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行政の災害広報、ネットはおまけでいいのか?

鶴野充茂コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

 北朝鮮のミサイル発射に伴う全国瞬時警報システム(Jアラート)が作動し、直後に日本列島を直撃している台風18号によって各地で避難勧告や避難指示が出される中、各都道府県で災害広報の体制に大きな差が生まれている。

Jアラート第一報をツイートしたのは茨城県のみ

 9月15日朝7時の北朝鮮のミサイル発射を受けたJアラート対象地域となったのは12の道と県。うち最も早く対応が見られたのが7時1分にツイッターで発信した茨城県だった。

 そして、ミサイル発射のJアラート第一報を直後に公式ツイッターで発信したのは茨城県のみだ。

 その後、ミサイル通過のJアラート第二報を7時15分に岩手県、7時33分に秋田県がツイートした。山形県は首相官邸のツイートをRTしたのみ。新潟県は8時過ぎに朝鮮半島情勢等に関する情報連絡室会議開催を伝えるツイートをした。群馬県は12時過ぎに「今後もミサイルが発射され、本県に影響する可能性がある場合は、関連情報に十分注意いただくとともに、落ち着いて行動してください」とツイート。長野県は17時になって「何も起きないことが一番ですが、何かあった際には、自分の身は自分で守る必要があります」とツイートした。

 北海道、青森県、福島県、栃木県は関連情報についてのツイート自体がなかった。そして前回8月29日の北朝鮮ミサイル発射に伴うJアラートの際にもツイートはなかった。

※都道府県のアカウントは紛らわしいものが多いため、現在標準となっている認証済アカウントを公式アカウントとしてウォッチ対象とした。

台風18号、避難指示が出た宮崎県は午前中ツイート1つ

 この週末、日本各地に影響を与えている台風18号への対応でも同様に差が見られる。

 17日、宮崎県宮崎市や延岡市、大分県佐伯、津久見、臼杵3市などで避難指示が出た。また、宮崎県・大分県・鹿児島県・熊本県・福岡県などで複数の地域に避難勧告が出ている。

 17日18時までの各県ツイッターを見てみると、台風関連の情報は福岡県が突出しており、ツイート数が39。それに対して、大分8、鹿児島7、熊本4、宮崎2だった。

 避難指示の対象エリアを抱える宮崎県は17日朝早くに宮崎市内で避難指示が出たものの、午前中、関連情報がツイッターで流れたのは正午前になってようやく出た一本のみ。そこに書かれていたのは、「ラジオ、テレビなどで最新の台風情報をご確認ください。17日10時現在の被害状況等について、県ホームページでお知らせしています」というものだった。

 17日の日中に避難指示の出た宮崎市、津久見市、臼杵市は、そもそも広報や防災関連のツイッターのアカウントがない。

スマホに飛び込んで来れば十分だろう問題

 Jアラートにしても、エリアメールにしても、対象地域にいる人のスマホに自動的に届く仕組みになっている。だからツイッターに出すまでもない、と考える人もいる。しかし、これは危うい考え方だ。

 ミサイルが飛んでくる。数十年に一度の雨量が予想される。ただちに命を守る行動を、と呼びかけられる。そんな「滅多にない」「今までに経験のない」メッセージに触れた時、多くの人はほかの手段も組み合わせて詳しい情報を得ようとする。たとえ同じ内容であっても確認を取りたいものだ。

 災害情報を追う時、今、最も早いのはツイッターだ。時系列で見られて、キーワードによるリアルタイム検索ができる。個別にアクセスしなくてもウォッチしている情報が自動的に流れてくる。こうした特性で、災害時の重要な情報インフラになって久しい。

 ツイッタージャパンの調べによると、2011年の東日本大震災と2016年の熊本地震、発災から1週間の関連ツイート数は、東日本大震災が約115万件に対して熊本地震は約2610万件だった。約23倍に増加したということだ。

 通信インフラが津波でやられた2011年の東北と、発災直後もスマホが使えた2016年の熊本では利用のされ方も異なるが、少なくとも状況を把握したいと思う時に、多くの人がツイッターという「場」に出てきているのは間違いない。

 そんな「場」において、情報発信の早さや頻度、そして内容に都道府県で大きな差があるのは問題だ。どこに居住するかによって得られる情報に差があるということは、ひいては命を守る情報にさえ差が生まれることにもなりかねないからだ。

