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テック21の復刻カラーで5連覇を目指すヤマハ。令和の新時代にあえて原点に戻るのは何故か?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
2019年鈴鹿8耐を戦うヤマハワークスのYZF-R1【写真:ヤマハ発動機】

オートバイレースの「コカ・コーラ鈴鹿8時間耐久ロードレース」(鈴鹿8耐=7月28日決勝)を4連覇中のヤマハ発動機が5月22日(水)、東京都内で今年の体制発表会を実施した。今年もエースライダーを務める中須賀克行(なかすが・かつゆき)らによってアンベールされたマシンにはなんと、往年の「TECH21(テック・ツー・ワン)」のカラーリングが施されていた。

TECH21カラーになったヤマハYZF-R1。ライダーの中須賀克行(左2人目)と吉川和多留監督(右2人目)【写真:ヤマハ発動機】
TECH21カラーになったヤマハYZF-R1。ライダーの中須賀克行(左2人目)と吉川和多留監督(右2人目)【写真:ヤマハ発動機】

TECH21とは?

鈴鹿8耐の全盛期(80年代後半)にバイクと共に青春時代を過ごした50代以上の男性にとって、「TECH21(テック・ツー・ワン)」と「ヤマハ」のオートバイの組み合わせは懐かしさで胸がいっぱいになるものではないだろうか?

ヤマハ発動機は1985年、当時若者たちの間で大ブームとなっていた真夏の耐久レース「鈴鹿8耐」にワークスチーム(=ファクトリーチーム)体制で参戦。その時にメインスポンサーとなったのが、化粧品メーカーの「資生堂」である。「TECH21」とは同社の男性用整髪料などのブランド(現在は存在しない)。

ケニー・ロバーツ、平忠彦という当時の大スターを起用し、資生堂TECH21をメインスポンサーに1985年に参戦したヤマハワークス【写真:ヤマハ発動機】
ケニー・ロバーツ、平忠彦という当時の大スターを起用し、資生堂TECH21をメインスポンサーに1985年に参戦したヤマハワークス【写真:ヤマハ発動機】

国内で圧倒的な知名度とカリスマ性を誇ったライダー、平忠彦(たいら・ただひこ)をイメージキャラクターに起用し、オートバイの走行シーンなどと共に平が「TECH21」の整髪料で髪型を整えるシーンがCMでも盛んに放送されていた。当時の若者や少年たちの間では、オートバイに乗り、「TECH21」でお洒落なヘアスタイルも楽しむというのがカッコイイ男の典型的ライフスタイルだった。

それくらい若者に大きな影響を与えた「TECH21」は1985年から毎年、ヤマハワークスチームのスポンサーを続け、「TECH21・ヤマハ」は鈴鹿8耐の主役級チームとして今も多くのファンの心に刻み込まれている。

資生堂TECH21がメインスポンサーを務めた80年代のヤマハワークスは華やかな存在だった【写真:ヤマハ発動機】
資生堂TECH21がメインスポンサーを務めた80年代のヤマハワークスは華やかな存在だった【写真:ヤマハ発動機】

感情移入し、涙したTECH21の8耐

ブランドとしてのクールさに加えて、「SHISEIDO TECH21 RACING TEAM」のドラマに満ちたレースも若者の心を捉えて離さなかった。

初参戦の1985年はすでに引退していた伝説のグランプリライダー、ケニー・ロバーツが復活し、日本のエース平忠彦のコンビ。コースレコード(歴代最速記録)をマークするスピードでポールポジションを獲得するも、スタートに失敗して最後尾に。しかし、怒涛の追い上げを見せてトップを独走。ホンダワークスを撃破するかに見えたレース終盤、突然、平が駆るヤマハFZR750がホームストレートで息の音を止めた。これは、その後に語り継がれる鈴鹿8耐の名シーンとなった。

