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60試合の超短期決戦…今年の異常なMLBで不発だった日本人野手 僕が張本さんに「喝」できなかった理由

上原浩治元メジャーリーガー
初年度でワールドシリーズ出場を果たした筒香選手だが、打率1割台と苦戦した。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 TBS系「サンデーモーニング」に以前、出演させていただいた際、コメンテーターを務める張本勲さんが「今年のメジャーはあっという間に終わった。日本の選手はバッターが全滅だから興味なかったけれど、来年は頑張ってもらいたい。筒香も秋山も日本に帰ってくればいいんだけれども。アメリカの野球に合わないのでは」という話をされていた。司会の関口宏さんから張本さんへの「喝」を振られたが、「彼らは挑戦したい気持ちで行ってますから、そこは応援してあげてほしい。今回も(張本さんに)喝を入れたいんですけれども、張さんの言っていることが、ちょっと当たっている部分があるので」とコメントせざるを得なかった。

 実際、張本さんの指摘は正しい部分がある。筒香嘉智選手(レイズ)は打率・198、日本で首位打者も獲得した秋山翔吾選手(レッズ)にしても・245。本来の実力が発揮できなかった。原因は本人に聞かないとわからないが、メジャーの動くボールに慣れることができないまま、コロナ禍で60試合という異例の短さだったリーグ戦が終了してしまったのではないかと推察する。

 エンゼルスの大谷翔平選手も今季は投手としては2試合に登板したのみで、バッティングも打率・190。残念ながら「投打」ともにどっちつかずの状態になってしまった。日本のメディアは大谷選手がホームランを打ったシーンだけを派手に報じるが、実情がつたわったとは言えない。もちろん、大谷、筒香、秋山の3選手には来季の活躍を応援している。大谷選手は誰もなしえなかった挑戦を続けており、筒香、秋山両選手も日本で確立したスタイルがある。2人にとって来季は真価が問われる。

 異例の今季のメジャーを振り返ると、「7イニング制ダブルヘッダー」という言葉が定着した。1日に2試合を実施するダブルヘッダーについては、米大リーグ(MLB)機構と選手会の合意で8月1日から通常の9イニング制から7イニング制に短縮して行うことになった。シーズン中の選手の健康と安全を優先した判断に一定の理解は示しつつも、やっぱりダブルヘッダーの7イニングは物足りない。違和感があるというのが正直な心境だ。   

 野球は「3」とその倍数で様々なことがルール化されている。3球で三振。3アウトでイニング交代。9人の打者は上位、中軸、下位と3人ずつで区切る。試合も9回。ここをいじると、公平さを失うこともある。たとえば、先発がパーフェクトで抑えると、4番以降の打者は2打席しか立てない。打者は3割で一流。1試合で3打席立ち、1本打つ。そのリズムが体に染みついているのに、3打席目を立てないとなると、個人成績がフェアとはいえなくなる。平等にするなら6イニング制にすべきだった。

投手にとっても、打者の3巡目は一番きつい。先発にとっては、打者が球筋に慣れてくる。中継ぎで継投するにしても、やはり7回以降に試合展開は動くから、ドラマもある。合理的に見える7イニング制のダブルヘッダーは、野球の本質を変えてしまっていないか。そこはしっかりと考える必要があった。

 プレーオフについても、メジャーの9月は本来ならタフな日程になる。ところが、今年は8月からスタート。9月も2カ月なら好調をずっと維持できる。レギュラーシーズンはあっという間に終わった。

通常シーズンの4月、5月が終わって、そこから6、7月と尻上がりにコンディションを上げていくのがメジャーの戦い方。9月は25人枠のアクティブロースターが最大40人まで拡大される。メジャー契約の40人枠に入っていれば、コールアップ(昇格)を経て試合に出場できるチャンスが生まれる。マイナーから呼ばれることを「セプテンバー(9月)コールアップ」という。味方にも敵にも勢いのある若手が出てくる。これもメジャーの醍醐味だ。

 162試合のシーズンは終わりが決まっていて、日本のように後ろに日程を入れることはない。9月の30日間に31試合を行うことになるチームもある。私の経験からも試合消化のためにダブルヘッダーをこなすことが数回あった。8月から9月にかけて20連戦、1日挟んで21連戦という日程を消化したこともある。当時はリリーフだったので、心身ともにアクセルは踏みっぱなしで、日程の半分以上は投げることを頭で考えていた。4、5月はあっても連投だが、8月になれば優勝争いも佳境に入ってくる。そのため3連投もある。それでも4連投をさせないのはメジャー流だ。そういう中で、自分が投げない日を心身のリラックスにあてて切り替えた。

 試合前の練習も工夫は必要だ。普段ならウオーミングアップをするが、連戦続きのときはキャッチボールだけして終わる。球場に入ってすぐに行って、10分くらいで切り上げる。球場の風呂でリラックスしたり、マッサージを受けたりすることもあった。その分、試合中にウオーミングアップをする。試合前の投げる準備のときにストレッチも兼ねる。究極を言えば、調整は本人任せ。マウンドで結果を残してくれればいいという放任主義で、自分で必要なものだけをこなす。どういう調整をするかは自分で持っていないといけない。

 日本でも10連戦以上の日程はある。ときには週末などにナイターを行った翌日にデーゲームが組まれることもある。そのとき、主力選手がデーゲーム前にバッティング練習をしないと、そのことがニュースになる。大事なことは試合に100%を持っていくこと。それが「練習で100、試合で80」では本末転倒だ。もちろん、メジャーのすべてが正しいなんてことはない。たとえば春季キャンプはもう少し時間をかけてやったほうがいい。メジャーは短すぎる。オフに自分で調整して、キャンプは実戦への微調整と位置付けられ、すぐにオープン戦へ突入する。

日米の比較などの議論もそれぞれが通常シーズンを戦うからこそ、盛り上がる。来シーズンはコロナ禍が収束し、再び「日常のベースボール・ライフ」が訪れることを期待したい。

元メジャーリーガー

1975年4月3日生まれ。大阪府出身。98年、ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。1年目に20勝4敗で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠、新人王と沢村賞も受賞。06年にはWBC日本代表に選ばれ初代王者に貢献。08年にボルチモア・オリオールズでメジャー挑戦。ボストン・レッドソックス時代の13年にはクローザーとしてワールドシリーズ制覇、リーグチャンピオンシップMVP。18年、10年ぶりに日本球界に復帰するも翌19年5月に現役引退。YouTube「上原浩治の雑談魂」https://www.youtube.com/channel/UCGynN2H7DcNjpN7Qng4dZmg

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