トヨタ・ヤリスWRCを社長が自らドライブし、観衆が大興奮!トヨタが切り拓く新しい道。

豊田章男社長(左)【写真:TOKYO AUTO SALON】

それはまさにサプライズだった。幕張メッセ(千葉県)で33万6060人を集めて開催された「東京オートサロン2020」で、1日1回開催された「ラリージャパン」の開催をPRするためのデモ走行イベント。その最終日にトヨタ自動車の豊田章男社長が突然登場し、世界チャンピオンを獲得したWRC(世界ラリー選手権)用のマシン、トヨタ・ヤリスWRCを自らドライブ。プロドライバー顔負けのドーナツターンを披露し、観客を沸かせた。

デモ走行イベントに登場した豊田章男社長(左)とWRCドライバーの勝田貴元(右)【写真:TOKYO AUTO SALON】
デモ走行イベントに登場した豊田章男社長(左)とWRCドライバーの勝田貴元(右)【写真:TOKYO AUTO SALON】

WRカーの迫力に観衆は興奮!

2020年11月19日~21日に愛知県・岐阜県を舞台に開催される「ラリージャパン」。日本では10年ぶりとなるWRCのビッグイベント開催に向けて、母国自動車メーカーとして唯一参戦するトヨタは様々なイベントを「東京オートサロン2020」で展開していた。

トヨタ入りを果たしたセバスチャン・オジェ(右)【写真:TOKYO AUTO SALON】
トヨタ入りを果たしたセバスチャン・オジェ(右)【写真:TOKYO AUTO SALON】

「Toyota Gazoo Racing」のブースでは1月10日(金)にトヨタのWRC活動の体制発表会が行われ、今季よりトヨタに加わる6度の世界チャンピオン、セバスチャン・オジェ(フランス)らトップドライバーたちが来日。トークショーやイベントに多数出演しただけでなく、オジェはトヨタ・ヤリスWRCに乗り込み、タイヤスモークを巻き上げて派手なデモンストレーション走行を披露した。

この会場では「D1グランプリ」のデモンストレーション走行などエクストリームなパフォーマンスが見どころとなっているが、WRCの最高峰マシン(WRカー)のトヨタ・ヤリスWRCの走行は多くの観客が初めて見るもの。巨大なウイングなどの空力パーツは付いているものの、車両のベースはあくまでヤリス(日本名ヴィッツ)。いわゆるコンパクトカーサイズのマシンが驚くほどの旋回性能を見せ、380馬力以上とも言われる1.6Lエンジンが強烈な迫力を持ったものであるとはなかなか想像しにくいものでもある。

ラリーファンの憧れの的、セバスチャン・オジェの走り【写真:TOKYO AUTO SALON】
ラリーファンの憧れの的、セバスチャン・オジェの走り【写真:TOKYO AUTO SALON】

これまではサーキットなどではデモンストレーションを見る機会が何度かあったが、今回の会場は観衆と同じ目線で至近距離を走行するとあって、WRカーの迫力を感じるには最適なシチュエーションだったとも言える。ラリー界のキングであるセバスチャン・オジェ、ラリージャパンに出場する日本人、勝田貴元(かつた・たかもと)はタイヤの限界まで使い切る走りを披露し、観衆から拍手喝采を受けた。

豊田社長の走りに観衆が大興奮!

そして、日本人ラリードライバーの勝田貴元(かつた・たかもと)がドライバーを担当した1月12日(日)のデモ走行には、サプライズで前述のように豊田章男社長の登場があった。勝田が自分自身の走行パートを終えてインタビューを受けているところに、割って入るかのように豊田社長が登場。

豊田章男社長の登場に会場がどよめいた【写真:TOKYO AUTO SALON】
豊田章男社長の登場に会場がどよめいた【写真:TOKYO AUTO SALON】

自分自身もドライブしたいと伝えると、メカニックたちが急遽タイヤを新品に交換し始め、勝田を助手席に乗せ、デモ走行を実施。走り出しからガンガン攻めるドライビングを披露し、プロドライバーと何ら遜色ない迫力ある走りで観衆を大興奮状態へと導いたのだ。

このサプライズ登場はドライバーの勝田は全く聞かされておらず、「僕が一番驚いた。走りはさすがトヨタのマスタードライバーですね」と社長の驚異的なドライビング能力に勝田は舌を巻いた。

凄まじい走りで観衆を大興奮へと導いた豊田社長【写真:TOKYO AUTO SALON】
凄まじい走りで観衆を大興奮へと導いた豊田社長【写真:TOKYO AUTO SALON】

