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普通か過激かどちら? 民主党2候補を比べる

津山恵子ジャーナリスト、フォトグラファー
バイデンと2人目の妻ジル 撮影:筆者

普通にすごくいい人か、過激だけどすごくいい人のどちらがいいか。

アメリカ大統領選・予備選挙で、民主党指名候補を絞り込む争いで、ジョー・バイデン前大統領候補(77)とバーニー・サンダース上院議員(78)が、激しい競り合いをしている。バイデン候補が、かなりリードしているが、一体二人はどういう人物なのか。

「アムトラック・ジョー」

というのが、バイデンの人柄を知ったきっかけである。アムトラックは、大都市間の特急を走らせている鉄道会社。バラク・オバマが初の黒人として大統領選に当選し、2009年1月、首都ワシントンでの就任式に向かうため、地元イリノイ州シカゴからワシントンまで南下する列車ツアーをし、バイデンも同乗していた。

その列車が、バイデンの地元デラウェア州ウィルミントンの駅に止まった際、運転手、駅員、車掌が集まり、感涙したと当時の新聞で読んだ。なぜか。

バイデンは上院議員に当選した直後の1972年クリスマスの前、当時の妻と1歳の娘を交通事故で亡くした。妻が運転するワゴンにトレーラーが衝突、乗っていた長男、次男のボーとハンターは重症ながら回復した。バイデンは議員就任後、他の議員のようにワシントンに居を構えず、生き残った息子らのためにデラウェア州からアムトラックで1時間半あまりの通勤を続けた。

オバマの就任式に向かう特別列車がウィルミントン駅に止まった時、従業員の一人が涙目でこうスピーチした。

「ジョーが、乗り遅れてホームで呆然としているのを何度も見た。これからは、副大統領であるあなたのために、電車が待っているよ」

予備選挙前から支持率のトップを走ってきたのは、オバマ大統領を優しく支え、涙もろく、ジョークがうまい人間的な人だという抜群の知名度だ。政策は穏健派だが、具体的なことは集会でもほとんど話さず、彼の主張はこうだ。

「トランプ政権になって、裏切られた人々の生活は苦しく、気候変動対策は後退し、世界の同盟国から嫌気され、差別と分断が拡大している危機に陥っている」

  

「危機の時こそ、内政、外交に通じた経験があり、国民から信頼を得られるリーダーが必要だ。それが自分である」

このロジックで、過去の実績を喧伝するというのが彼の選挙戦だ。

一方、サンダース上院議員は、人間的な優しいおじいさんに見えるが、実は「闘志」だ。

南部テキサス州オースティンのサンダース事務所を訪ねると、LLサイズの赤いTシャツが壁の目立つところに貼ってあった。1983年、サンダースがデモに参加し、逮捕された白黒写真がプリントされている。2人の警官に両脇を抱えられているのを振り切ろうとしているのか、体が前のめりになっている。

彼を支持する若者にはこのTシャツが人気で、集会に行くと着ている人をよく見かける。

彼の主な政策は、以下で、背景も併記する。

・メディケア・フォー・オール(国民皆保険)

アメリカの医療費は異様に高い。さらに医療保険を持たない国民が、2750万人、つまり人口の1割もいる(2018年、米国勢調査局)。このために、病気にかかっても病院に行かない人も相当いる。

・公立大学の授業無料化

大学の授業料は、日本に比べて高額。超難関校として有名なハーバード大の年間授業料は約5万ドル(550万円)。このため、学生の多くはローンを組んで、卒業時に平均で3万ドルの借金を背負っている。

・学生ローンの免除

学生ローンの利率は高く、10%以上。オバマ夫妻が、長く支払いをしていたのは有名だ。

サンダースは、これらの進歩的な政策を掲げて、自ら「社会民主主義者」と呼ぶ。

若い頃逮捕されたサンダースのイメージがあるTシャツは人気 撮影:筆者
若い頃逮捕されたサンダースのイメージがあるTシャツは人気 撮影:筆者
数十メートルできていたテキサス大学の投票所で、学生にピザを配る人 撮影:筆者
数十メートルできていたテキサス大学の投票所で、学生にピザを配る人 撮影:筆者

その「闘志」ぶりは、私が聞いた彼の集会演説でわかると思うので、少し長いが貼り付ける。

「今日はありがとう。ソーシャルメディアを使って、個人と個人をつなげ、アイオワだけでなく、全米でこの運動を広めよう。ドアというドアをノックしよう。それこそが、私たちが勝つ方法だ。アメリカ中の人々に語りかけよう」

「私たちは信じている。収入の平等、高等教育、授業料の無料化、学生ローンのキャンセル、これらは、特権階級のものではない。メディケア・フォー・オールを議会で通そう」

「ドナルド・トランプは、そして大企業は、リアルで実在する脅威だ。グリーン・ニューディールこそが、エネルギー業界を変える。地球を救うために、化石燃料から脱しよう。それを成し遂げるんだ」

「人種間の問題については、システムが破綻している。黒人、ラティーノには不公平だ。彼らへの戦争を止めるんだ。マリファナを保持しているというだけで、逮捕されるのを止めるんだ。私たちは、不正のない選挙を必要としている。移民である彼らが、投票できるシステムを築き上げるんだ」

「銃の安全ルールを築こう。それは、市民が書くルールで、全米ライフル協会が書くものではない。殺傷性のある銃は禁止だ」

「アメリカの女性が、政治家になれるようにしよう。2020年を重要な選挙だったと歴史に残る選挙にしよう」

「今の大統領は、法と秩序を軽視している。人種差別主義者で、性差別主義者で、同性愛者フォビアだ」

「私たちは、黒人、ラティーノ、アジア系、ゲイ、女性の地位を引き上げるんだ。月曜日の夜、アメリカ中が世界中が、それを見るだろう」

「私の謙虚なるお願いは、次のことだ。投票率が低ければ負ける。投票率が高ければ、私たちは、予備選挙の歴史を塗り替える。この極めて重要な時期を変化させよう」

バイデンは、集会でもあまり全身を動かさない。声を張りあげることはあるが、直立不動である。これに対し、サンダースは白髪を振り乱し、腕を振り回し、教師が生徒を叱りつけているような感じに聞こえる。

つまり、普通にすごくいい人のバイデンがいいか、過激だけどすごくいい人のサンダース、どちらがいいか。穏健派か進歩派か。民主党指名候補の争いは、この選択に尽きる。

(文中敬称略)

ジャーナリスト、フォトグラファー

ニューヨーク在住ジャーナリスト。「アエラ」「ビジネスインサイダー・ジャパン」などに、米社会、経済について幅広く執筆。近著は「現代アメリカ政治とメディア」(共著、東洋経済新報 https://amzn.to/2ZtmSe0)、「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社 amzn.to/1qpCAWj )、など。2014年より、海外に住んで長崎からの平和のメッセージを伝える長崎平和特派員。元共同通信社記者。

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