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【F1】リカルドの移籍は大正解?復活のマクラーレン・メルセデスは期待大!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
マクラーレンに乗るダニエル・リカルド(写真:ロイター/アフロ)

2021年のF1がいよいよ「バーレーンGP」で開幕するが、今季が例年以上に興味深いシーズンになっているのは、角田裕毅(つのだ・ゆうき)が参戦するからだけではない。

今季は久しぶりにドライバーの移籍が相次ぎ、角田を含む3人のルーキードライバーがデビュー。実に10チーム中7チームがドライバーラインナップの変更を行った。大シャッフルによって今季は勢力図がかなり変わってきそうな雲行きで、移籍した組のキーマンになりそうなのがダニエル・リカルド(マクラーレン)だ。

今季からマクラーレンに移籍

王者ルイス・ハミルトン(メルセデス)の独走が続いている近年のF1。そこにマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、シャルル・ルクレール(フェラーリ)らの逸材が登場したことで、やや影に隠れ気味な感は否めないものの、誰もが目が離せないのがダニエル・リカルド(マクラーレン)の存在である。

2011年途中にHRTからF1デビューを果たし、2012年はレッドブル傘下のトロロッソ(現アルファタウリ)に移籍。実力が認められ、2014年に本家「レッドブル」に移籍するといきなりシーズン3勝を飾ったのだ。

ダニエル・リカルド/2020年
ダニエル・リカルド/2020年写真:ロイター/アフロ

14年は先進的なハイブリッドシステムを搭載したパワーユニット規定の元年。「メルセデス」の快進撃が始まった年だ。当時のリカルドのチームメイトはセバスチャン・ベッテル(現アストンマーティン)だったが、この年のベッテルは未勝利に終わる。そこに鳴り物入りでジュニアチームから昇格してきたリカルドが3回も優勝したのである。

「レッドブル」のエースとなったリカルドはメルセデス最強時代の中で通算7勝をマーク。南半球オーストラリア出身のドライバーとしてはアラン・ジョーンズ(12勝/1980年世界王者)、マーク・ウェバー(9勝)に次いで歴代3位の勝利数を誇る。

そんなリカルドには常に「フェラーリ」移籍の噂が絶えなかった。しかし、良いタイミングは訪れず、2019年には「ルノー」(現アルピーヌ)に移籍。2020年、実際にフェラーリと交渉を持ったことを彼は認めているが、コロナ禍でロックダウン中の5月に「マクラーレン」への移籍を発表した。

2019年〜20年はルノー(現アルピーヌ)で走ったリカルド
2019年〜20年はルノー(現アルピーヌ)で走ったリカルド写真:代表撮影/ロイター/アフロ

今季からメルセデスのPUに変更

新型コロナウィルスの感染拡大で7月にF1は開幕したが、蓋を開けてみるとビックリ。移籍が噂され交渉をしていたフェラーリは大不振。一方で、近年成績が低迷気味だったマクラーレンがシーズン序盤からトップ5フィニッシュを連発するようになった。

「マクラーレン」は黄金期を築き上げたホンダと2015年に再びタッグを組んだものの、チーム体制の変化によるゴタゴタ、ホンダの経験不足により低迷。10チーム中ランキング9位という耐えられない屈辱、ドン底を味わうことになった。

大失敗に終わったマクラーレンとホンダのパートナーシップ
大失敗に終わったマクラーレンとホンダのパートナーシップ写真:ロイター/アフロ

2018年からはルノーのパワーユニットを搭載。2019年にはルノーワークスチームを上回り、コンストラクターズランキング4位を獲得。さらに2020年は激しい年間3位争いを展開。2012年以来となる実に8年ぶりのコンストラクターズランキング3位に返り咲いた(12年当時はジェンソン・バトンとルイス・ハミルトンが所属)。

ホンダと決別して以降、着実に復活の階段を登ってきた英国の名門チーム「マクラーレン」はさらなる上昇気流に乗ることになる。

今季からメルセデスのパワーユニットを搭載。90年代、2000年代にシルバーメタリックのカラーリングで一世を風靡した「マクラーレン・メルセデス」のコンビが帰ってきたのだ。往年の時代にあったワークスチーム待遇としての関係ではないものの、メルセデスのパワーユニットは当然のことながら最強の武器である。

マクラーレン・メルセデス
マクラーレン・メルセデス写真:Action Images/アフロ

とはいえ、今季のパワーユニット変更は少々デメリットもある。コロナ禍でチームの収入が減少していることも考慮し、新車両規定の導入が2022年に延期された。今季は昨年型のマシンをトークン制度(2つまで)を利用してモディファイできる。ライバルチームはフロント部分やギアボックスの変更など、マシンのウィークポイントを改善するためにトークンを使ってきた。

一方で今季ルノーからメルセデスにパワーユニットを変更したマクラーレンはそれに合わせて2トークンを使わねばならず、今季のマシン「マクラーレンMCL35 M」は車体後方が大きく変更された。ライバルに比べて限られた部分にしか手を加えられなかったもののの、2019年にジェームズ・キーがテクニカルディレクターに就任して以降、マクラーレンは向上し続けているので今季のメルセデスパワーユニットのパッケージは非常に興味深い。

2021年のマクラーレンMCL35 M
2021年のマクラーレンMCL35 M写真:ロイター/アフロ

ランキング3位争いが今年も面白い

パワーユニットのスイッチを行ったマクラーレンだが、バーレーンで行われた3日間のテストでは順調に周回を重ねた。ベストタイムで言うとダニエル・リカルドが1分30秒144で7番手、ランド・ノリスが1分30秒586で14番手。どちらもバーレーンGPの最も柔らかいC4タイヤでマークされたものだ。一発のタイムで言うと決して目立ったものではないが、まずは順調にテストを終えられたことはポジティブな要素と言える。

ランド・ノリス
ランド・ノリス写真:ロイター/アフロ

昨年も激しい戦いだったグリッド中段の争いはさらに激しさを増すと予想されている。マクラーレン・メルセデス、アルピーヌ・ルノー、アストンマーティン・メルセデス、フェラーリ、そして角田も乗るアルファタウリ・ホンダ。世界チャンピオンから新人までがひしめき合う、見どころ満載の戦いとなりそうだ。

そんな中でメルセデスのパワーユニットを得たダニエル・リカルドのパフォーマンスは要注目である。彼の魅力は何と言っても決勝レースでの安定性。2016年は全戦完走、ポイント圏外は僅か1戦だけという素晴らしい仕事ぶりを見せたし、昨年は2度の3位表彰台を含むコンストタントなポイント獲得でドライバーズランキングでは5位を獲得した。

数多くの表彰台を得た2016年のリカルド
数多くの表彰台を得た2016年のリカルド写真:ロイター/アフロ

着実に順位を上げてシングルフィニッシュを果たすリカルドは上昇気流に乗る「マクラーレン」の追い風になることは間違いない。

そして、リカルドのもう一つの魅力はやはり彼の人間性。ひょうきんで常に明るい性格のリカルドのコース外でのパフォーマンスはF1に欠かせない要素だ。近年はちょっと目立つタイミングが少なかったが、「マクラーレン」が昨年以上のポテンシャルを兼ね備えているとすれば、今季もまた激しいアクションと名物のシューイ(シャンパンを靴に入れて飲むオーストラリア人の儀式)が表彰台で見られそうだ。

2020年表彰台でシューイするリカルド
2020年表彰台でシューイするリカルド写真:代表撮影/ロイター/アフロ

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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