防災計画に書かれているネット対策は「おまけ程度」

 なぜこのような差が生まれているのかというと、災害広報に具体的な基準がないからだ。

 都道府県ごとに地域防災計画が定められている。ここにいざという時の活動がまとめられているのだが、テーマによって詳しさに大きな差がある。

 たとえば宮崎県の地域防災計画を見ると、避難所や自主防災組織でどんな資材や備蓄が必要かなどが細目まで書かれている。緊急時のヘリコプターが離発着できる場所の条件も具体的に図示されている。飛んできたヘリと体の動きで交信できるように身振り信号の図解まである。さまざまな場面で必要となる手続きの書類のフォーマットもまとめられている。

 現場で使える表現や材料がはっきりと書かれているのだ。

 その一方で、災害広報については、NHKと地元放送局、ラジオ局と連携することと書かれている程度である。さらにネット対策については、「インターネットを活用する」「県ホームページを活用して、被災者・県民に不可欠な生活情報の提供を行う」としか書かれていない。

 どんな内容をどのようにネットで発信するのかが、書かれていない。どう見ても、おまけだ。

 避難指示が出たり、エリアメールが飛んだりすると、その「ホームページ」はアクセス集中で見られにくくなる。どのタイミング、どんな条件で特別災害モード(災害時用に情報を厳選した簡易版で、これもまだ準備されていない自治体があるようだ)に切り替えるかもはっきりさせていない。

 そして、実はこの部分の記述は他の都道府県や市町村でもそれほど大きな差がない。言い換えればどう運用をするかは現場任せになっており、平時にネット活用が遅れているところは災害時も後まわしになっている。実質的に災害広報と言えば、マスコミへの取材協力が大部分を占めているところも少なくないということだ。

広域災害でネット対策の遅れは命取りとなる

 昔はそれでもよかったのかもしれない。しかしネットが発達した今、災害時の情報発信をマスコミだけに頼ることには弊害が出てきている。災害時のマスコミは、「すでに被害が出ているところ」を追い、「最も被害が大きな地域」を中心に報じるからだ。

 2015年9月に鬼怒川が氾濫した際、多くのテレビ局が、自宅の屋根などで救助を求める人たちの様子を長時間にわたって放送した。それを見た視聴者から県庁や自治体に「あの人たちをなぜ早く助けないのか」という怒りの電話が殺到し、その他の業務が完全に止まっていたという。

 また広域災害の場合には、報道が分散され、地域によってはしっかりとした情報を伝えることができないことがある。

 その結果、災害ニュースで世間の注目を集め続けられる所には復旧復興期のボランティアが集まりやすく、ニュースが少ない被災地には人が集まりにくいというようなことが起きる。被災地間の注目戦争(Attention Wars)とも呼ばれる問題だ。

 ネット上の噂へのケアという点でもリスクがある。

 ソーシャルメディアで、どこどこの避難所でパンやおにぎりが不足しているという情報が流れて、消費しきれないほどの食料が届き続けたり、デマが広がることも大きな災害の際に繰り返し起きている。しっかりとした公式情報が、多くの人が情報共有しているネット上で直接発信されていればこうした問題は深刻化しにくい。風評被害対策としても、継続的な粘り強い情報発信が不可欠だ。

遠くで心配する人が助ける力になるかもしれない

 現在の防災計画には、地域外からネットで情報を集める人の視点が完全に欠けている。

 たとえばそれは、離れた場所に暮らす家族がいる場所や、旅行や出張で訪れている場所、親戚や友人知人が暮らす場所で起きている災害のことを、別の場所にいて知った人たちだ。

 2014年に起きた広島の土砂災害の際、私自身の家族が、あの日あの時、現場近くにいた。

 広島ではあの時、断続的な停電があった。ケーブルテレビしか見られない場所で、テレビのニュースが見られない。防災無線は豪雨で聞こえない。外に出てみると歩けないほどの水が流れている。おまけに深夜で視界がない。避難所に行くこと自体が困難な状況だった。

 スマホで情報を調べようにも、こういう時はバッテリーの消耗が激しい。そういう状況の中、私は東京から現地の情報をネットで調べ、メッセージを送り続けた。

 遠くにいて、物理的には直接手助けできないかもしれないが、情報は届けることができるかもしれない。

 タイミングが良ければ、早めの避難を直接促せるかもしれない。

 本人だけの力で避難が難しければ、近くの人にお願いすることができるかもしれない。様子を見に行ってもらうことだけでも頼めるかもしれない。

 こういう状況では、都道府県や市町村のツイッターが、その重要な情報収集の入口になり得るのだ。

どんな情報が必要とされているか

 ネットでどんな情報が求められ、また、適しているのか。最も情報需要が高い発災前後に都道府県や市町村から発信されて役立ち、これまでカバーされることの少なかったものは次のような情報だろう。

