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「デイトナ500」が5年ぶりの生中継!アメリカ伝統のハイスピードレースの楽しみ方

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
NASCAR(写真:REX/アフロ)

アメリカの人気自動車レース「NASCAR(ナスカー)カップシリーズ」の開幕戦「デイトナ500」が2019年以来5年ぶりに日本で生中継されることになった。放送するメディアはインディカーシリーズの中継でお馴染みのCSチャンネル「GAORA SPORTS」。同局で「デイトナ500」が放送されるのは21年ぶりのことだという。

今回はそのテレビ中継で実況を担当することになった筆者がNASCAR伝統の1戦「デイトナ500」の見どころを紹介していこう。

最も大事な開幕戦「デイトナ500」

かつては鈴鹿ともてぎでもレースが開催されたNASCAR。2019年で日テレG+(ジータス)での放送が終了し、日本ではすっかり縁遠い存在になってしまっていた。ところが昨年、元F1ドライバーの小林可夢偉が1戦だけのスポット参戦という形でNASCARへの出場が決まったため、「GAORA SPORTS」は第24戦インディアナポリス(ロードコース)のレースを生中継。今回の2024年シーズン開幕戦「デイトナ500」はそれに続く放送となる。

残念ながら今回の「デイトナ500」には小林可夢偉やジェンソン・バトンら元F1ドライバーやゲストドライバーは出場しない。42人中41人が米国出身の選手であり、そのほとんどが米国のオーバルレースでキャリアを積み重ねてきたドライバーだ。それには理由がある。

デイトナ500(2021年)
デイトナ500(2021年)写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

「デイトナ500」は平均時速が300km/hにもなる超ハイスピードレースであり、縦2列の集団走行でレースが進んでいく。超接近戦であるがゆえ、集団走行の和を乱すドライバーがいると即、多重クラッシュに繋がってしまう。そのため最高峰カップシリーズの「デイトナ500」に出場するには下位カテゴリーでデイトナのスーパースピードウェイでのレースを経験しておく必要があるのだ。日本やヨーロッパのモータースポーツとは文化的にも大きく異なるレースと言えるだろう。

しかしながら、「デイトナ500」はアメリカで絶大な人気を誇っている。アメリカンフットボールの「スーパーボウル」と並ぶ、冬の国民的スポーツイベントとして認識されており、テレビ中継はもちろん新聞などあらゆるメディアが大きく報道するのが常。だからこそ、出場するドライバーたちはシリーズチャンピオン以上に“The Great American Race”と称される「デイトナ500」で勝つことに価値を感じている。F1のモナコGP、FIA WECのル・マン24時間、そしてインディカーのインディ500に近い意味合いがある。そんな最も重要なレースが全36戦ある中の開幕戦に設定されているわけだ。

■40台が出走!ポールからの勝利の可能性は?

今年の「デイトナ500」には42台が参戦する。しかし、決勝レースに進出できるのは40台だけ。そのうち36台はChartered Team(年間レギュラーチーム)として「デイトナ500」の出走枠を持っており、残り6台のNon- Chartered Teamのうち2台が予選落ちをする形だ。

デイトナ500
デイトナ500写真:ロイター/アフロ

決勝レースは500マイル(約800km)。1周2.5マイルのデイトナ・インターナショナル・スピードウェイを200周して優勝を争うレースだが、NASCAR独特のルールとして「オーバータイム」という延長戦がある。これはレース終盤に誰かがクラッシュして、「コーション」(=レース中立状態のスロー走行)となってしまった場合、そのままスロー走行でフィニッシュとなるのを防ぐため、残り2周の延長レース(グリーン・ホワイト・チェッカー)を実施するルールだ。

残り2周を集団走行でリスタートするため、接触が起こりやすく、またコーションが出されれば、コース整備が完了後にさらに延長される。昨年は史上最多の周回数となる212周のレースとなり、実際には530マイルのレースになってしまった。この延長戦が発生すると燃料が足りないドライバーは給油を強いられるため、勝利のチャンスがフイになってしまうことも。

