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「むしろボールを変えるべき」ダルビッシュも苦言…MLB投手の滑り止め厳格化の背景と選手の本音

上原浩治元メジャーリーガー
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 アメリカ・メジャーリーグで、一部投手がボールの回転数を上げるために〝滑り止め〟として強力な粘着物質を不正使用しているとの疑惑を受け、MLB(大リーグ機構)が取り締まりと罰則を厳格化することになったと報道されている。21日から適用され、違反した投手には退場処分に加え、10試合の出場停止の処分が科される厳しいものだという。

 日米でプレーした選手なら、その感覚は言うまでもない。日本のしっとりとした皮質に対し、メジャーのボールは本当によく滑る。滑り止めのためのロージンはほとんど役に立たず、滑らないように握ることで、過度な負担が肘にかかってしまう。じん帯再建手術のトミー・ジョンを経験する投手が多いのもボールとは無関係ではないと思っている。メジャーの投手は多かれ、少なかれ、滑り止めの対策に苦労し、工夫をしてきた。こうした中、強力な粘着物質「スパイダータック」を使用し、速球の回転数を増やしていることが問題視されるようになったのが取り締まり強化の発端とされる。MLBが投手のボールの回転数が上昇し、投手優位の状況が生まれていることを問題視しているというのだが、原因は果たして、それだけなのか。

 近年のメジャーでは「フライボール革命」と呼ばれる新たな打撃理論が席巻する。打球に角度をつけて打ち上げることで本塁打数の増加を生み、極端なシフトを敷く内野を超える打球を放つなどの効果があるとされる。一方で、バットコントロールで対応する打者が減り、三振数が増加したなどの指摘も報道で目にする。エンターテイメントとしては「打高投低」のほうが盛り上がるというのがMLBの本音だろう。シーズン中に異例とも言える投手への規制強化にはそんな背景も垣間見える。

 パドレスのダルビッシュ有投手らも厳格化の適用に反発している。そもそも滑りやすいメジャーのボールに問題があるという指摘はごもっともで、明らかな不正行為でボールの回転数が過去よりも急激に変化した投手を取り締まればいいというのもその通りだろう。そもそもボールが日本のボールのように滑らなければ問題は生じない。主張に賛同する。

 一方で、ボールの変更は簡単でもないかもしれない。これまで供給してきたボールメーカーにとっては経営面から致命傷につながるだろう。だからといって、ボールはそのままで規制を強化すれば、肘への負担でけがをした投手は選手生命もかかわる。さらに言えば、けがのリスクは投手だけではない。滑りやすいボールが抜けることで、打者が死球を受ける確率も高まる可能性だってあるはずだ。

 ボールの感触は晴れている日、雨天の日など天候によっても変わる。投手は指先の感覚に神経を研ぎ澄ませている。シーズン中に厳格化の適用を急がず、たとえば今オフに協議をして、ロージン以外で、ある程度の「滑り止め」に効果がある物質をメジャー全体で導入するというのも策の一つではないだろうか。それ以外のものを使用すれば、もちろん罰則を科せばいい。対応を考えるための時間があっていい。

元メジャーリーガー

1975年4月3日生まれ。大阪府出身。98年、ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。1年目に20勝4敗で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠、新人王と沢村賞も受賞。06年にはWBC日本代表に選ばれ初代王者に貢献。08年にボルチモア・オリオールズでメジャー挑戦。ボストン・レッドソックス時代の13年にはクローザーとしてワールドシリーズ制覇、リーグチャンピオンシップMVP。18年、10年ぶりに日本球界に復帰するも翌19年5月に現役引退。YouTube「上原浩治の雑談魂」https://www.youtube.com/channel/UCGynN2H7DcNjpN7Qng4dZmg

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