観衆は走行前こそ大人しかったが、勝田の走りに興奮し、さらに豊田社長の凄まじいドライビングで最高潮に。「ラリージャパンを見たくなった人、手をあげてー」の呼びかけに満場一致で全員が手を挙げるほどだった。あのシーンを生で目撃した人は自動車メーカー、トヨタのモータースポーツへの姿勢に心を鷲掴みにされたのではないだろうか? 実況者としてイベントに携わった僕もその一人だ。

勝田貴元(左)を助手席に座らせ、自らステアリングを握った豊田章男社長(右)【写真:TOKYO AUTO SALON】
勝田貴元(左)を助手席に座らせ、自らステアリングを握った豊田章男社長(右)【写真:TOKYO AUTO SALON】

トヨタは2017年からWRC(世界ラリー選手権)に参戦しているが、それは豊田社長と元WRC王者のトミ・マキネン(現チーム代表)の交流から始まった。豊田社長は社長就任前から「モリゾウ」のドライバーネームでニュルブルクリンク24時間レースなどに参戦。マキネンとの交流が始まると、国内のラリーなどにも自ら参戦。サーキット走行、レースやラリー参戦が社長の趣味と揶揄されることも多々あった。

それもそのはず、国を代表する自動車メーカー、つまりは大企業の主人である社長が危険が伴うモータースポーツに参加し、選手として走るなんてことは考えられないことだからだ。今でも豊田社長はあくまでプライベートとして「モリゾウ」の名前でスーパー耐久などのサーキットレースに出場している。

その根底にはトヨタが掲げる「もっといいクルマづくり」というテーマがある。単にメーカーとして最高峰のモータースポーツで頂点を極めるだけでなく、ドライビングやクルマづくり、整備などクルマにまつわるあらゆる要素が凝縮されたモータースポーツに社長自ら率先して参加することは、社員たちにクルマを知り、未来の製品作りに活かして欲しいというメッセージなのだ。

社長が走行を終えた後は社員たちの顔も満面の笑みだった。社長のデモ走行は急遽決まったもので、きっと周りの部下たちは大変だっただろう。しかし、リハーサルも一切無しで、メーカーが作る最高峰のラリーカーをドライブし、観客を沸かせることができる。トヨタの社長はそういう人なのだ。

製品にも活かされ始めたWRC技術

モータースポーツはクルマづくりの大事な要素であるとは言え、時代は自動運転など「CASE」というキーワードが語られる変革の時代である。豊田社長も東京オートサロンの前の1月6日にはラスベガスで開催された世界最大の技術展示会「CES 2020」で未来のモビリティ社会を実証実験する都市「Woven City」を作ると発表してきたばかり。モータースポーツ活動は一見、そういった時代の流れに逆行しているようにも感じる。しかし、新時代の到来を前に、自動車を作る企業として根底にあるものを改めて考え直そうということなのだろう。

注目の的になったGRヤリス(写真:DRAFTING)
注目の的になったGRヤリス(写真:DRAFTING)

ただ、モータースポーツ活動を続けていくにはマーケティングという意味でも売り上げに貢献し、技術面でも製品へのフィードバックが求められる。その答えが、オートサロンの会場で発表された新車「GRヤリス」だ。2月発売の新型ヤリスは5ドアの前輪駆動車(FF)だが、GRヤリスは3ドアで4輪駆動(4WD)のスポーツモデル。この車両はWRCで使用するヤリスWRCの次期モデルのベース車両となる。

「GRヤリス」は東京オートサロンの会場でクルマファンの注目を一手に集め、大きな話題をさらった。今年夏の発売前までラリードライバー、レーシングドライバーらが開発ドライバーとしてダメ出しをしながら、開発作業を続けていくとのこと。ホモロゲーション取得(次期参戦ベース車両の規定台数をクリアする)という目的があるにせよ、今の時代にこういうモータースポーツ直結の4輪駆動車をリリースできることが驚きだ。

GRヤリス 【写真:TOKYO AUTO SALON】
GRヤリス 【写真:TOKYO AUTO SALON】

ラリージャパン開催、セバスチャン・オジェ加入、GRヤリス発売と、今年のトヨタWRC活動が注目を集めるお膳立ては全て整った。今年は夏に東京オリンピックが開催され、モータースポーツへの関心低下が懸念されているが、オリンピックブームが落ち着いた11月、新たなスポーツエンターテイメントのジャンルとして「ラリー」が大きな注目を浴びそうな予感がする。その主役はトヨタだ。

トヨタはこれまでテレビ番組やウェブでの映像配信など、様々な角度でラリー参戦をPRしてきたが、今回のような生で見るデモンストレーション走行は最も人の心を掴み、モータースポーツの魅力を伝えられるものだと思う。ぜひともこういうデモ走行のチャンスをたくさん作って、ラリーの魅力を伝えて欲しいと願う。たった数分の走行で心を鷲掴みにされてしまうのだから。