誰もが勝ちたいレースであるがゆえ、最後はまさに肉弾戦。レースの多くの周回数をリードしながら勝てないドライバーもいれば、運が巡ってきて予想外の勝利を掴むドライバーもいる。昨年は31番手スタートだったリッキー・ステンハウスJr.(JTGドアティ/シボレー)が12回目の挑戦で初優勝を飾った。

「デイトナ500」の歴史を振り返ると、過去65回の大会のうちポールポジションのドライバーが優勝した例は僅か9回。なんと2000年の大会以来23大会連続でポールポジションのドライバーが勝てないレースが続いている、という悪すぎるジンクスとなっている。

しかし、逆に言うと、誰にもチャンスがあり「アメリカンドリーム」を掴むことができるかもしれないレースである。チャンピオンを経験しながら「デイトナ500」未勝利だったドライバーが悲願の優勝となった時には一つのドラマになる。それも含めて楽しむのが”The Great American Race”なのだ。

■注目ドライバーとトヨタのプレビュー

先述したように「デイトナ500」には昨年8月のインディアナポリスのレースのようにゲストドライバー的な選手がおらず、日本人ドライバーはもちろん、日本で有名なドライバーがあまりいない。40台ものマシンが出場するレースを楽しむには、軸となる「推し」のドライバーを決めて観るのが良いだろう。

カイル・ラーソン
カイル・ラーソン写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

そんな中で筆者の一押しは、カイル・ラーソン(ヘンドリックモータースポーツ/シボレー)だ。2021年のNASCARカップシリーズのチャンピオンであるラーソンは日系アメリカ人4世のドライバーで、本名はカイル・ミヤタ・ラーソン。NASCAR随一の規模を誇る超トップチーム「ヘンドリックモータースポーツ」のエースとして昨年はランキング2位を獲得した。

今年、ラーソンは5月に開催されるインディカーシリーズ最大のイベント「インディ500」にアロー・マクラーレンからの出場を予定している。同じ週末にNASCARの「コカ・コーラ600」がノースカロライナ州シャーロットで開催されるが、彼はインディ500が終わってすぐに空路で移動し、夜のNASCARに出走するというダブル出場を予定している。

「ダブルデューティ」と呼ばれる離れ業はアメリカだからこそできるものだが、日本でいえば午前中に鈴鹿のスーパーフォーミュラに出て、夕方に九州オートポリスのSUPER GTに出るような感覚だ。過去にはトニー・スチュワートがインディ500を6位でフィニッシュした後、コカ・コーラ600で3位になるという好成績を残した例もある。

そんな「ダブルデューティ」が実現できるのはラーソンがスター選手である何よりの証だが、ラーソンにはまだ「デイトナ500優勝」という称号はない。昨年も優勝目前でクラッシュに見舞われた。彼が所属するヘンドリック・モータースポーツも2014年以来デイトナ500の優勝がないだけに、ラーソンが優勝できるかは今大会の要注目ポイントだ。

そして、NASCARにはシボレー、フォードのアメリカンブランドだけでなく、日本のトヨタが参戦している。昨年までは元NBAのマイケル・ジョーダンが共同オーナーの「23 XI Racing」と名門「ジョー・ギブス・レーシング」の合計6台という少数派だったが、今季から「レガシー・モーター・クラブ」の2台がシボレーからスイッチし、「デイトナ500」では同チームのオーナーでもある7度のNASCARカップシリーズ王者、ジミー・ジョンソンも出場することになっている。

新しいエアロパーツを投入したトヨタ・カムリ
新しいエアロパーツを投入したトヨタ・カムリ写真:REX/アフロ

トヨタは昨シーズン10勝を飾ってマニュファクチャラーズ選手権では2位。今季はベース車両の車種はカムリで変わらないものの、最新型XV80をベースにしたエアロパーツを装着することになっており、2020年以来4年ぶりの「デイトナ500」優勝に期待したい。

NASCARカップシリーズ開幕戦「デイトナ500」は2024年2月18日(日本時間では2月19日早朝)にレースが開催される。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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