 ・河川事務所のライブカメラ

   :氾濫しそうな川の様子を見に行く人が後を絶たない

 ・ハザードマップ

 ・充電ステーション(スマホなどが充電できる場)の場所

 ・ガソリンスタンドの情報

 ・病院の受け入れ状況

 ・通行止めなどの交通情報

 ・警察や消防からのお知らせ

 ・他の課や他の自治体が発信する重要情報のRT

 ・情報収集に役立つスマホアプリ

 つまり、どれも地元の情報であり、一か所で得られるようになると検索の手間も省けてものすごく助かるものだ。ただ、最初のステップとしては、PDFになってホームページに貼り付けられているだけの情報を地名などの検索ワードで分割してツイートしてもらえるだけでも探している情報にたどり着きやすくなる。

 現在の状況を見ると、都道府県や市町村のツイッターは、自分たちが直接発信元となる情報だけを扱っているものから、県内の市町村発の情報や警察・消防発の情報も扱っているものまで非常に差が大きい。

 広報課のアカウントの他に防災担当課のアカウントがあるものの、連携が取れておらずいざという時しか稼働しないためフォロワーも少ないケースも見られる。ツイッターのアカウントは開設されていても、まったく稼働していないものや、ホームページの更新情報のみを自動ツイートしているだけのものもある。

防災訓練にツイッターを取り入れる自治体は少数

 大規模な災害では、発災直後の公助が必ずしも期待できない。そんな時に自助や共助を生み出す速やかな情報発信として、ツイッター、そして広くネットの積極活用を取り入れてもらいたいと強く願う。

 9月に入って全国各地で大小さまざまな防災訓練が行なわれているが、ニュースで追う限り、この夏以降にツイッターを取り入れた防災訓練を実施しているのは沖縄県那覇市山梨県韮崎市大分県東京都東村山市など数えるほどしかない。

 訓練をしなければ、Jアラートの時のように、文字化けしたり届かなかったりで、予定通り情報の発信と収集ができるかどうかも分からない。

 訓練をすれば、有効な発信活動にルールや表現上の工夫が必要なことが見えてくる。たとえば、熊本地震では留学生の多くがテレビニュースを見ても日本語を正しく理解しているか確信が持てず、英語ニュースを見ても最新情報が得られないため、ネット上の情報をもとに行動していたものの、日本語の表現が分かりにくいという声があった

 平時からアクティブなアカウントでなければ、ユーザーの反応が薄いことも分かる。

 また、多くの防災訓練は日中に実施されているが、災害の多くは深夜にも起きている。避難指示が遅れるのは特に深夜の場合だ。人も揃わない、情報も限られる中で、どう動くか。とりわけ付近一帯が停電なら、スマホへの依存度が大きくなることが明らかだ。

 具体的な発信や表現の方法など、訓練や第三者による監査などを組み合わせて、最適な活用方法を模索していきたい。

 情報ツールは利用状況が変われば、その扱いも変わる。求められる役割も変わる。

 Jアラート発信後、最も早くツイッターで発信した茨城県は、8月のJアラート時には対応ができなかった。それを「これではいけない」とシステム連携を図った結果、自動で発信できるようになった。

 ツイッターアカウントは3名体制で運用していると言う。平時でも1時間に1ツイートを心がけていて、広報広聴課で情報発信を担当しているのは約20名。うち11名が公式SNSで発信する能力(権限)を持っているそうだ。

 それぞれすぐに対応できる形は違うかもしれないが、少なくとも、継続的にバージョンアップさせ、得られる情報に差が生まれないようにしていきたい。台風が直撃しているタイミングだからこそ、どんな形がいいのか、自分たちの関係する自治体の動きを見ながら考えたいテーマである。

コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授

シリーズ60万部超のベストセラー「頭のいい説明すぐできるコツ」(三笠書房)などの著者。ビーンスター株式会社 代表取締役。社会構想大学院大学 客員教授。日本広報学会 常任理事。中小企業から国会まで幅広い組織を顧客に持ち、トップや経営者のコミュニケーションアドバイザー/トレーナーとして活動する他、全国規模のPRキャンペーンなどを手掛ける。月刊「広報会議」で「ウェブリスク24時」などを連載。筑波大学(心理学)、米コロンビア大学院(国際広報)卒業。公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会元理事。防災士。

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