1985年、残り30分でマシンをホームストレート停止させた平忠彦。この悲劇的シーンは8耐の人気を決定づけた。【写真:ヤマハ発動機】
1985年、残り30分でマシンをホームストレート停止させた平忠彦。この悲劇的シーンは8耐の人気を決定づけた。【写真:ヤマハ発動機】

1987年はエースライダーの平忠彦が怪我で欠場となり、「SHISEIDO TECH21 RACING TEAM」の監督を務めた。ついに同チームのマーティン・ウィマー/ケビン・マギー組(ヤマハYZF750)が鈴鹿8耐で初優勝。ヤマハにとってもこれが初優勝になった。翌1988年もヤマハが優勝するが、この年はケニー・ロバーツが監督のチーム「ラッキーストライク・チームロバーツ」の優勝。日本のカリスマ、平忠彦はいつ鈴鹿8耐で勝つのか?という所に注目が集まっていくことになる。

そして、1990年、ついにその時はやってきた。バブル絶頂で16万人を超える大観衆が所狭しと鈴鹿サーキットを埋め尽くす中、平忠彦/エディ・ローソン組の「SHISEIDO TECH21 RACING TEAM」はトップを独走して優勝。「TECH21」の顔とも言える平忠彦の悲願の優勝に当時のファンは涙を流した。

1990年、TECH21ヤマハ最後の戦い。平、ローソン組が悲願の優勝【写真:ヤマハ発動機】
1990年、TECH21ヤマハ最後の戦い。平、ローソン組が悲願の優勝【写真:ヤマハ発動機】

「TECH21」カラーのヤマハはまさにバイクブームと鈴鹿8耐、そして日本の経済成長がピークへと向かった時代の象徴であったと言える。その「TECH21」がつけたゼッケンが21番。この数字は今もヤマハのエースナンバーとして引き継がれ、「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」は今年も21番のゼッケンで鈴鹿8耐を戦う。

復刻カラーを資生堂が許可

「SHISEIDO TECH21 RACING TEAM」は1990年をもってオートバイレースの世界から姿を消し、その後、資生堂のブランドとしても消滅することになった。もはや「TECH21」という名前を聞いて、すぐに商品やバイクを思い浮かべられる人は少なくとも40代後半であろう。

今回、ヤマハ発動機は「TECH21」のカラーリングで鈴鹿8耐に挑む計画を立て、資生堂と粘り強く交渉したという。両社の関係にはすでに30年近くのブランクがあり、今や「TECH21」も絶版となっている。そんな中でもヤマハが復刻カラーにこだわった背景には、実は大きな願いがある。

2019年鈴鹿8耐記者発表の様子【写真:ヤマハ発動機】
2019年鈴鹿8耐記者発表の様子【写真:ヤマハ発動機】

こういった復刻カラーは当時をリアルタイムで知る往年のファン(50歳以上)を喜ばせるものであるが、それだけでは現代の最新技術を用いたマシン「YZF-R1」に纏わせる意味はない。ヤマハ発動機の堀越慶太郎部長は近年、鈴鹿8耐には新しいファンが増えていることに着目したという。

鈴鹿8耐は2012年からお客さんがまた増える傾向にあります。若いファンや新しいお客さんが増えていると聞いています。そんな中で、当社としても80年代後半、鈴鹿8耐が一番熱かった時代に青春を過ごした方々にご友人やご家族と一緒に今いちど足を運んでいただきたく、今年のカラーリングを企画しました」と堀越部長。

ライダーこそ、中須賀克行マイケル・ファン・デル・マークアレックス・ロウズという昨年と変わらない優勝トリオのライダー編成だが、鈴鹿8耐全盛期を知る往年のファンと若いファンの接点を作り出すことが「TECH21」カラー復刻の大きな意味だという。

ヤマハ堀越部長は「秋葉原や品川などの駅周辺でマシンを展示し、当時を知る世代の方に昔を思い出して頂きたい。駅にはそのご家族もたくさんいらっしゃると思うので、鈴鹿8耐という歴史ある大会への参戦をプロモーションしていきたいと考えている」と語る。

