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議員の反逆、最高裁の機能停止  英EU離脱だけではなかった6月23日

津山恵子ジャーナリスト、フォトグラファー
異例の座り込みをした下院民主党議員。ペロシ議員(中央女性)とルイス議員(右)

2016年6月23日は、歴史に刻まれる日になりそうだ。英国が、EUに残留するか離脱するかの国民投票を行うということで、数日前からメディアが騒いでおり、投票結果の不透明感から朝からざわざわしていた。

この日朝、なぜか米国内も混沌としていた。

まず朝、目を覚ますと、米首都ワシントンの下院議場で、民主党議員らが、銃の規制強化関連の法案に対する投票を求めて、床に夜通し座り込んでいた。アルマーニのスーツを着こなすファッショニスタのナンシー・ペロシ前下院議長も、高そうなグレイのサマースーツで参加しているところを見ると、ゲリラ的に始まったようだ。彼女は、

「法案が成立するまで、座り込みを続ける」

と記者団に宣言した。

6月12日、南部フロリダ州オーランドで起きた銃乱射事件で、過去最悪の49人が犠牲となったのを受けた座り込み行動だ。22日午後までに、ハリー・リード上院院内総務など、上院議員の大御所らも加わり、参加者は100人を優に超えた。

議会は、7月4日の独立記念日まで1週間、休会する。民主党議員は、休会前に銃規制強化法案の可決を迫り、アフリカ系米国人の公民権運動の歌「ウィ・シャル・オーバーカム」の歌詞を変えて、「ウィ・シャル・パス・ザ・ビル!(法案を通すぞ)」と唱和した。

これに対し、ポール・ライアン下院議長が、議事運営のために使う小槌を打ち鳴らし、いつもの困ったような顔をさらに曇らせて抗議。しかし、民主党議員は、市民不服従、つまり逮捕されても不服従で抗議を示す手法で、ライアン議長を困らせ続けた。

公民権運動家として有名なジョン・ルイス議員(ジョージア州)は、

「時には、常軌を逸した行動をしなければならないこともある」

と強調。演説する彼のマイクの前には、抗議の電話をかけようと訴える、おそらくライアン議長の事務所の電話番号が張り出してあった。

「あまりにも多くの子供達や兄弟姉妹、両親、友人、いとこたちが銃のために命を落としている。今こそ行動すべき時だ。これ以上黙ってはいられない」

と、ルイス議員。与野党から尊敬される同議員が、市民不服従という公民権運動時代の手法を使って主導したことで、座り込みに弾みがついた。

ライアン議長は、審議の時間も取らないまま、全く関係のない法案の採決を行い、休会に持ち込んだ。この際、議場内で議事が進行している間だけ唯一、撮影・放送を許されているC-SPANが打ち切られた。しかし、民主党議員は、ソーシャルメディアを使って、座り込み中の演説などを外に発信し続けた。タイトル画像は、マーク・タカノ議員(カリフォルニア州)がフェイスブックにアップし続けたビデオだ。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOまでLike!している。

議場内の撮影を禁止する議会のルールに反した行為だが、公式に認められているC-SPANでさえ、規則を破り、映像を流し始めた。演説する議員の後ろには、住関連事件の犠牲者の写真パネルまで持ち込まれた。

この異例の事態に、オバマ大統領は「民主主義に即し、ルールに反しないように」といったコメントを発信するのではないかと思っていた。しかし、彼はツイッターで、

「ルイス議員に感謝する」

と座り込みを支持する考えを示した。CNNによると、ビル・クリントン大統領までが、ルイス議員の投稿にリンクを張った。

座り込みの行方を見守っていると、次のニュースがテレビの画面に映り始めた。米連邦最高裁は、オバマ大統領が大統領権限に基づき実施しようとした移民制度改革(DAPA)を認めない判断を示した。改革は、子供に米国籍、あるいは合法的な滞在資格がある場合、不法移民の強制送還を免除するものだ。

最高裁は、オバマ氏が指名した判事を共和党が多数派の上院が承認しなかったため、判事は一人欠員の8人という状態。この日、オバマ氏のDAPAについて、賛成4、反対4と意見が割れた。このため、DAPAを無効とした下級審の判断が維持され、オバマ氏の移民改革は頓挫した。

保守派の判事の死亡で、オバマ氏の指名によってリベラル派の判事にすげ変わるのを阻んだ共和党上院議員にしてみれば、してやったりという結果だ。

オバマ大統領は記者会見で、上院を糾弾した。

「上院は、私が最高裁判事に指名したメリック・ガーランド氏を承認しなかった。これは、共和党の怠慢が招いた結果だ」

首都ワシントンの連邦議会で、議員の反乱が起きた。しかも、ルールが破られる形で、市民不服従が実行された。同時に、違憲、合憲といった見解を判事の多数意見で示してきた連邦最高裁も、機能していないことを露呈した。これは、オバマ政権だけでなく、ワシントンの政治を長く知っている人たちに大きなショックを与えたに違いない。

そして、夜中ちかく、英国民が、EUからの離脱を支持する派が勝利をおさめた速報が入った。

筆者は、ニューヨークの近所の若者が集まるバーにいたが、皆が目を丸くした。

「本当に?」

「イタリア人の友人がロンドンでやっと職にありついたばかりなのに、彼はどうなるんだろう?」

翌24日は、世界同時の株暴落で始まった。

複数の「衝撃波」が、大西洋を挟んだ二つの大陸に襲いかかった6月23日。

「あそこで何かが変わってしまった。政治の世界は、成長と進化を遂げていたはずなのに、逆戻りしてしまった」

と皆が将来思い出す日になる予感がする。

ジャーナリスト、フォトグラファー

ニューヨーク在住ジャーナリスト。「アエラ」「ビジネスインサイダー・ジャパン」などに、米社会、経済について幅広く執筆。近著は「現代アメリカ政治とメディア」(共著、東洋経済新報 https://amzn.to/2ZtmSe0)、「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社 amzn.to/1qpCAWj )、など。2014年より、海外に住んで長崎からの平和のメッセージを伝える長崎平和特派員。元共同通信社記者。

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