NY、コロナウイルスでパニック 911以来の混乱  

冷凍食品の棚 Photo by Jean-Marc Solak 

「これがパニック」と生まれて初めて思った。

冷凍食品、トイレットペーパーの棚は空。普段はマスクを嫌う白人でさえマスク着用。英語を話さないし、所得も高くないヒスパニック系が買いだめに殺到。ガラガラのタイムズ・スクエア。

トランプ米大統領が3月13日、「緊急事態宣言」を表明した時間に、ニューヨーク市で移民が多いクイーンズ区のスーパーマーケットに行った。

いつもは天井まで積まれて美しいピラミッドとなっている豆や野菜の缶詰コーナーは、ピラミッドが崩れ、空間が目立つ。

上の方にある缶詰を取るために、お年寄りがペットボトルを投げて缶詰を叩き落としている。レジまでの列はぐるぐると長く500メートル以上に及ぶ。それでも人々は買い続ける。

トイレットペーパー、パン、冷凍食品、缶詰、鶏肉、トマトソース、パスタ、インスタントラーメンなどの棚は、空か品薄である。いつもは整然と詰め込まれた棚に見慣れているため、信じられない。

ついでに銀行のATMに行くと、取引を終わった中年女性が「今このマシーンを全部ワイプで拭いたから、これを使いなさい!」と声をかけてくれた。ワオ。

クイーンズ区は、移民やミレニアルが多い中低所得者が住む地域だが、ニューヨーク市の中心部で、白人や高所得層が多いマンハッタンは、もっと異常な反応だ。

若者に人気のおしゃれスーパー「トレーダー・ジョーズ(トレジョ)」は、入店するまでに30分並ばなくてはならないと友人。

友人のサマンサは3月12日、トレジョに行き、トイレットペーパーがあるのを確認したが、13日には棚は空だった。13日はレジまで40分待ったという。

普段は天井まで山積みの缶詰が崩されたスーパーの一角 撮影:筆者
普段は天井まで山積みの缶詰が崩されたスーパーの一角 撮影:筆者
トレーダー・ジョーズの入店に並ぶ列 撮影:Samantha Quintal
トレーダー・ジョーズの入店に並ぶ列 撮影:Samantha Quintal
ニュージャージーのトレーダー・ジョーズで空になった棚 撮影:Yuna Komiyama
ニュージャージーのトレーダー・ジョーズで空になった棚 撮影:Yuna Komiyama

友人ジャン−マルクも、マンハッタンのスーパー数軒を回ったが、冷凍食品の棚がほぼ空という状態。

アメリカで初の感染者が発見されたのは1月21日。2月下旬から感染者が増え始め、その頃からハンドサニタイザー、マスクなどが売り切れになった。しかし、買い占めが食品やトイレットペーパーに広がったのは、筆者のまわりでは3月上旬からだ。

「ケイコ、食品を買っておいた方がいいよ。感染して2週間も自宅隔離になったら買いに行けなくなるよ。僕は娘がいるから毎日20ドルずつ冷凍野菜などを買い足しているんだ」

と、ジムのトレーナー、ナカムが言ってくれたのは3月6日。翌日に米や納豆を買いに行ったスーパーは、それでも通常と同じ品揃えだった。

「ケイコがペットボトルを買わないのは知っている。でもお願いだから今のうちに水を買って」

というのは、近所のお目付役ホセ。彼は郵便局勤務だが、かつては米陸軍のシェフだった。

「ホワット? お水は水道から出るから」という私。ホセは、

「水がなくなるというのを米軍は常に想定している。最悪の場合に備えるんだ」

私は、オイルショックのトイレットペーパー買い占めは覚えていない。ニューヨークにいたため、東日本大震災直後の日本の様子も体験していない。だから、これが初めて体験する「パニック」である。

といっても、日本に比べ、マスクをしている人は極めて少ない。3月8日にカーネギーホールのコンサートに行った際、マスクをしているのはオーケストラ席で4人だった。13日は、1時間近所を歩いて、見かけたのはたったひとりだ。

アメリカではマスクは「予防」ではなく、すでに病気にかかっていると思われるため、マスクをしている人は異常に嫌がられる。マスクをしたアジア人が、攻撃されるケースは後を絶たない。

ところが、カーネギーホールで白人4人もしていただけで驚きだった。嫌がられても予防のためにマスクをする人が出てきた表れだ。3月1日にJFケネディ空港でも、私以外にマスクをしている白人が二人いて、さらにガスマスクをした黒人さえいた。

ニューヨーク市は3月12日、トランプ氏に先駆けて緊急事態宣言を表明した。これにより、ブロードウェイやコンサート、美術館の営業が全て中止になった。公立校は、3月19日から休校だ。緊急事態宣言を発令しながら、19日まで休校をしないのは、75万人に上る貧困層、15万人のホームレスの児童らが、学校に行って食事や洗濯ができることを尊重したためとみられる。休校をしても給食だけは提供するという学校もある。

しかし、クィーンズ区の小学校に息子を通わせる友人によると、すでに授業崩壊状態だという。

感染を心配した父母が子供を休ませているらしく、13日はクラス28人中8人しか出席していなかったという。

市民生活への影響も深刻だ。友人のフリーランスのカメラマン、ディレクターは、仕事が次々にキャンセルで、3月の仕事はゼロ。ESPNでスポーツ試合のグラフィックスを手がける友人も、MLB、NBAなどの試合中止や延期で仕事ゼロ。ミュージシャンもイベントの中止で、仕事が激減という状況だ。

今や、新型コロナウイルス危機、イコール、経済問題である。

ところがである。

3月11日、ダウ平均が2008年のリーマン・ショック以来の「弱気相場」に突入。これを受けて珍しくテレビ演説したトランプ米大統領は、市場が期待していた財政発動を発表せず、「トランプショック」でさらに株価が暴落した。

リーダーが、有事の経済の仕組みを理解していないと、最大の被害を被るのは市民である。

ニューヨーク在住ジャーナリスト。「アエラ」「ビジネスインサイダー・ジャパン」などに、米社会、経済について幅広く執筆。近著は「現代アメリカ政治とメディア」(共著、東洋経済新報 https://amzn.to/2ZtmSe0)、「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社 amzn.to/1qpCAWj )、など。2014年より、海外に住んで長崎からの平和のメッセージを伝える長崎平和特派員。元共同通信社記者。

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ニューヨークに2003年から住むジャーナリスト。大統領選挙取材は2008年から今年は4回目。下町クィーンズで、豊かではないが夢いっぱいのミレニアル世代と暮らしながら、トランプのアメリカ社会、政治、テクノロジーをミクロから眺めていく。そこから、アメリカの夢、挫折、フラストレーションが浮かび上がる。

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