皇帝の息子、ミック・シューマッハのF1デビューは近い?父ミハエルとのキャリア形成の違い。

ミック・シューマッハ(写真:ロイター/アフロ)

7度のF1ワールドチャンピオン、ミハエル・シューマッハの息子であるミック・シューマッハ(ドイツ)が名門「フェラーリ」の育成プログラム=FDA(フェラーリ・ドライバー・アカデミー)に加入することになり、世界中で大きな話題を呼んでいる。2019年、ミック・シューマッハはF1直下のレース「FIA F2」に参戦することになっており、今やF1ドライバーへの最終関門立つ。

ミック・シューマッハ【写真:FIA F2】
ミック・シューマッハ【写真:FIA F2】

ミックの父、ミハエルがF1デビューしてから既に28年。そのデビュー当時を知らないファンも多いだろう。今回は父ミハエルと息子ミックのキャリア形成の違いを見ていこう。

跳ね馬の候補生になったミック

F1史上最も成功したレーシングドライバー、ミハエル・シューマッハと言えば「皇帝」という異名を欲しいままにした「フェラーリ」に所属した時代を思い出す人が多いだろう。息子のミック・シューマッハは今回、父が栄華を極めた名門の一員になることになった。

フェラーリの若手育成プログラム「FDA=Ferrari Driver Academy」のロゴ 【写真:Ferrari】
フェラーリの若手育成プログラム「FDA=Ferrari Driver Academy」のロゴ 【写真:Ferrari】

ただ、FDAの一員となったからといって、「フェラーリ」からのF1デビューが確約されたわけではない。かつてはあまり積極的に若手育成を行っていなかった「フェラーリ」が本格的な育成プログラムとしてFDAを発足したのは2009年と割と最近のこと。以来、多くの若手ドライバーがこのプログラムに参加し、F1傘下のレースで腕を磨いてきたが、本家「フェラーリ」のシートを掴んだのは今季からレギュラーとして跳ね馬に乗るシャルル・ルクレール(モナコ)だけだ。10年で僅かに1人という狭き門である。

ミック・シューマッハはミハエルの息子としては有名だったが、それほど大きな注目を獲得してきたわけではなかった。しかし、風向きが変わったのは2018年の「FIA F3」チャンピオン獲得だ。同レースは若手の登竜門として最も競争の激しいレースであり、プロのレーシングドライバーとしての必要な速さと資質を見極める場になっている。ミックは2018年の中盤から5連勝を含む8勝を飾り、シリーズチャンピオンに。シューマッハの息子でF3チャンピオンと来ればF1パドックはもうミックを無視できなくなり、メルセデスとフェラーリによる獲得合戦が行われていた。

父の面影があるミック・シューマッハ【写真:FIA F2】
父の面影があるミック・シューマッハ【写真:FIA F2】

父はメルセデスの育成ドライバー

今季、めでたくフェラーリのお抱えとなったミックは「FIA F2」に参戦することになっている。一方で、父親のミハエルはそのキャリアを振り返ると息子とは正反対に「メルセデス」の育成ドライバーとしてF1デビューを目指していた時代がある。

メルセデスの秘蔵っ子」というキャッチフレーズでマニアなファンには知られていたF1デビュー前のミハエル・シューマッハだが、当時(1990年前後)の「メルセデス」はF1には参戦しておらず、「ル・マン24時間レース」などの耐久レースにグループC規定のスポーツカーで参戦していた。自動車メーカーの若手育成プログラムというものがまだポピュラーではなかった時代の話である。

メルセデスのグループCカーをドライブするミハエル・シューマッハ【写真:DAIMLER】
メルセデスのグループCカーをドライブするミハエル・シューマッハ【写真:DAIMLER】

自身に潤沢な資金の後ろ盾がなかったミハエルは母国ドイツを代表する自動車メーカー「メルセデス」のプログラムに参加し、プロのレーシングドライバーになるための道を模索。「メルセデス」はこの時代に1955年以来途絶えていたF1活動への復帰を計画しており、1991年にはミハエル・シューマッハカール・ヴェンドリンガーハンイツ・ハラルド・フレンツェンの若手三羽烏をF1と同じ3.5L自然吸気エンジンを搭載した「メルセデスC291」に乗せてSWC(スポーツカー世界選手権)に参戦。F1復帰時に起用するドライバーを育成していた。

「メルセデスの秘蔵っ子」と呼ばれた3人は後にF1デビューを果たしているが、最も特異なルートでF1デビューを果たし、才能を開花させたのがミハエル・シューマッハ。彼は1991年のベルギーGP、ミハエルは新興チーム「ジョーダン」から急遽代役でF1デビュー。ルーキーながらいきなり予選7番手を獲得し、F1関係者に大きな衝撃を与えた。そして、続くイタリアGPではトップチームの一つ「ベネトン」に電撃移籍。「メルセデス」が資金を提供して彼のF1参戦を後押しする一方で、裏ではダイヤの原石に目を付けた人たちの間で激しい駆け引きが行われていた。それほどまでにミハエルはF1デビュー当時から誰もが欲しがった逸材だったのである。

ミハエル・シューマッハが1991年、衝撃のデビューを果たしたマシン、ジョーダン191・フォード
ミハエル・シューマッハが1991年、衝撃のデビューを果たしたマシン、ジョーダン191・フォード

息子は重圧を乗り越えられるか?

