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鈴鹿8耐の基礎講座(2)〜海外のトップライダーがドリームチームを結成!世界が羨む特別な耐久レース

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
カワサキから参戦するジョナサン・レイ(18年)【写真:MOBILITYLAND】

今年も7月25日(木)〜28日(日)に鈴鹿サーキット(三重県)で伝統の「鈴鹿8耐」(鈴鹿8時間耐久ロードレース)が開催される。近年再び注目が集まり、新規の観客が増加傾向にあるということで、42回大会の開催を前に鈴鹿サーキットのレースアナウンサーでもある筆者が「鈴鹿8耐」を観戦するにあたっての基礎知識を交えながら、今年の見どころを紹介していく。普段、オートバイのレースを見る機会がない自動車レースのファンも含め、初心者の方にぜひ読んでもらいたい。

その第2回は「海外のトップライダーがドリームチームを結成!世界が羨む特別な耐久レース」というテーマに沿って書いていこう。

トップクラスのライダーの競演

鈴鹿8耐には毎年、「MotoGP」「スーパーバイク世界選手権」などの世界選手権のトップカテゴリーから魅力的な選手が参戦し、総合優勝を争う。MotoGPライダーで世界的なカリスマであるヴァレンティーノ・ロッシもかつて鈴鹿8耐に出場し、2001年には優勝も成し遂げた。

過去41回の歴史を振り返ると、数えきれないほどのトップライダーが「鈴鹿8耐」を戦ってきた。その最大の理由はホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキという日本を代表する4大オートバイメーカーのお膝元でのレースであることだ。どのメーカーも国内最大のバイクレースイベント「鈴鹿8耐」で負けたくないから、当然そのための戦力として「MotoGP」や「スーパーバイク世界選手権」のトップライダーを戦力として招集することになる。

ヤマハ、ホンダ、カワサキのトップチームが表彰台の頂点を争った2018年【写真:MOBILITYLAND】
ヤマハ、ホンダ、カワサキのトップチームが表彰台の頂点を争った2018年【写真:MOBILITYLAND】

総合優勝を狙うワークスチーム(ファクトリーチーム)は最新技術の結集である「ワークスマシン」(ファクトリーマシン)を投入するが、たった1戦限りの鈴鹿8耐のために仕立てられた特別なマシンに乗れるのは、相応しい実力を兼ね備えたライダーだけだ。つまりワークスチームはワークスマシンのポテンシャルを最大限に引き出せるかどうか厳しい人選が行われ、チーム編成が決まる。

如実に表れる選手の実力差

ワークスチームをはじめトップチームに乗るライダー達は「鈴鹿8耐」の主役と言える存在である。しかし、トップ争いの中での走りは常にファンの目に晒され、あっと驚くパフォーマンスで会場を沸かせる選手や名声を勝ち取るライダーが居る反面、バトルに負けたライダーや勝てるレースで転倒してしまったライダーには厳しい評価が下ることもある。勝負の世界の明暗が色濃く出るのも、1戦限りの「鈴鹿8耐」だ。

2018年のトップ争い【写真:MOBILITYLAND】
2018年のトップ争い【写真:MOBILITYLAND】

そして、4輪レースに比べると、選手の実力差がタイムや結果となって如実に表れるのも2輪レースの特徴と言える。「鈴鹿8耐」では市販車ベースながら、排気量1000ccで200馬力を超えるエンジンを搭載し、鈴鹿サーキットの最高速が時速300kmを超えるモンスターマシンをライダー達は操って8時間のレースを戦う。とてつもないパワーを持つバイクをコントロールし、性能を最大限に引き出すことができるライダーは限定され、トップチームのライダー達はまさしく実力を評価されてその座を掴んでいる選手達である。

4輪レースではタイヤをワンメイク化(全車同一規則)したレースや、重量や燃料流量など性能調整を行い、意図的にレースを面白くしようとするルールが増えているが、2輪の場合はまだまだ性能調整を行うレースは少ない。「鈴鹿8耐」が属するFIM世界耐久選手権(EWC)に関しては複数のタイヤメーカーが争うマルチメイクの競争があり、バイクも電子制御などの開発競争が行われているため、スピード領域は年々上昇している。

