Yahoo!ニュース

佐藤琢磨、インディ500で3回目の優勝なるか!?予選後の練習では4番手タイムを記録

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
佐藤琢磨(左)(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

北米最大の自動車レース「インディ500」(インディアナポリス500マイルレース)の決勝レースが5月29日(日)に迫ってきた。今年で13回目の参戦となる日本人ドライバー、佐藤琢磨(45歳)が今年は驚くほど好調な仕上がりを見せている。

世界三大自動車レースのひとつ、インディ500
世界三大自動車レースのひとつ、インディ500写真:ロイター/アフロ

チーム移籍も練習からトップグループに

2017年に日本人で初めて「世界三大自動車レース」のインディ500で優勝し、コロナ禍の無観客レースとして行われた2020年にも優勝した佐藤琢磨。すでに45歳というアラフィフの年齢に達しながらも長い歴史の中で僅か10人しかいない3回以上のインディ500優勝を目指している。

2020年にインディ500で2度目の優勝を達成した佐藤琢磨
2020年にインディ500で2度目の優勝を達成した佐藤琢磨写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

インディ500挑戦を続けるために、佐藤琢磨は今季から「デイル・コイン・ウィズ・リックウェアレーシング」(ホンダ)に移籍。老舗ながらもインディ500優勝経験はないチームだけに実力は未知数だった。

ところが、5月17日から始まったプラクティスでは連日のトップタイムを記録。同チームは佐藤琢磨と新人のデイビッド・マルカスという2台の小規模体制でありながら、3台から5台の大規模体制で豊富な走行データを共有するトップチームを凌駕するスピードを見せた。

新チームに移籍した佐藤琢磨
新チームに移籍した佐藤琢磨写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

「インディ500」に勝つためには通常のレースより遥かに長い時間を使って行われるプラクティスで、ドライバーとエンジニアが協力してマシンセッティングを仕上げていくエンジニアリング力が非常に重要だ。約2週間に渡るプラクティス、予選の準備期間には地味ながらもチーム間の激しい競争が展開され、勢力図が突然劇的に変化することはそうそうない。つまりプラクティスで速いマシンを手にしているドライバーは、決勝まで好調をキープする可能性が非常に高いのだ。

しかし、5月21日、22日に行われた予選では佐藤琢磨のマシンは突然、苦境に陥る。好調なプラクティスのスピードを失い、壁に接触しながら予選アタックを行い、最終的には何とか10番手のグリッドを獲得した。

「予選前の最終プラクティスにあたるファスト・フライデイで、僕たちのマシーンはとてもいい仕上がりを示しました。そこで大きな期待を抱きましたが、土曜日はコンディションに関する計算を誤ったため、やや難しい状況となりました」と佐藤琢磨は予選を振り返る。日本人初のインディ500ポールポジションは逃したが、その可能性があるマシンを手にしていたことは確かだ。

予選後のプラクティスで復調!

今季、2020年のインディ500を制し、チームからの信頼も強固だった古巣「レイホール・レターマン・ラニガンレーシング」(ホンダ)を離れた佐藤。チームからの離脱が先に発表されたことで、シーズンオフはその去就に注目が集まっていた。

すでに45歳を迎えている佐藤琢磨
すでに45歳を迎えている佐藤琢磨写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

45歳は過去のドライバー達のキャリアを見ても、そろそろフルシーズンの参戦ではなく、「インディ500」だけにスポット参戦するようになってもおかしくない年齢だ。昨年、インディ500を46歳で優勝したエリオ・カストロネベスもスポット参戦だった。しかし、佐藤琢磨は今季もフル参戦できるチームへの移籍を模索したのである。

先述の通り、今季の「デイル・コイン・ウィズ・リックウェアレーシング」はインディ500での優勝経験がないチームであり、どちらかというと市街地コースでピンポイントに強いチーム。昨年もインディ500の予選ではグリッド中段あたりにはつける速さを持っていたが、すでに2回もインディ500を制したドライバーが移籍するには苦肉の策とも言える選択肢だったであろう。

しかし、それでもマシンを仕上げてトップグループに導くことができているのは佐藤琢磨の経験とセットアップ能力の高さに他ならない。アメリカに渡った直後は元F1ドライバーという肩書きが霞むくらいに苦戦していた佐藤琢磨。そこから地道にアメリカでインディカーチームのクルー達の信頼を獲得し、実際に勝つことでその経験値を積み上げてきた賜物だと言えるだろう。佐藤琢磨の腕は全くもって衰えていないのだ。

(壁に擦りながら果敢に攻め続けた走りをインタビューコメントと共に紹介するインディカーシリーズのツイッター/「僕には2つのチョイスがあった。全開で行くかそうじゃないか。これは予選だ。だから僕は全開で行くことを決めたんだ」佐藤琢磨)

予選では思うようなスピードを得られなかったが、予選後のプラクティスでは再びスピードを取り戻して4番手タイムを記録。全体の勢力図の中で佐藤琢磨はトップグループにいるのは間違い無いと言える。

「トップ5の中に入り、唯一ライバルのチップガナッシ勢に食い込めました。彼らは決勝でも速いでしょうし、彼らとレースをする事を考えると、レースの速い段階で良いポジションにいるのが重要になりそうですね」とプラクティス後に佐藤はコメント。

決勝前の残るチャンスは5月27日(金)の2時間のプラクティスのみ。ここで決勝に向けてマシンを仕上げ、あとは決勝で10番手から追い上げるだけだ。

佐藤琢磨
佐藤琢磨写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

ここ数年のチーム体制に比べると厳しい状況にあると思われていた今季の佐藤琢磨。しかし、ここまでの流れは過去1番の仕上がりだ。

3度目の優勝を達成する可能性は非常に高い。今週末はSUPER GT、F1モナコGPなどモータースポーツファン注目のレースが目白押しだが、日曜深夜から月曜朝にかけて行われる「インディ500」は見逃せないレースになるだろう。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

辻野ヒロシの最近の記事