たな著作物の創造に寄与する」として、「ダウンロード違法化の対象範囲見直しが、ネットユーザーやクリエイターの表現行為を萎縮させるようなこと」があってはならないとする。さらに「違法化の対象範囲見直しにあたっては、「表現の自由」への最大限の配慮」を求めている。

 同日行われた、講談社の決算発表会で、野間省伸社長が記者の質問に答えて「海賊版サイトは撲滅したいが、大前提として表現の自由の侵害や、著作者の創作意欲を萎縮させることには反対だ」(iTmedia 2/21)とした報道もあった。

 おそらくタイミングをあわせたのだと思うが、出版業界の公式窓口と出版社のトップが海賊版対策について、業界の立ち位置が明確になった。作家とユーザーが声を上げる中、板挟みになっていた出版界も懸念を表明することで、同じ方向を向くことができた。

 残念ながら、21日、自民党文部科学部会が開催され文化庁原案通りを承認した。

 誰も望んでいない「ダウンロードの違法化拡大」について、なぜ、自民党は範囲の絞り込みもせず、原案通りでいくのか。文化庁らしくもなく法制化を急いできた訳はなにか。

 疑問はさらに深まり、次第に国民の間に不安も広まっていくことになる。