年々進化して速くなるマシンに乗って、ライダー達は数年前のマシンでその領域に行ったら転倒につながる無謀な領域、つまり経験したことがない新たなスピード域でバイクを走らせなければならないのだ。これができるのがトップチームのライダーの凄さと言えるだろう。

近年の鈴鹿8耐最強マシン、ヤマハYZF-R1を走らせる中須賀克行【写真:MOBILITYLAND】
近年の鈴鹿8耐最強マシン、ヤマハYZF-R1を走らせる中須賀克行【写真:MOBILITYLAND】

とはいえ、耐久レースは一人で戦うレースではない。速いライダー3人を招集したとしても、全員の体格が同じくらいだとは限らない。背が高い選手もいれば低い選手もいる。つまりバイクに乗るポジションが異なる場合、互いに譲歩し合いながら1台のバイクをシェアし、それぞれがベストを尽くさなくてはならない難しさが耐久レースにはあるのだ。

速さに直接関わるセッティングの好みもライディングスタイルも3人それぞれ違うので、誰に合わせたバイクにするか、その選手に他の2人がどこまで合わせられるか、互いの協力が耐久レースでは重要な鍵となる。すなわち、チームに対していかに貢献できるかどうか、耐久レースのチーム編成にはライダー各々の人間性も問われると言えるだろう。

世界が羨むドリームチームが見れる

今年も各メーカーのワークスチームは魅力的なライダーを招集して「鈴鹿8耐」を戦う。残念ながら今年はMotoGPクラスのレギュラーライダーの参戦が無い見込みだが、近年では中上貴晶(2018年)、ジャック・ミラー(2017年)、ポル・エスパルガロ(2015年、16年優勝)らが参戦した。MotoGPライダー達は8耐マシンよりも速いスピード領域でレースをしている選手達だけに、即戦力として圧倒的に有力である。

しかし、近年の傾向としては8耐と同じ市販車ベースのマシンで争う最高峰「スーパーバイク世界選手権(WSBK)」のライダー達を起用する例が増えている。仕様は違えど同じ市販車ベースのバイク(=スーパーバイク)に乗ってシーズンを戦うライダー達は、乗り換えもスムーズであるし、特性を熟知したその道のプロである。事実、4連覇中のヤマハワークス「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」は2017年、18年と中須賀克行(全日本JSB1000)、アレックス・ローズ(WSBK)、マイケル・ファン・デル・マーク(WSBK)の国内外のスーパーバイクライダー3人トリオを今年も形成し、同一ライダーによる3連覇を狙っている。

スーパーバイク世界選手権で走るヤマハのローズ(左)とファン・デル・マーク(右)【写真:ヤマハ発動機】
スーパーバイク世界選手権で走るヤマハのローズ(左)とファン・デル・マーク(右)【写真:ヤマハ発動機】

そして、今年からワークス体制となった「Kawasaki Racing Team」はジョナサン・レイ(WSBK)、レオン・ハスラム(WSBK)、トプラック・ラズガットリオーグル(WSBK)というスーパーバイク世界選手権の3人。6月のイタリアでの第7戦ではこの3人で表彰台を独占した。まさに世界最強のスーパーバイクトリオでの参戦である。

カワサキのエース、ジョナサン・レイ
カワサキのエース、ジョナサン・レイ

一方でアプローチが異なるのがホンダで、ワークスチーム「Red Bull Honda」は高橋巧(全日本JSB1000)、清成龍一(WSBK)、ステファン・ブラドル(MotoGPテストライダー)という編成。高橋と清成は共に8耐優勝経験があるが、ブラドルは鈴鹿8耐への出場経験がない。