ヤマハYZF-R1(2019)とヤマハFZR750(1985)【写真:ヤマハ発動機】
ヤマハYZF-R1(2019)とヤマハFZR750(1985)【写真:ヤマハ発動機】

また、今年は「令和元年」。ローマ字表記すると「R1」となり、ヤマハYZF-R1にとって絶好のプロモーション機会でもある。またYZF-R1の誕生から21周年ということもあり、ヤマハのエースナンバー「21」に徹底的にこだわった答えが復刻カラーでの参戦なのだ。ヤマハワークスの原点に戻り、新時代のスタートを切ろうというヤマハの意思の表れでもある。

今年のヤマハYZF-R1は1985年の鈴鹿8耐(ヤマハFZR750)のカラーリングになっているだけでなく、今はフォントが変わっている資生堂のロゴも当時と同じものを使用するコダワリぶり。資生堂はヤマハの熱意に対し、その使用許可を出した。ただ、資生堂が「TECH21」を復活させる計画は今のところなく、あくまで今年限りのカラーリング復刻というスタイルとなる。

ライバルに対抗し、マシンを進化

今回の記者発表にアレックス・ロウズとマイケル・ファン・デル・マークは出席しなかったものの、中須賀克行は「チーム全体のバランスが一番大事だと思っているので、雰囲気を壊すことなく、ライダー2人をしっかり引っ張っていけるように準備を進めたい」と笑顔も覗かせながら、落ち着いて語る。

鈴鹿8耐の前哨戦とも言える4月の全日本JSB1000・鈴鹿ではホンダワークス「Team HRC」に完敗したヤマハだけに、焦りを感じていてもおかしくはないはずだが、中須賀からは不思議と焦りを感じない。

今年の鈴鹿8耐について語る中須賀克行【写真:ヤマハ発動機】
今年の鈴鹿8耐について語る中須賀克行【写真:ヤマハ発動機】

監督を務める吉川和多留(よしかわ・わたる)は「ライバルメーカーの戦闘力が上がってきたので、我々もバイクを見直している。それを本番までにしっかり組み立てて強いヤマハを見せたい。去年よりも1段も2段も我々が上がれれば良いが、そう簡単な領域ではない。今までの戦いを超えた上での戦いとなる」とマシンのブラッシュアップを例年以上に進めていることを示唆した。

雨やセーフティカーの導入などコンディションの変化がレース展開をリセットすることが多い鈴鹿8耐だが、想定される目標周回数は220周とのこと。この目標は昨年もヤマハが掲げていた周回数ではあるが、そこはライダーの安定したタイムと燃費の両立、小さなミスを起こさないことが必須となる。ライバルの突き上げは昨年以上とも言えるだけに、4年連続優勝の王者、ヤマハがどんなレースを見せるか楽しみだ。

ヤマハYZF-R1(2019)【写真:ヤマハ発動機】
ヤマハYZF-R1(2019)【写真:ヤマハ発動機】

「TECH21」(テック・ツー・ワン)という歴史的なカラーリングと共に戦うヤマハが、また新たな伝説の1ページを開くのか。鈴鹿8耐(第42回大会)の決勝レースは2019年7月28日(日)午前11時30分にスタートが切られる。

【YAMAHA FACTORY RACING TEAM 2019年参戦体制】

監督:吉川和多留(元全日本ロードレースチャンピオン)

ライダー:

・中須賀克行(全日本ロードレースJSB1000、MotoGP開発ライダー)

・アレックス・ロウズ(スーパーバイク世界選手権)

・マイケル・ファン・デル・マーク(スーパーバイク世界選手権)

マシン:ヤマハYZF-R1

タイヤ:ブリヂストン

ヤマハ 2019鈴鹿8耐スペシャルサイト

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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