父ミハエルと同じように自動車メーカーの育成枠を勝ち取ったミック・シューマッハだが、才能を高く評価された父と比べるのは少々酷かもしれない。

父ミハエルは1990年に参戦2年目でドイツF3チャンピオンに輝き、その年のF3世界一決定戦「マカオGP」でも優勝。後にF1でも激しいライバル関係となるミカ・ハッキネンとのマカオGPでの死闘は今でも語り草になるほどだ。後にシューマッハと共にフェラーリを支えることになるエディ・アーバインミカ・サロもこのレースで上位を争っている。そう、ミハエルは類稀なる才能の持ち主でありながら、後にF1ワールドチャンピオンを争うことになる強烈なライバルが同じ時代に居たのである。ライバルたちに勝ち、SWCやスポット参戦した全日本F3000(現在のスーパーフォーミュラ)でもベテランを凌駕する実力を見せ付けて、彼はF1へとステップアップしていった。

1990年、F1デビュー前にミハエル・シューマッハが優勝したF3マカオGPのマシン「レイナード903・フォルクスワーゲン」
1990年、F1デビュー前にミハエル・シューマッハが優勝したF3マカオGPのマシン「レイナード903・フォルクスワーゲン」

一方でミック・シューマッハはというと、父と同じく参戦2年目となる「FIA F3」でチャンピオンに輝いたものの、彼のライバルとなったドライバーたちの多くは参戦1年目の選手たちだった。そしてF3世界一決定戦「マカオGP」ではこれまた父と同じく2回目の挑戦だったが、優勝ならず。「レッドブル」育成ドライバーのダニエル・ティクトゥム(イギリス)の後塵を拝すことになり、決勝は5位。親子二代続けての「マカオGP」制覇は実現できなかった。

FIA F2のテストに参加するミック・シューマッハ【写真:FIA F2】
FIA F2のテストに参加するミック・シューマッハ【写真:FIA F2】

ミックは今季「FIA F2」にプレマ・レーシングからの参戦が決定している。同チームは昨年ランキング4位のニック・デ・ブリース(オランダ)が3勝を飾っており、上位チームの一つである。F1に帯同するレースのため、ミックにとっては未経験のサーキットが多く、ルーキーには厳しい環境。しかし、「フェラーリ」の育成枠に入ったことでシミュレーターなどで事前準備する環境は充分に与えられることになるだろう。最終関門となるシリーズを勝ち抜くためのお膳立ては整った。

そして、F1に乗るためのスーパーライセンス取得に必要なポイントで言うと、昨年の「FIA F3」王座で既に30点持っているミックは今季の「FIA F2」で10点獲得(ランキング6位以内)で早ければ2020年のF1昇格が可能となる。

F1は今季、多くのチームがドライバーを入れ替え、世代交代が進む。ただ、ルイス・ハミルトンの好敵手となる強烈なライバルは現れておらず、F1は次世代スターを求めている時といえよう。ハミルトンに挑める速さに加えてF1が今最も欲しいのはファンの心を動かすストーリーを持ったドライバーである。2019年、ミック・シューマッハが「FIA F2」でどれだけ父ミハエルを彷彿とさせる走りを見せられるか。これまで以上の注目とプレッシャーの中、ミック・シューマッハの本当の戦いがいよいよ始まる。

【ミック・シューマッハ】

1999年生まれ、19歳。7度の世界王者ミハエル・シューマッハとコリーナ夫人の間に生まれる。レーシングカート時代は苗字を変えてレースに出場。2014年にドイツF4選手権でフォーミュラカーデビュー。2018年、FIA F3でチャンピオンを獲得。父のミハエルは2013年12月末のスキー事故以来、自宅にて療養中とされる。2014年にフォーミュラカーレースにデビューしたミックはサーキットで父の直接指導を受けていない。

【FIA F2】

正式名称:FIAフォーミュラ2 / FIA(国際自動車連盟)が主宰するF1直下のフォーミュラカーレース。車体はダラーラ、エンジンはメカクロームV6ターボ(3.4L)、タイヤはピレリ。全車同一条件で争う。ランキング上位3人はF1昇格に必要なスーパーライセンスポイント40点を満たすことができる。2017年はシャルル・ルクレール(今季フェラーリ)、2018年はジョージ・ラッセル(今季ウィリアムズ)がチャンピオン獲得。 公式サイト(英語)