アプローチは各メーカーワークスで異なるとはいえ、勝てば官軍なのが「鈴鹿8耐」。求められるのは優勝という結果だけだ。普段は世界のトップクラスの選手権でスプリントレースを戦うライダー達が1台のバイクをシェアし、チームプレーで戦うのが「鈴鹿8耐」。日本のファンにとってはずっと当たり前に行われてきた真夏の風物詩だが、世界的に見ればドリームチームの競演。これだけのスター選手が集まる耐久レースは世界中どこにもないのである。

Red Bull HondaのホンダCBR1000RRWをテストするブラドル【写真:MOBILITYLAND】
Red Bull HondaのホンダCBR1000RRWをテストするブラドル【写真:MOBILITYLAND】

経験が戦力となり、速さが道を開く

国内外のトップライダーが集う「鈴鹿8耐」だが、カワサキのラズガットリオーグル、ホンダのブラドルのように8耐初出場のライダーもいる。初出場のライダーの実力値は本当に未知数で、ここがレースの行方を読めないものにする要素でもある。

しかしながら、これまで41回の「鈴鹿8耐」の中で秘めたる可能性を披露して、トップライダーへとのし上がっていったライダーは数え切れないほど居る。ホンダワークス「Red Bull Honda」のエース、高橋巧は11年前の2008年に代役として当時はまだ中堅チームの「HARC-PRO」から出場し、僅か19歳で3位表彰台を獲得。これは当時の最年少表彰台記録となった。翌2009年、高橋巧はまたもや代役で「桜井ホンダ」から出場し、3位表彰台。翌2010年にはレギュラーとして「HARC-PRO」で優勝を飾った。それ以来、彼は常にホンダの国内でのエースとして10年以上に渡って君臨している。

ホンダのエース、高橋巧
ホンダのエース、高橋巧

ヤマハワークス「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」から出場するマイケル・ファン・デル・マークは2013年に当時600ccのスーパースポーツ世界選手権を走るライダーだったが、8耐の戦力として招集され、1000ccのバイクを初経験。「HARC-PRO」から出場し、高橋巧と組んでいきなり優勝。翌2014年も連覇を達成した。デビュー以降、鈴鹿8耐に毎年呼ばれる存在となり、2017年にはヤマハに移籍し、17年、18年と連続優勝。今回、優勝すると合計勝利数が5回となり、ファン・デル・マークは中須賀と共に最多勝利記録(5回:宇川徹)に並ぶことになる。スーパーバイク世界選手権では今季も優勝を飾るヤマハのエースとして活躍中だ。

ヤマハのエースとしてスーパーバイク世界選手権で活躍中のファン・デル・マーク【写真:MOBILITYLAND】
ヤマハのエースとしてスーパーバイク世界選手権で活躍中のファン・デル・マーク【写真:MOBILITYLAND】

また、今やスーパーバイク世界選手権の顔とも言えるジョナサン・レイもホンダのライダーとして8耐に招集され、圧倒的な速さを披露。2012年に「TSR」から出場して8耐優勝を果たしたことで、ライダーとしての実力は誰もが認めるところとなった。そして、2015年にはカワサキにエースとして引き抜かれ、「スーパーバイク世界選手権」で4年連続のチャンピオンに輝いている。2018年の鈴鹿8耐には久しぶりの参戦となったが、トップ10予選で歴代最速タイムとなる2分5秒台をマークしたことも記憶に新しい。

そう、彼らは皆、「鈴鹿8耐」で名前を売り、それぞれのメーカーを代表するトップライダーへと成り上がっていったのだ。「鈴鹿で速いライダーはどこに行っても速い」これはレース業界の動かざる定説。それを証明する最たるレースが「鈴鹿8耐」と言え、今年も8耐ルーキーがあっと驚くパフォーマンスを見せ、一気にスターダムにのしあがっていく様を期待したい。

世界のトップライダーが集う中で、それを上回る衝撃を与えてくれるダイヤの原石を見つけ出すのも「鈴鹿8耐」の楽しみ方の一つ。一度観戦すれば、きっと心を鷲掴みにしてくれるライダーに出会えるはずだ。

鈴鹿8耐公式サイト

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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